アグレッシヴダイバー & エキセントリッカー

春嵐

時の狭間

『ダイバーへ。通信感度確認』


「感度良好。接続もわるくない」


『確認しました』


「いや、おかしいんだよな」


 基本的に、悪路や接続が途切れるようなところの任務が多い。


 ここまで明朗な接続は、なかなかない。だから、おかしい。


『いち企業のサーバなのでそこまで深追いしなくても大丈夫ですが、できれば無傷でどうなっているか知りたい、とのことです』


「サーバが無傷ってことね」


『はい』


 目の前。


 扉。


 この先が、サーバ。


「エキセントリッカーの現在位置」


『上から侵入中です。まだサーバ到達には時間がかかると思われます』


「了解。アグレッシヴダイバー、一人で突入する」


『突入了解』


 扉が開く。


 走った。


 暗い。


「輝度を上げられるか?」


『輝度、ですか?』


「暗いんだけど」


『こちらからは、明瞭にコードが見えています』


「そっか」


 サイバー空間にいる自分だけが、感じる暗さ。


「通信とか接続ではない、何かがある。タグを付けて異常があったら報告を。エキセは」


『タグを付けて監視します。エキセントリッカーも突入を確認しました』


「合流を優先する。位置情報を」


 表示される。近い。


 歩きだそうとして、気付いた。


 暗いなかに、暗い、緑色。


「ウイルス発見。緑色」


『ウイルスの存在も色も、こちらでは確認出来ません。タグも正常です』


 自分しか見えない、何か。うごめいている。


「いやまて。大きいな。大きい」


 暗いなかに、緑色。


 飛んでくる何かを、跳んで躱した。


「攻撃があった。対応する」


『攻撃了解。コードで援護しますか?』


「エキセの誘導を先に頼む。とりあえず私は逃げる」


『了解。エキセの誘導を優先します』


『おれのドローンがいくぜっ』


「総監」


 ドローンが飛んできて。


 当たりを滅多撃ちしてくる。緑色が、飛び散る。


「総監撃つなっ」


『なにっ』


 ドローンの上に乗り、足場にする。


『おいっ。乗るな乗るなっ』


「足場以外に使い道がないんで、撃たないでください」


『この緑のかわいいやつを倒せばいいんじゃないのか?』


 緑のかわいいやつ。総監には、見えている。


「たぶんこれ、どこかのバックドアが壊れて漏れだしてきてるやつなんで」


『どういうことだ?』


「サーバそのものかもしれないんですよ。これ」


 もうひとり。通信に参加してきた。


『うわ、あっぶね。まとめて焼いちゃうところだった』


「焼き畑」


『どうも。昨日そこそこ呑んでたので昼出勤です』


『操作が難しいな、ドローン』


「焼き畑、総監からドローンの操作奪って」


『え、おい。待て待て待て。おれのお気に入りドローン』


『奪ったよ。どこ行きたい?』


「この緑色の出てる大元に行きたいんだけど、これ待って、緑色避けられる?」


『かなりやばい量』


 緑色に。飲み込まれる。


「はい、おまたせ」


 上から、光。


 緑色のなかに、道ができる。それを、ドローンが飛んでいく。


「エキセントリッカー、合流しました」


「あれ」


「通信。切れたな」


『ドローン経由ならぎりぎり。焼き畑がアナウンス引き継ぎますよっと。総監。ドローンもうひとつ出して』


 ドローン。もう一機飛んできて、エキセの足場になる。


「その光は」


「懐中電灯。現実の光をスキャナで取り込んで、逆さまにしてコードに置き換えた」


「やるね」


『光学スキャナ?』


「普通のコピー機。デジタルじゃなくて、アナログで変換したの」


『アナログが通るって不思議だな』


「ね。不思議」


「それより。この緑色。もうほとんど視界とれねえけど」


「光を当てると縮こまるね」


「現実世界みたいだな」


 アナログ。


 緑色。


 光に弱い。


「こいつら、もしかして、錆じゃねえか?」


「錆?」


『そうか。サーバ全体の時刻設定が』


「うん。たぶん時刻がばぐってて、そこから処理しきれなかったシステムが湧き出してるんだと思う」


『時刻設定とは。またアナログなところに不具合出てるなあ』


「だからアナログ書き出しの懐中電灯が効くのね」


『時刻設定はサーバ全体とは別枠だから、違う階層に移動します』


「移動了解」


「移動了解」


『上へまいりまぁす』


 ドローンが、上昇していく。


 通信が、復帰した。


『おい。ドローンの上に乗るな。お気に入りなんだぞっ』


「ワードハッカーは」


『わっかちゃんは寝てると思うよ。まだ昼だし』


 公安の美女。


『そっちの八課長は?』


「最近できた彼女とよろしくやってんでしょ」


『うそ。八課長、恋人できたの。記憶飛ぶのに』


「ね。ほんとに不思議よ」


『着きました。こちら、基本設定の階層になります』


「私が降りる」


「わたしは援護」


 降りた。緑色は、いない。


『焼く準備はできてるけど、時刻設定が原因なら』


「うん。たぶん焼くと増えるね、あの緑色」


『むずかしいなあ』


「時刻設定の部分を発見」


 安全装置を蹴っ飛ばして、設定を確認する。


「エキセントリッカー」


「はい。聞こえてる」


「時刻設定。百年前になってる」


「待って」


 エキセが解答を導き出すのを、待つ。


「ほんとに百年前だと、思う」


「ありえないな」


『百年前にはこのサーバ自体が存在してないし、そもそもコンピュータがあるかどうかも怪しい』


『つまり?』


「時間と空間が裂けてるんだ。それを埋めるために、サーバ全体に時間軸の存在しない物理情報があふれかえってる」


『あの緑色か。さて、どうする?』


「塞ぎ目を塞ぐ。物理で」


「わたしも、そうするしかないと思う」


『焼き畑農業ができないとなると、ふたりだけだけど、いけそう?』


「ドローンを犠牲にすれば」


「うん。ドローンを起爆剤にして、裂け目を」


『えっ待ってまたドローン壊れるの?』


『総監のドローンだし、いいでしょ』


「よし」


「やるか」


『引き続きアナウンスは焼き畑が担当しますよ。アグレッシヴダイバー、エキセントリッカー両名はもう一度サーバに侵入し裂け目を閉じてください』


「援護が欲しいな。誰かいない?」


『じゃあおれが』


「総監また滅多撃ちやるでしょ。だめ」


 通信に、また入ってきた。二名。


『こちら六課。現在コロナさんと家族ぐるみでごはん食べに来てます』


『太陽祖です。明日の天気は25度。非常に小規模な太陽コロナ爆発があるので冬のくせに暑いでしょう』


『いまから二人でドローン操作を行い掩護する』


「磁角に強いふたりか。たすかります」


「サイバー空間内ですが、緑色は物理情報ですし裂け目も時空間の狭間にあるようなもんなので方向感覚は作用すると思います」


『アナウンス、六課の彼女さんに引き継げますか?』


『だめだ。いま彼女、肉焼いてる』


『分かりました。アナウンスは引き続き焼き畑でお送りします』


『よろしく』


「よろしく」


「六課さん、行き先はそちらに」


『弾丸は使えないから、行き先だけだな』


「それで充分です」


『よし。接続を確認。行こう』


 ダイブ。








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アグレッシヴダイバー & エキセントリッカー 春嵐 @aiot3110

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