最強の魔法使いは死亡フラグを回避したい

28号(八巻にのは)

最強の魔法使いは死亡フラグを回避したい


「俺、魔法使い辞めるわ」


 そう言った瞬間の、弟子たちのどよめきは凄まじかった。

 何でですかと詰め寄られ、中には病院へ行った方が良いという物もいる。

 だから俺は、大真面目に答えたのだ。


「俺は気づいちまったんだ……。自分が死亡フラグ乱立系キャラだってことに……」


 俺の言葉に、一同はポカンとしている。まあ気持ちはわかる。

 一分前までの俺だったら、今の言葉を聞いてポカンとしたはずだ。


 でも一分前の俺と今の俺は違うのだ。だって思い出してしまったのだ。


 俺は……この世界に異世界転生してしまったということを。

 そして転移前の世界でよく見たアニメで、俺のようなキャラは大抵1クール保たずに死ぬことを。


 だって今俺は、世界最強の魔法使いで、30代も終わりにさしかかっていて、今は少年ジャンプの主人公的性格の15歳の弟子がいる。

 自分で言うのもアレだが無駄に責任感も強くて――でも普段はずぼらで、弟子たちがピンチになると凄まじいパワーを発揮してしまったりする、いわゆる師匠キャラなのだ。

 そしてかつて封印した魔王の力をほんの少しだけ受け継いでしまったりしているのだ。


 これは、絶対、いずれ殺されて力を奪われる奴である。それか洗脳とかされて、アニメの最終ボスになるタイプである。

 そして弟子に「強くなったな……」とか言いながら、死ぬ奴である。

 本格的にまずい。


「じゃああの、そういうことで」


 だから俺は、逃げ出すことにした。

 それまでのキャラ設定や面倒見の良い性格もかなぐり捨てて、弟子もぽいっと捨てて、世界の果てに魔法で瞬間移動した。


 これで俺は、自分勝手で弱虫で情けない駄目魔法使いだ。

 かなり死亡フラグから遠ざかった。良かった。



 ――と、そのときは思っていたのだ。

 少年ジャンプ的な弟子が追いかけてくるまでは。

 そして弟子が、もの凄く可愛い女の子だと気づくまでは俺のフラグは完全に折れたはずだったのである……。




◇◇◇      ◇◇◇




 自分の仕事と責任と弟子たちから逃げ出してから二年。

 雪深い森の中、俺は『怪しい魔法使いのおっさん』として近くの街で薬を売りながらひっそりと暮らしている。

 世俗を離れ、前世の記憶から引っ張り出してきた大好きなラノベをパクリ――いや、文字起こししたものをこっそり出版社に送り、その印税も入ってくるので暮らしはそれなりに裕福だ。意外と人気なので、なかなかの収入なのである。


 だがそんな幸せな生活をぶち壊す存在が、1週間前から我が家には居座っている。


「はい師匠、あーん」


 無駄にでっかいおっぱいを押しつけながら、俺にシチューを食べさせようとしているこの美少女の名はエル。

 かつて俺がポイ捨てしてしまった、あのジャンプ的な熱血少年――いや少女である。正直、再会するまでは彼女が女の子であることを俺は全く気づいていなかった。だから色々とセクハラもしてしまった気がする。死にたい。


 二年の間に色々なところが成長した彼女は、俺を見つけるために旅を続け、ついに先週この地にやってきた。

 そして以来、ずっとこの調子で居座っている。


「あーんはいいから、そろそろ帰れ」

「やです。はい、あーん」

「だから、あーんはいい」

「昔は付き合ってくれたのに」

「あ、あれは……男の子だと思ってたからだ!」


 女子からのあーんだと思うと、受け入れられるわけがない。

 何せ俺は、童貞である。前世からの童貞である。

 前世の俺は顔もスタイルもスペックも高かったのに、童貞であることを口外出来ないばっかりに恋という恋を崩壊させ、三十路超えの魔法使いになってしまった筋金入りである。


「胸も、あたってるし……」

「当ててるんです」

「無自覚に、俺の息子を弄ぶな!」

「師匠、これは無自覚ではありません。わざと、弄んでます」


 そしてあわよくば、既成事実を作ろうとしていますと、エルは真面目な顔で言う。


「俺は君を、そんな破廉恥な子に育てた覚えはありません!!」

「安心してください師匠、破廉恥になったのは自主的にです。師匠とどうしても一緒にいたいので、この二年で色々頑張ったんです」


 言いながら、エルは無理矢理俺の口にシチューとパンをツッコんだ。

 正直、エルの作ったシチューはまずい。でも彼女に食べさせて貰うと、もの凄く幸せな気持ちになってしまう。


 今思えば、昔から俺はエルに世話を焼かれるのが好きだった。弟子はいっぱいいたけれど、他の者たちは俺の高すぎるスペックをどことなく恐れていた。何せ最強の魔法使いにして、魔王の力まで持っているのである。

