第17話 またまた、今はいつ?



「さあ〜〜て、さて」と、オババ、なんか嬉しそう。

「嬉しそうですね」

「いや、今回は何年に送られたかと思うとな。道端で捨てられて、ねているより、よかろう」

「何年って、そもそも、捨てられたって。あれはですね、オババさま……。オババが明智光秀の尻をけっとばすという暴挙に及んだからで。あんなことしなけりゃ、今頃、光秀の側室として贅沢三昧」

「え?」っと、転がっていたマサが青ざめた。

「オカカ、蹴っ飛ばすって、お、お、お殿、お、うんにゃあ、あ、Q;Xxっxと」


 マサだって、びっくりして言葉になってない。


 そうなのだ。この姑、あろうことか、織田信長に向かって光秀を蹴り飛ばしたんだ。なんてことしてくれた。おかげでゲームでいえば、また『最初に戻る』じゃないか。


 オババ、チチチって顔してる。


「つまらん、女子おなごだ」

「どういう意味ですか」

贅沢ぜいたくなんざ、現代で思いっきりしたろうが」

「現代って、普通の庶民でしたが、なにかっ」

「それが贅沢ぜいたくだと言うんだ。この時代の殿様ごときの贅沢、山海の珍味などといっても、そこらへんで取れる野菜やら、せいぜい魚を焼いたり煮たりくらいなもんだ。そこに塩か味噌で味付けって、殿様でそれだ」

「ま、そりゃ、イタリアンとか食べれませんけど。フレンチとかも。中華料理も、ああ、カレー味ポテトチップス食べたい」

「あんたはカレー味ポテチ派かっ」


 そこ、今、そこ?


「庶民レベルなら、まずい雑穀米のかゆを、2食がやっとだ。私たちの時代の庶民をみろ。食事といえばデザートまである。その上に夏はエアコンで涼しく、冬は暖房がきいてる。この時代の殿様なんざ、暑いも寒いも耐えとる、どっちが金持ちで贅沢だ」

「オババ、いまは歴史上、何年でしょうね」

「しれっと、話題を変えたな。で、そこに尻餅ついてる、マサ」


 目をギョロつかせて床にすわりこんでるマサ。ボサボサの頭をかいていた。


「あ、あの、またまた、おかしくなったんかぁ。オカカ」

「ま、そういうことだ。今はいつだ」

「それや。また、それや。何年か前に聞いたことあるんやが。そして、そういうこと言い出すと、ふたりとも消えて、金もって帰ってくるや」

「そうか、前も金を持ってきたか」

「金、なかったけんやが、えれえ立派な金のかかる着物を着てたやろ。それ売って、随分と」

「ほお、それは良かったな、マサ。で、それから、何回、冬がきた」

「さ、3回」

「季節は?」

「春」

「ゲッ」


 思わず、私は叫んでいた。


「オババ、こりゃ、まずい」

「どうした」

「前は1579年、それから3年といえば……、アワアワアワ」

「泡吹いてる場合か、普通に足し算すればいいだけだろう。1582年だ」

「いや、アワアワ、そっちじゃない」

「だから、なんの、アワアワ」

「1582年春と言えば!」

「春だ!」

「ちゃうわ。ほ、ほ、ほん」

「ホンジャマカ」


 オババ、古ッ!


「名前が出てこない……。あの有名な寺、ほら、信長といえば。あの寺、ほら、あの、あの」

「比叡山!」と、マサ。

「マサ、ここで参加するな! ややこしい」

「わかった、アメ。あまりに有名な寺の話だな」

「そ、そう、ここまで、喉のここまで名前が出てるんですが、なんか、急に忘れて」

「で、どこだ」

「だから、ここで信長が討ち取られる」

「え?」って、マサ。

「ああ、もう、ややこしい。マサ、家に帰れ。シッシッ」

「あ、あの、また帰ってくるんやで」

「たぶんな。マサ」

「ふんじゃあ。金、待ってくるんやで」

「いつからジゴロになった」

「いや、オラ、マサだよ。二郎じゃないやろ」


 そう、1582年春といえば、もう『本能寺の変』目前。あの、徳川三代将軍家光が心のなかに入った光秀。ここまで、うまく乗り越えてきたんだろうか。


「オババさま」

「なんだ改まって」

「私たちが、現代で休息することもなく、この時代にいきなり3年超えたということは」

「ことは?」

「ことは、おそらく、本能寺。まともに歴史上で行われない可能性が」

「おいおいおい。我らのような庶民の女子ふたりに、そんな大層な歴史的事実を守れと」

「おそらく、あのアンニュイ家光秀、日和ひよるかも」

「ありうる」

「まずいです」

「行きましょう」

「で、どこに」

「ま、まずは。食料確保の道から」


 オババ、私を見て笑った。


「歴史を戻そうというわりには、せこい目的だな」

「腹が減ってはイクサはできぬ、でござります」


第二部完

第三部につづく

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