「なんで赤信号なのに渡ろうとするんですか?」


「おはずかしいかぎりです」


「いや、普通じゃないんですよね。何か理由とか」


「あ、ええと。その。歩いてて何かにぶつかったりよけたりしたことが、今まで、なくて」


「へ?」


「運が、その、良くて。赤信号とか電柱とか、気にしたことがなかったんです」


「運がいいって、すごいですね」


「普通に歩くって、すごいですね」


「えっ」


「えっ」


「いや、普通に歩いてたら止まったり避けたりしますけど」


「普通。これが普通。すごい」


「あなたがいちばん普通じゃないです」


「え、えへへ。うわっ」


「ベビーカーに轢かれかけるのは二回目ですね。大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございます。えっと、その」


「はい?」


「手を」


「手?」


「繋いで」


「あっごめんなさい。助けた拍子で。つい繋いだままに」


「いえ、その、繋いでいただけると、あの、ありがたいなって」


「もしかして、びびってますか?」


「びびってます。歩くことが、こんなに困難で楽しいことだなんて思わなくて」


「はい。どうぞ」


「ありがとうございます。ひゃあ」


「えっ」


「手、つめたいんですね」


「普通の温度だと思いますけど」


「そういえば」


「はい」


「私はパソコン買いにですけど、あなたはなぜ、お外へ?」


「あ、いや」


「お?」


「えっと。恥ずかしいな」


「どうぞどうぞ。笑ったりしませんから」


「あの。普通の生活がいやになって、なんか、普通じゃないことしようかなって思って。それで」


「え」


「何の意味もなく外に。出ました」


「あ、あはははは」


「笑ってるじゃないですか」


「ごめんなさい。うふふ。普通じゃないことを求めて外に出るって。なんか思春期のJポップみたい」


「おはずかしいかぎりです」


「普通じゃないこと。はい。わたし」


「そう、ですね。たのしかったです」


「そうですか。うれしいです」


「はいストップ」


「あ、赤信号」


「基本的に前は見ないんですね」


「え、えへへ。つい癖で」

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ノーマルとレア 春嵐 @aiot3110

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