 俺だって、そんなとんでもない奴とは付き合いたくない。魔力の暴走とか引き起こして、大陸の半分とか半壊させそうだし。


 でもそんな中で、唯一俺に臆さずくっついてきたのがエルだった。

 孤児だった彼女を拾い、魔法の技術はもちろん字の読み書きさえ俺が教えた。

 可愛くなかったと言ったら嘘になる。正直にぶっちゃけると、滅茶苦茶可愛かった。

 エルが裸を見せたがらなかったので女子だとは気づかなかったけれど、「エルが女の子だったら俺はロリコンだなー」なんてこっそり思った事もある。


 だから俺はこの地の果てに逃げた後も、エルが路頭に迷わないよう魔法で財産を彼女に送った。他の弟子たちにも送ったが、エルには俺の秘密の魔導書も託した。そこに書かれた魔法のレシピを売れば、最強の魔法使いであるこの俺の一番弟子として、富だけでなく名声も得られはずだとわかっていたからである。


 なのに彼女は、それを俺を捜すことに使ったらしい。

 そして、この有様である。


「ともかく、帰れ。俺はまだ死にたくない」

「師匠は死にません。あなたほどの魔法使いを殺せる者などこの世界にはいません」

「でも、死亡フラグという物があるんだ! そしてかつての弟子が滅茶苦茶可愛くなって現れるなんて凄いフラグだ。きっとお前に恋とかして、うっかり一夜を共にした翌日、お前は悪者に攫われたりするんだ。そして助けた先で俺は死ぬんだ!」

「悪者って誰ですか……。この世を破滅させようとした魔王は師匠が倒しましたし、おかげで人も魔族も仲良く幸せに暮らしているじゃないですか」

「でも、どこかに恨みを持っているヤツがいるかもしれん!」

「いませんよ。魔王の元関係者だって、酷い上司から解放されたって泣いて喜んでたじゃないですか」

「でもほら、人間の方にいるかもしれない」

「まあ、魔法学院の理事長は怒ってましたよ。急に消えるから、仕事が増えるって」


 でも彼は師匠の親友だし、殺したりはしないでしょうとエルは断言した。


「でも、ここは剣と魔法の世界だし何があるか分からないし……」

「師匠、もの凄く後ろ向きですね」

「そうだ、俺は後ろ向きで情けなくて腰抜けなだめなおっさんなんだ。そんな俺はもうお前の師匠に相応しくないから、帰れ」


 そう言って、俺は椅子の上に体育座りし、ローブを深くかぶる。


「……子供か」


 呆れた声が響き、エルが渋々遠ざかる気配がする。

 それにほっとすると同時に、ほんの少しだけ彼女に対して申し訳ない気持ちになる。


 わざわざこんな場所まで迎えに来てくれた彼女に報いたい気持ちはある。

 でもこの二年で、俺は前以上に前世の記憶を思い出していた。

 ラノベやアニメや映画の知識と死亡フラグの怖さも思い出し、更に臆病になっていた。


「今世では、長生きしたいんだ……」


 そして死ぬなら、誰にも知られない場所でひっそり死にたいのだ。


 自分で言うのもあれだが、前世の俺はそれなりに地位と名誉がある男だった。

 名のある俳優で、結婚は出来なかったがもの凄く人気があったのだ。


 なのにうっかり病気になり、治療の甲斐もなく死んでしまった。

 死に際に見た知人の辛そうな顔は、今も忘れられない。

 ファンから貰った涙で霞んだファンレターの束や、泣きながら投稿してくれた応援動画も忘れられない。


 そしてもう助からないと分かった俺に、みんなが口々に言ったのだ。


「もし次生まれ変わることがあったら、今度こそ長生きしてくださいね」と。


 だから今度は、うっかり死にたくない。老衰で死にたい。

 そして誰かに迷惑を掛けたり、残された者たちが俺の死を悔やむような死にざまは絶対に嫌なのだ。


 でも師匠キャラの死というのは、たいていの場合トラウマになる。特にエルにはトラウマになる。

 彼女が俺の死体に縋り付いて泣くことなど、あってはならない。

 泣かれるくらいならせめて、「大嫌いだ」と罵られた方がずっと良い。

 

