第2話 サーバル視点

 フレンズは、体に合わない場所に行くと寿命を縮める。それは本当だったようで、私は旅の途中で体調を崩してしまった。そこで、かばんちゃんは私をサバンナで休ませることにしたようだ。


「サーバルちゃんに、お願いがあるんだ。女王セルリアンが残したまゆから悪い子が出てこないように、見張っていてくれないかな?」


 かばんちゃんは私にそんな仕事を渡し、自分は博士や助手たちとセルリアンの研究をしてる。私が、無理をしないようにそうしたのだろうことは分かっていた。でも、本当に女王の繭がふ化するとは思ってなかったけどね。


「ヒト?っていう変なフレンズと旅をしてたのって、あんた?」

「うん。そのことは、よく思い出せないんだけどね」


 フレンズはセルリアンに食べられて元の動物に戻ると、再びフレンズ化しても記憶が戻ることはない。なので、記憶がないという子には深くそのことについて聞かないという暗黙のルールがこのパークにはある。


 なので、それを利用させてもらった。だって、そうしないと繭がふ化するかもしれないということも話さなければいけなくなる。それはとても、いけないことだと思うからだ。


 繭からふ化したキュルルは気弱そうで、みんなに迷惑をかけるような子だとは思えなかった。でも、弱いふりをしているだけかもしれない。この子のおうち探しをしながら、それを見極めようと思った。


 問題は、カラカルが付いてきたことだ。私はかばんちゃんと旅をしてきたし、今ではすっかり体調も良くなったので構わないけどカラカルは好奇心より警戒心が強い。そして、流されやすかったりする。


 ブランコに乗って飛んだら顔や体が泥だらけになるし、船に乗って沖まで出たら土のある所に帰してと震えるカラカルに旅が向いているとはとても思えない。


 もう限界だろうと私は、毛皮から一枚の青い羽根を出してラッキービーストに見せた。これが、かばんちゃんと連絡を取る合図だ。


「ラッキーさん。かばんちゃんとお話しさせて」


 すると、ラッキービーストが両目を赤く光らせてかばんちゃんの声を届けてくれた。


「サーバルちゃん、久しぶり。繭がふ化したの?」

「うん、久しぶり。中の雛も出てきたよ。でも、問題が起きちゃって」


 私は、かばんちゃんに今までのことを話すと「分かった。じゃあ、そのアリ塚で待ってて?すぐ行くから」


 かばんちゃんがバスで来ると、私とカラカルはそれに乗った。


「あんたが、サーバルの言ってたかばん?」

「はい。初めまして、カラカルさん」

「ええ、初めまして。それじゃあ、このままサバンナに帰してくれるの?」


 かばんちゃんは、今からサバンナに行ったら夜になるしキュルルを探しておきたいらしいけどカラカルはキュルルの顔を見るのも嫌だということでサバンナに向かうことになった。


「あいつ。セルリアンだったのね」

「セルリアンから生まれたヒトです。フレンズはセルリアンに食べられると元の動物に戻りますけど、セルリアンにはなりませんよね。それと一緒ですよ」

「ふーん。ま、どうでもいいわ」


 途中大雨に見舞われたもののバスの中だったので無事、カラカルをサバンナに帰すことができた。私もまた帰らなきゃダメなのかなと思ったけど、体調がよくなったことを伝えると「それなら私と一緒にいてほしいな」と言ってくれた。


 そんなの、いいに決まってるよ。私は笑顔で頷いた。


「ありがとう。サーバルちゃん」

「それで、キュルルちゃんはどうするの?」


「アリツカゲラさんが一緒なら、ロッジか私のラボに連れてきてくれるかもしれない。とりあえず、あのアリ塚のところに行こうか。ラッキービーストがあの絵をスキャンしてアリ塚に案内したのならそこにまた戻ってくるかもしれない」


「アリ塚ノ近クニ、ラッキービーストヲ待機サセテ、ヒトガ来タラ連絡スルヨウニ言ッテオクヨ。マカセテ」


「ボスの体。前と同じなんだ」


「その方が、しっくりくるからね」


 そして、キュルルちゃんは果たしてアリ塚の近くにいた。でも、何かふたりのフレンズと揉めてるようだった。


「あ!サーバル!」


 バスから降りると、キュルルちゃんは私の後ろに回り込んだ。一体どうしたの?


「オオアルマジロさん、オオセンザンコウさん。この子が、何かしたんですか?」

「ああ、かばんさん。そうじゃなくて、これは仕事なんです」

「仕事?」


 ヘラジカに何か言われたのかな。ううん、そうじゃない。オオアルマジロは、セルリアンに食べられて一度動物に戻ってるはずだ。


「とにかく、もう暗いから取りあえずみんな私のラボまで来て。明日、イエイヌさんのところまで連れて行くから」


「私たちも、いいんですか?」


「もちろん」


「キュルルちゃん。行こうか」


 キュルルちゃんはカラカルがいないことには気づいていたみたいだけど、私がバスに乗ったことで入ってくれた。でも、もうキュルルちゃんと旅をする気はないかなあ。かばんちゃんと、やっとまた会えたし。


「君ガ、キュルルダネ。僕ハ、ラッキービーストダヨ。ヨロシクネ」


「うん。よろしくラッキーさん」


 ボスは、キュルルちゃんの足元まで歩いていくと、キュルルちゃんを文字通り目を光らせながら見ていた。

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