第12話 本能寺の変、いまだ当日:作戦変更で岡崎城



 私たちは森のなかで、どう進むかで争った。

 いや、本来の関係性を思いだしたのだ。


 オババは姑、私は嫁。


 姑が右といえば、嫁は左。これが本来の姿であって、ここのところ、あまりに世界がカオスでお互いに立ち位置を忘れていた。


 アカン、むっちゃアカンやつだ。

 全国の嫁同士諸君、アメ、一時的に心を失っていた。


 うっし、いくぞ、姑に負けちゃならんわ。

 でもね、危機のときのオババで、むっちゃ頼りになるんです。嫁の矜持を忘れて言うけど。


 ともかく、散々、お互いに言い合って、同じ会話が堂々巡りした3巡目。どっちも譲らないこと山のごとし。


「この方向音痴がどうやって、ピンポイントで家康に会える」

「会えるからです!」

「その根拠は」

「だから、あ・え・る・から!!」


……。


「まあまあまあ」と、ついにトミが間に入って来た。


 オババが、なぜか半腰になった。まさか、踊る気か、ラクビーのハカダンスで威嚇するつもりか?

 で、わたし、半腰で対抗した。


 いや、対面で見合ったふたり。

 ハカダンスというより、相撲だ。


 その体制のまま、オババが叫んだ。


「ショートカットじゃ」

「え、ショートカットって」

「ようは家康に会えばいいんだろうが。ならば、岡崎城まで行けばよいのだ。それなら、時間を気にせんでもよい。あと何日で秀吉はくる」

「10日」

「余裕じゃないか。岡崎城まで、数日の距離だろう」

「家康は3日から4日で岡崎城に到着したから。遅くとも6月6日までにはついてます」

「では、途中迷ったにしても、秀吉の到着前には」

「いや、さすがに10日は迷いすぎだから、もっと早くに岡崎城につけるかと」

「そこらへんで、大きな期待をすることはやめておる。期限は10日。その間に行く」

「ともかく、我が作戦を褒めてもらって良かったです」

「なんども、言うが。褒めちゃおらん」


 ともかく、岡崎城まで歩く。

 そこは決まった。徳川家康一行に合流できたら、水戸黄門よろしく家光秀からもらった印籠を見せて庇護ひごをこう。


 シンプルすぎる作戦なわけで。


 4人と赤児は出立した。


「見事に単純な作戦だな」と、オババが言った。

「お褒めの言葉、いただきました」

「アメよ」

「は!」

「何回目でわかるんじゃ、いい加減、気づけ。褒めちゃおらんわ!」


 6月2日、お昼どき。

 私たちは旅装を整え、屋敷を出発した。

「明智光秀の謀反、信長死す」の情報は、まだ、亀山城下には届いてなく、普段通りの生活が営まれていた。


 屋敷の使用人たちを解雇して金を与え、私たちが出立しても、とくに目立つことはなかった。


 道順としては、京都方面を突っ切り、そこから甲賀の里、伊賀の里を通ると近道なのだが、しかし、途中は一揆勢や落ち武者も多い。


 織田信長が整備した安土城から京都への道。女と赤ん坊で道中を乗り切れるだろうか。


 光秀の謀反が徐々に公になり、庶民レベルでもこれから大騒ぎになるにちがいないのに。


「また、戦乱か」と、騒然とするはずなのに。

 私たちは、よっこらしょって出発した。


(つづく)


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