 そんな思いとともに膝を抱えたまま、俺はフードの下でこっそりとため息をこぼす。


 そうしているうちに家の扉が開き、閉まった。どうやら、ついにエルが出て行ったらしい。


「これで良かったんだよな」


 自分で言い聞かせながら、俺はフードに手を掛ける。


「隙あり」


 その直後、何だか甘い香りが鼻先で広がり、俺はクラリとよろめく。

 それが魔法の粉だと気づいたときには、俺の意識はやみに飲まれていた。




◇◇◇      ◇◇◇




「ふふっ、ゆうべはお楽しみでしたね」


 どこかで聞いたことのある台詞に釣られて目を開けると、何故だか俺はベッドに寝かされていた。

 それも、全裸だった。


「ふえ?」

「ふふっ、寝ぼけた師匠って可愛い」


 聞こえてくるのは、妙に幸せそうなエルの声である。

 怪訝に思いながら声のする方を見て、そして俺は息を呑む。


「裸ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「もうちょっと、他の反応はないんですか?」

「だっだっだだだだだだだ」

「師匠、深呼吸してください」


 言われるがまま深呼吸したが、そう簡単には落ち着けない。


「な、んなっ、なんで」

「なんでって、この状況を見れば分かるでしょう」


 言われてみると、何だかもの凄く気持ちよかったなぁという感覚だけが、身体には残っている。


「師匠、ベッドの上では意外に野獣なんですね」

「や、ややややや」

「まあ嗅がせた薬のせいかもしれませんけど、師匠がしてくれる『あんなこと』や『こんなこと』は全部気持ちよかったです」


 頬を赤らめ、エルがもじもじしながら俺にしなだれかかってくる。


「薬って、お前まさか……」

「聞き分けの悪い師匠がいけないんですよ? だから、多少強引な方法をとったんです」

「多少じゃないだろ!」

「多少ですよ。今のところ、薬使っただけですし」

「い、今の……ところ?」

「あと少しで師匠に掛けたムフフな魔法も完成するんです。そうすれば今度こそずっと一緒ですよ」


 何だか、死亡フラグとは別のフラグが立っている。言いようのない不安を覚え、俺は自分の身体を探り愕然とした。


「せ、性奴隷にする魔法じゃねぇか!!!」

「ふふっ、これでエルと師匠は永遠に一緒ですね」

「お前ヤンデレか! ヤンデレだな! 俺を殺すのはお前だったんだな!」

「ヤンデレが何だかは分かりませんけど、殺すなんてとんでもない。むしろ師匠のいう『フラグ』を折るためにかけた魔法ですよ?」


 言いながら、エルはそこで得意げに胸を張る。

 でも一瞬、彼女の表情がほんの少しだけ寂しく歪んだように見えた。


「師匠がいなくなってから、私『死亡フラグ』について勉強したんです。師匠の他にもその言葉を使う人がいたから事情を聞いて、前世の記憶がある人が良く口にする台詞だって知って……」


 そこで言葉をきって、エルは笑う。

 声は明るくしているけど、その顔はやっぱり寂しげで、どこか無理をするような痛々しい笑い方だった。


「前世持ちのひとに沢山お話を聞いたら、確かに師匠が怖がるのも無理はないって思いました。だから私が側にいない方が師匠は幸せに長生きできるかもって思って一度は諦めようとしたんです」

「ならなんで……」

「師匠は私の一番大切な人だから、どうしても諦めきれなかったんです」


 ごめんなさいと、はさまれた謝罪に俺は心苦しくなる。

 

「だから私、師匠の死亡フラグにならないように、ジャンプ系少年キャラは返上したんです。体つきも魔法で変えて、いやらしいこといっぱい覚えて尻軽キャラになって迫れば、死亡フラグじゃなくて恋愛フラグのほうが立つかもしれないし……」

「だから、お前は薬で俺を……」

「それだけじゃ師匠が不安がると思ったので、師匠に気がある女の子も実は見つけてあって……。そういう子たちに囲まれたら師匠キャラじゃなくて駄目な主人公キャラになれるんでしょう? そうしたら、もう死なずに済むし師匠ともずっと一緒にいてもいいでしょう?」


 早口で捲し立てるエルは必死だった。

 同時に、俺は彼女に何も言わず逃げ出してしまったことを死ぬほど後悔した。

 確かにこの地に来たことで、死亡フラグは折れたかもしれない。でも結局また、俺は大事な人を苦しめてしまっていたのだ。


「師匠の運命は私が変えるから、側にいさせてください。ハーレム要員でも、お色気担当のウザキャラポジションでもいいんです。ただ、師匠と毎日会えれば私はそれで満足なんです」


