第11話 本能寺のまだ当日:スマホがない


 戦国時代。車がない、そりゃ、しかたないけど。スマホがないからナビもない。まだ、仕方ないかもで、ここは、すませておく。


 で、日本地図もない。この辺りから頭を抱えたい。

 そして、ここ、いちばん重要。

 国道がないし、なんと、道路標識がない!!


 まあ、安土から京都までは、一里塚があることはあったんだけど。


 織田信長がすごいところってね。

 全く道路標識もない世界で、1570年に一里塚(約4キロ)を作ったことなんだ。いま、この瞬間にも、本能寺で殺されてる人なんだけど。


 明智光秀よ、お主の殺害している相手って、そういう男だったんだよ。しかしだ、現代人にとっちゃ、そんな一里塚、あってないようなもの。特に、アメには意味がない。


 だって、4キロごとにある石塚と松の木なんて、自慢じゃないが、この方向音痴になんの役に立つって話だ。


 ナビがあってさえ間違えるんだよ。


 一方通行とか、駐車禁止とか、そんな標識はなくていいけど。いっそない方がスガスガしいけど。


 周囲をよく知る道案内の人がいないと歩けない世界なんて、想像もできない。

 この時の私の狼狽を、一度、地図で確認するよろし。

 亀山と京都と大阪の枚方の位置を。これを地図なしでピンポイントの時間に家康に会うって、スマホを持って待ち合わせてたって、会えないことがあった私がだよ。


 さて、北か南かって、知りたいとき、あなたならどうする?


 まず、太陽の位置を調べる?

 いや、今は梅雨時だから。

 どんよりと雲がかかっていて、太陽、どっこにも見えない!!


 ま、もう、こっからは自分語りでありますが。アメ、先天的方向音痴という障害を持って生まれた。

 たとえ太陽が見えてても間違えるから。東西南北、無理だから。東西南北と右左の関係性もわかってない。


 現在の位置からいえば、あっちが京都でこっちが枚方……、のはず。

 おほほほ、こんな説明をするやつなんだ。


 タクシーの運転手に向かって、家の方向を「私の家のあるところ」って説明するやつだよ。


 もう、行けたら、それこそ奇跡だ。


 で、どうする。

 つまりだ。われら、四人と赤ちゃん。


 亀山城下で、人々が明智光秀の謀反を知ったとき、領民やら、近辺の土豪の侍たちがどう動くか。わかっていることは、本能寺の変後、明智光秀が味方を頼んでも、どの戦国武将も動かなかったんだ。様子見してた。


 そして、もうすぐ羽柴秀吉が驚異的な速度にこっちに戻ってくるはずだし。


 まずいんです。

 非常に、まずいんです。


 いや、行くべき場所は知っている。大阪の枚方だよ。


 6月2日の午後すぎという、ピンポイントの時間に到着しろって。


 いや、山ん中で、思わず叫んだ。

 周囲、木ばかりだから。

 樹木の間の獣道。


 両手を曲げて空に向け、大声で叫んだ。


「どっちへ、向かうんだあぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!」


 自分の声がこだまになって返ってきた。

 虚しい……。


(つづく)


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