第18話 ストーカーの正体



 背後からつけてくる男。

 オババ、私が止めるのも聞かずにトコトコと向かって行く。


「オババさま!」


 危険を感じて、私は必死で止めたんだけど、そこはオババだから。

 いっつもそうなんだ、白黒つけなきゃ気が済まないから。


 以前もね、ていうか未来の話だから、450年後にね。

 私がちょっとしたことで、曖昧なことを言った。


 それは、『はっきりしないこと』は優しさかっていう論争だった。


 え? イミフだって。

 まあ、そもそも意味不明な話だったんだ。


 従姉妹いとこの結婚にさいしてだけど。オババにとっては実妹の一人娘のことで。私的にはギリ従姉妹。


「結婚するのか、しないのか、はっきりさせた方がいい」というオババと。

「いや、あの従姉妹いとこには、それ荷が重いかと」

「では、いつまでもグズグズしてて良いのか」

「あいや、そこは白黒つけずに、流れに沿って」


 とまあ、読んでるあなたには、訳がわからない論争があったんだ。


 この物語、明智が終わったら書くから。オババと私が現代に戻った時の話なんだけどね。


 ともかく発端は結婚するつもりかどうか、はっきりしない相手の男が悪かった。でも、私の経験から言えば、男性って、なかなか『結婚』を明言できない。


 結婚に対して女性より慎重なことが多い。結婚して、養うとか、責任とかいう意味で、現代でもまだまだ負担が大きいからだろう。


 だから、優柔不断な状況になった姪っ子に、はっきりさせよとオババが問い詰め、私は止めた。ここは、ちょっと様子見で行こうと。


 オババは常に、白黒はっきりと物事を決める。

 まさに、白黒女。


 だから、背後からストーカーまがいに追ってくる男に向かってしまった。


「なにか用ですか?」


 迫ったきたオババに、男は顔を隠していたわりに、案外とあっさりと編笠をあげた。


「ああ、そなたか。覚えておるぞ、いっとき私の側女だったオナゴだな」と、男は悪びれもせずに笑った。

「あ、あなたは」


 さすがのオババも驚いてる。

 私だって、唖然とした。


 なんと、そこにいたのは明智光秀。いや、光秀の身体に入った徳川家光。もうね、これは、アワアワアワって驚くしかなかった。

 あの家光秀が、供も連れずに一人でいる。


 いや、いちゃいかんでしょう。

 あんたには、怒涛の『中国大返し』中の羽柴秀吉と戦う義務があって、向こうは必死に走ってるんだから、少しは敬意を持って出迎えてほしい。


 大事でしょ。

 現代の男だって、結婚に責任を感じてるんだから、ここは殿だって、自分のしでかしたことに責任もってほしい。


 コンマ1秒でそんな思いがぐるぐるした。


 もう、頭のなかがぐちゃぐちゃで。


「ど、どうしてここに」

「いやな。本能寺の変はこなしたから、もう用はないであろう」

「それで、ま、まさか」

「ああ、こっそり城を抜けて来た」


 私たちの会話にトミが驚いていた。なにか言葉をかけようとするトミをオババと私が手で制した。


「それ、嘘だと言って」

「まあ、これから光秀は死ぬだけだ。どうせ、今頃、秀吉とかが戻ろうとしているであろう」

「しかし、しかし」

「そなたらは、どこへ向かう。九兵衛が祖父のところへ向かうとか言うておったが」

「ま、そうですが」

「では、同道どうどういたそう。祖父、神君家康公には、ぜひとも生き延びてもらわねばならん」

「あ、あの……」


 私は言葉を失った。


 ま、まさかの再びのバックれ!


 家光秀、明智光秀をバックれた。いったい、何を考えとるんじゃ〜〜〜!

 さあ、とっとと坂本城へ戻って、丁重に羽柴秀吉を迎え入れ、盛大に負けてこんかい。このダメ、優柔不断のアンニュイ家光秀!


(つづく)


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