 俺の腕をぎゅっと握り締めながら訴える姿を見ていたら、俺はもう限界だった。

 素早く呪文を唱え、俺は彼女が自分にかけたという魔法を強制的に解く。


 すると彼女の身体は二年前とさほど変わらぬ、細くて小柄なものへと戻る。

 むしろ昔より少し痩せたかも知れない。その事実に、俺は打ちのめされた。


「魔法を解いたって事は、お色気担当すら駄目って事ですか?」

「違う。俺はエルにお色気なんて求めてない」


 小さな胸を抑えるエルの肩を抱き寄せ、俺は彼女の後頭部にそっと口づけを落とす。

 かつて師と弟子として暮らしていた頃、こうされるとエルは喜んでいた。あの当時のことを思い出し、小さな身体を大事に抱き締める。


「お前を一人にして本当にすまない。これからは一緒にいるから、もう二度とこんなことはしなくていい」

「でも師匠、前におっぱいが好きだって言ってたし、私が頑張れば死亡フラグだって……」

「確かにおっぱいは好きだが、エルはそのままの方が良い。それに死亡フラグは回避したいが、そのために沢山の女の子にちやほやされるのはいやだ」

「本当に?」

「一緒にいるなら、エルだけでいい。それに破天荒なお前と一緒なら、死亡フラグも立たない気もするしな」


 言いながら、俺はエルに魔法で服を着せる。

 

