11.若い王妃とガラスの靴【2016年スケートアメリカ その④】①
記者会見で少しモヤッとしたけれど、ショートの夜はすんなりと眠ることが出来た。ただ、フィギュアスケートがショートとフリーの両方で結果が決まるので、ショートの出来が良かったからと言ってうかうかしていられない。
今日はペアのフリーの後。女子フリー。
私は第2グループ五番滑走になった。最終滑走が、ショート1位の杏奈だ。
会場入りをして、更衣室に向かう途中だった。その人物とばったり会ってしまったのは。
「ミス・ホシザキ。昨日はどうも」
前方にいた金髪のディズニープリンセスが、私に声をかけてきた。口はしだけ釣り上げて。反射的に、会釈しながらディズニー・プリンセス……もとい、ジョアンナ・クローンに挨拶する。礼儀としてこのぐらいはできるけど、あまり二人きりになりたくない相手だ。去年シニアに上がってから彼女の手足はすらりと伸びて、大人びた美貌を纏うようになった。正面から見て、化粧をしなくても誇張なく美しい。
まさか彼女から話し掛けられるとは思っていなかった。昨日隣に座った手前、見かけたら挨拶ぐらいしないとバツが悪いのかもしれないが。
「調子良さそうで何よりよ。羨ましいぐらい」
「……それはどうも」
「でも、あなたには負けないから」
「私だって負けるつもりはないよ」
トリプルアクセルは絶対の武器じゃない。絶対の武器だったら、伊藤みどりの金メダルはもっと多くなっていただろう。スポーツはフェアだ。ショート6位のジョアンナが大逆転して優勝することもあり得るのだ。
ジョアンナはそれだけ言って歩き去っていった。思えば、これが彼女とまともに話した最初だったかもしれない。他に何を言われるか少し怖かったけど、普通だった。もしかして、私が勝手に苦手意識を持っているだけで、案外普通に話せたりするのだろうか。
……一瞬考えて、何故だかそれはないような気がした。
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