第16話 英雄あらわる



 坂本城の正門、私とオババが困っているのを見て、トミは近くを探ってくると離れた。


「いや、もう、困ってるんで、ここは一回、キャラ崩壊するしかないかも」

「なんじゃ、それは」と、オババ。

「いや、坂本城の警戒がすごいから。九兵衛に会いたくても方法が見つからないから、これは、最後の禁じ手で」

「禁じ手がキャラ崩壊って、イミフ意味不明だが」


 オババの顔が皮肉に歪んでて、いや、そこ私に責められても、私の責任じゃないから。


「いや、この続き、どうしていいか。そこんとこを作者も考えてて、いろいろと。だから場をつないで欲しいと思ってるからと」

「あのなぁ。登場人物じゃなく、作者がキャラ崩壊してるって話か、これは」

「え〜〜と、アメが作者の心を代弁させていただければ、この物語も通算で、すでに132話ほど。そろそろネタがつきてきて……。正門を突破する方法が見つからないんであります。ラップで脅かす手は使った。ラクビーのハカダンスも使った。ほかに使えるもんがないと」

「それで困った挙句のキャラ崩壊」

「オババ、ご明察!」


 その瞬間!

 オババ、足をひろげて仁王立ちした。

 背後にある琵琶湖から風が吹き、パタパタとオババの着物をはためかせている。


 これぞ、『英雄あらわる』のパターン。

 そこには、名だたる戦闘を戦いぬいた英雄がいた。

 そうだ、オババ。

 この際、このまま、ひとり槍を持って門番を串刺して、


 走れ! 走るんだ!


「アホか。何を書いとる」

「だ、だから。さっき作者の代弁をいたしましたように、キャラ崩壊の方向で」

「それで、なぜ、ここで英雄なんだ。なぜ、私が着物をはためかせて、『これぞ、英雄あらわるパターン』じゃ。キャラ崩壊で、英雄にステータスアップして、どうする」

「ついでに、オババの攻撃力とHP(体力値)など書いておけば、もう、世界はロールプレイングゲーム。魔王に立ち向かう勇者」

「キャラ崩壊どころか、物語が崩壊しとるわ」


   :

   :

   :


 す、すみません。

 もう一回……。

 最初から、やり直します。


   :

   :


 オババ、足をひろげて仁王立ちした。

 背後にある琵琶湖から風が吹き、パタパタとオババの着物をはためかせている。


「それで」

「私が仁王立ちして、こっからどうするのだ」

「にらめと!」

「へ?」

「なにをにらむんじゃ」

「門であります。え? 違う? 門じゃなく、門番? あ、あのオババ、そこで門番をにらんでください」

「で、誰と話してる」

「先ほどから、作者と」

「まあ、よいわ。それで、そのアホは、次に何をしろと」

「にらんでいれば、道が開ける……、そうであります」

「ま、まさか。あのアホ、また、そこでエタって、数ヶ月、坂本城の門番をにらんだまま、ほっとくつもりじゃないよね」

「それは、あの。自信がないそうであります」


   :

   :

   :


 す、すみません。

 もう一回……。

 最初から、やり直します。


   :

   :


「もう大丈夫だそうです」

「なにが?」

「ここまで書けば、さすがの読者の方々も、正門から九兵衛がでてくるという、見事なご都合主義の禁じ手でも、かわいそうになって許す展開かと。そう言うております」

「つまりだ。ふたりに会う方法が見つからんから、偶然、門から、九兵衛を出したかったけど。素直にだしたら、きっとご都合主義とか、禁じ手とか、批判がくると思われ、作者としての窮状を1000文字も使って書いた、と、そう言いたいのか」

「詳細な説明、ありがとうございます。まさしくそうであります。オババさま、さすがでございます。よっ、年の甲!」




(伏して、伏してスライディング土下座)


 ……というわけで、



 坂本城の正門から九兵衛が、ちょうどいい具合に出てきた。


(つづく)


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