「あと、さっきはヤンデレとか、酷いことを言ってすまん。それにその、俺がふがいないばかりにお前の身体を……」

「それは良いんです! むしろあの、師匠としたかったし、そのために色々勉強したし」

「勉強って、まさか誰かと……」

「違います! 師匠を捜す旅すがらでエッチな本をいっぱい買って勉強したんです!」


 あまりに可愛らしい勉強に、俺はほっとすると同時に思わず笑ってしまう。


「あと前世の記憶がある人から、男の人が大好きな『えっちなびでお』の知識もらって、今日のために作戦を練りました」

「色々言いたいことはあるが、俺のために誰かとしたんじゃないと聞いてほっとした。もしそんなことをしてたら、むしろ自分で自分を殺したくなっただろう」

「それは絶対駄目です! 私は、師匠の死亡フラグを折りに来たのに!」


 そう言って縋り付かれ、俺は慌てて「もしものはなしだ」と彼女を宥める。


「お前は無事フラグを折ったよ。こんなぶっ飛んだ展開のあとで、誰かに殺されることはまずないだろう」

「本当に?」

「なんかもう、この展開はどう見てもギャグ漫画だしな。もしくはラブコメ漫画だ」

「ラブコメ、私大好きです。師匠とラブコメしたいです!」


 どうやらエルは、前世の世界のエンタメに相当詳しくなっているようだ。

 だからこそハーレムだお色気だと言い出したのだろう。


「ラブコメだとしても、今後は健全にしてくれ。いきなりR指定な展開は勘弁だ」

「私とするの、いやですか?」


 しゅんとするエルが可愛くて、自分で否定したR指定な展開に突入しそうになったが、俺は何とかそれを堪える。

 この二年の間ずっと彼女を悲しませていたと知った今、安易に手を出すことは躊躇われた。


 だって俺がすべきなのは彼女への償いだ。

 置き去りにし、二年も寂しく苦しい思いをしてしまった彼女に応えることだ。

 だから俺は覚悟を持って、もう一度エルの身体を抱き締めなおす。


「薬の勢いでするようなことはもうしたくない。それに、処女を奪った相手のことは大事にしたいと……思うし……」

「それって、もしかして責任をとってくれるって事ですか!?」

「そ、そりゃとるだろ」

「言いましたね。明言しましたね。バッチリ聞きましたからね」


 突然、エルの声が妙に弾む。

 それを怪訝に思った直後、彼女の手が俺の下腹部に触れた。

 途端に雷が落ちたような衝撃が走り、俺はベッドから転がり落ちた。

 そのときになって、俺はエルに性奴隷の魔法を掛けられていたことを思い出した。相手を性奴隷にする魔法は、かけられた者がかけた術者に永遠の従属を誓うことで成立する。

 そして今の発言は、従属を誓ったことに等しい。


「やったー! これで、師匠は一生私の奴隷です!」


 無邪気に大喜びするエルの声を聞きながら、俺は思わず手で顔を覆う。


「そういう責任の取り方は想像してなかった……」

「安心してください。むやみやたらに欲情させたりはしませんから」

「絶対だ、絶対だぞ!!」

「大丈夫ですよ。かけたは良いけど、その魔法のこと私よく知りませんし」

「おい!!」

「だからしたくても出来ないというか、ともかく大丈夫です」


 どこが大丈夫なのかさっぱり分からないが、「やったーやったー」と喜ぶエルを見ていると文句が口から出てこない。


 それにこの二年間の彼女の苦悩と努力は、自分が性奴隷に落ちるくらいで帳消しにできるものではないだろう。

 見た限り俺が本気になれば魔法は消せる気がしたが、新しいつながりを得たことでエルが安心できるならまあこのままでもアリかなとも思う。


「じゃあ、今日からは私のことご主人様って呼んで下さいね」

「おい」

「ははっ、冗談ですよ! 師匠は私の師匠ですし、むしろ私がいっぱいご奉仕しますから」


 ご奉仕、という言葉が聞こえた瞬間、俺の身体が明らかにおかしくなる。

 どうやら俺にかけられた性奴隷魔法は、ちょっとエッチな単語に反応するタイプらしい。


「ご、ご奉仕は禁止だ」

「どうしてですか? 私のご奉仕いやですか?」

「だから禁止ぃぃぃぃぃぃぃ」


 叫んだのに、おもしろかったエルはその単語を更に3回も口にした。

 そのせいで俺は身体を静めるために全裸で家の外に飛び出し、頭から雪の中にツッコむ羽目になった。


「どうせツッコむなら私にすれば良いのに」


 などと下ネタを言い出すエルに「女の子がそんなこと言っちゃいけません!」と言いつつ、俺は雪の中で呼吸を整える。


 あまりに無様だ。こんな姿、前世の俺のファンが見たら絶対泣く。

 それか薄い本にされる。


「やっぱり師匠は、私とするのやですか?」


 雪に埋もれた俺の側にしゃがみ込み、エルが尋ねる。


「大事にしたいって…言っただろ……。野獣みたいに襲いたくない」

「野獣だったけど、昨日は優しかったですよ?」


 だからもう一回しましょうよとお尻をつんつん突かれながら、俺は最強の魔法使いとしての意地とプライドをかけてムラムラを我慢した。


「この熱が収まったら今回のことを改めて謝罪して、それから結婚を申し込む。だからそれまでは待て……」

「えっ!? 師匠、そこまで真面目に責任取るつもりだったんですか!?」

「当たり前だろう」


 断言すれば、エルがそこで真っ赤になる。


「可愛い顔しない!!! ムラムラするだろう!」

「だって、また弟子にしてくれるとかそういう意味なのかと……」

「お前はそれでいいのか?」

「そ、それは……。だって、私お色気担当の当て馬キャラになる気満々だったし……」

「お色気は却下だと言っただろ。それにさっき言ってた女の子たちとやらも絶対呼ぶなよ。俺はエルと、サシでいちゃちゃしたい!」

「呼びません。……もしできるなら、私も師匠を独占したいです」

「じゃあまずは、その呼び方やめろ。俺は、恋人や妻からは名前で呼ばれたい派だ」


 全裸で何を言っているのかと呆れられそうだが、大事なことなので主張しておく。

 それから俺は雪から顔を上げ、真っ赤になったエルの顔を見る。

 散々いやらしい言葉や下ネタを連発しておきながら、妙なところで初心で遠慮がちなエルはむちゃくちゃ可愛かった。


「イ、イゼルバート……師匠?」

「師匠はいらないが、まあ良いだろう」


 ようやく鎮まり始めた身体に魔法で服を纏い、俺はエルの小さな身体を抱き寄せる。


「でも、本当に良いんですか? 結婚したら、それが死亡フラグになるんじゃ……」

「大丈夫だろう。妻に性奴隷の魔法をかけられた師匠キャラがでてくるアニメや漫画は見たことがない」


 ギャグアニメならあるかもしれないが、少なくとも少年漫画的なものではまずいない。ロボット物でもいない。刑事ドラマとかでもまずない。だから大丈夫だろう。


「フラグを折るためにも、結婚してくれるか?」

「わ、私で良ければもちろんです!」

「ありがとう。二年も寂しくさせてしまった分、これからは師匠としても夫としてもエルを幸せにする」


 小さな弟子を泣かせないようにと誓いながら、俺は柔らかな唇にそっと口づける。


 その途端魔法が発動してまた雪の中に突っ込むことになったが、それを見たエルが笑ってくれるなら、このエッチな魔法に翻弄されるのも悪くないなと俺は思い始めていた。




最強の魔法使いは死亡フラグを回避したい【END】

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最強の魔法使いは死亡フラグを回避したい 28号(八巻にのは) @28gogo

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