03 そして出会う

「あ、ども」


「どうも」


 お隣同士。だからといって、特になんにも関わらない関係。


「最近、越してきたん、ですよね?」


「はい。前住んでたところを追われて」


「追われて?」


「いやなんでもないです。そちらは?」


「ずっとここです。他に移動する気が起きなくて」


「そう、なんですか」


 気まずいエレベータを抜け、外へ。


「うわっ」


 鳥。


「あ、大丈夫です」


「えっ」


 彼の肩に留まる。


「つばめです」


「つばめ」


「いつもいるんてす。ここに」


「へえ。見たことなかったです」


「見たこと、ない?」


「あ、あんまり、外に出ないので」


「今日は、どちらへ」


「パソコンがついに壊れたので、買いに行こっかなって。うわっ」


 車。


「大丈夫ですか?」


「あ、あ、ありがとう、ございます」


「ベビーカーに負けるひと、はじめてみた」


「おはずかしいかぎりです」


「あ、いえいえ。そういう意味では」


「わたし。ずっとこんな感じで。どこにいても、普通じゃないことばかりで。パソコンも」


「いや、普通だと思いますけど」


「普通?」


「ベビーカーにぶつかるとか、鳥が来てびっくりするとか」


「あ、はあ。たしかに」


「僕は永遠に普通ですよ。普通の仕事で普通の人生。退屈です」


「いいなあ」


「普通が、ですか?」


「普通がいちばんですよ。うわっ」


「電柱です」


「ありがとうございます」


「なんか、あの、一緒に行きましょうか?」


「いっいえ。わたしはその、大丈夫なのでうわっ」


「赤信号です」


「ごめんなさい」


「あなた、突撃するの好きなんですね」


「あ、あ、そうだ。普通が退屈なんですよね。助けてくれたお礼。わたしと一緒に、あの家電量販店に。おねがいします」


「お礼?」


「行けばわかります」


「まだ赤信号です」


「ごめんなさい」


「はい。どうぞ」


 家電量販店。入った瞬間。クラッカー。


『おめでとうございます。全店舗合わせて二十万人目のお客様です』


「え」


「ね。私。普通じゃないんです。どうでしたか?」


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