カラカルはホームシック
珈琲月
第1話 カラカル視点
なんで、こんなところに来ちゃったんだろう。あたしは、モノレールというらしい動く箱に乗りながらふとため息をついた。始めは、ただの好奇心だった。見慣れない青い毛皮のおどおどしたフレンズが、森の中を歩いていたので声をかけたのだ。
あたしは、好奇心よりも警戒心の方が強い
キュルルが目覚めた場所に行くと、確かにこいつがいたのだろう匂いがする。だから、あたしは言った。
「ここが、あんたの巣なのね」
「巣?」
「住んでたんでしょう?ここに」
あたしの言葉に、キュルルは、悲しそうな
「僕のおうちは、もっと明るくて優しくて暖かかった。――帰りたい。おうちに」
「キュルルちゃんのおうちを探そう!」
結局、一緒にいたサーバルが無茶なことを言ったせいでこいつの持ち物である絵とか言うものを頼りにキュルルの
まあ、そこまではいいわ。フレンズは、助け合うものだし。でも、問題はここから。
でかいセルリアンに見つかって、追い立てられるように動く箱に乗ってしまった。
動く箱に乗るためには建物の高い場所に上る必要があるんだけど、だったらそこから飛び降りてあいつを倒せばよかったという後悔が押し寄せてくる。
ああ、縄張りが遠く離れていく。今からでも飛び降りるか。そんなことを悩んでいると、あたしたちを逃がすために囮になってくれたカルガモが挨拶に来たので彼女にお礼を言っていたら飛び降りるタイミングを逃してしまった。
それにしても、このキュルルって本当に最悪。
知らないくせに知ってると嘘をついて無駄に歩かせたレッサーパンダに詰め寄ったら、「僕は嬉しいけどな」と一人で善人面してあたしだけ悪いみたいにされるし、イルカとアシカに、土のない場所に連れていかれてなかなか帰してもらえないし。
まあ、船に関しては自分で乗ったあたしも悪いんだけど、近くで怖がっている子がいるのに気にも留めずに遊び道具を作ってるって何よ。そんなことしてないで、あの変なのかぶって土のあるところまで泳いでなんかとってきたらいいじゃない。
不意に、動く箱が止まった。どうやら、この箱が進むための
あれ?ということは、サバンナに帰れる?
「進めないんじゃしょうがないわね。ラッキーさんに頼んで、来た道を引き返してもらいましょ」
「カラカル。嬉しそう」
「そんなことないわよ」
サーバルにはそう言ったけど、元気が出たのは確かだ。でもそれは、ぬか喜びでしかなかった。
「駄目ダヨ。モノレールヲ引キ返スニハ、次ノ駅マデ行カナキャイケナインダ」
ラッキーさんの言葉に、キュルルがホッとした表情をした。一発殴ってやろうか、こいつ。
「僕は、おうちに帰りたいんだけど」
「オウチ……オウチ……検索中……検索中……」
ラッキーさんによると、おうちという施設はどこにもないそうだ。なあんだ。やっぱり、どこにもないんじゃない。
「がくっ」
何かうな垂れてるけど、その一言で済むレベルなら見つからなくてもよくない?
「じゃあ。この絵の場所、知らない?」
それは、あの箱の中でキュルルが見せてくれたヒトがたくさん住んでいるというマチ?とかいう絵だ。これに似ている場所ならあるということで、そこまで案内してもらうとそこは大きなアリ塚らしかった。
「夜ニナルト、『ヒカリコメツキ』トイウ虫ガ発光スルンダーヨ」
「よかったじゃない。おうちが見つかって」
「違うよ!」
分かってる。でも、どうでもいい。あたしの興味は、どうやってサバンナに帰るかってことだけだ。
「あれ?サーバルさんとカラカルさんじゃないですか」
「ああ、アードウルフ」
懐かしい顔に会えた。しばらく姿を見かけなかったからどうしてたのかと思っていたが、どうもおうち探しのプロだというアリツカゲラと引っ越しの場所を探しているのだとか。
「それじゃあ、この子のおうちも探してもらえる?」
あたしはそう言ってキュルルの肩に手を置くと、アリツカゲラはキュルルにキラキラした目を向けた。
「あなたも、新しい巣をお探しになってらっしゃるんですか?」
「ええっと。僕が探してるのは僕のおうちで、動物の巣じゃないから……」
「大丈夫!私に任せてください!」
こうしてあたしは、あのふたりにキュルルを押し付けることに成功したのだった。
「カラカル。これでよかったの?」
サーバルの言葉に、あたしは頷いた。もう嫌だ。サバンナに帰りたい。この場所(ミナミメーリカ園だっけ?)はサバンナに似てるけど、空気の匂いが違う。
ここには狩りごっこに付き合ってくれる子もいないし、水場や寝るのにちょうどいい木を探す必要もあるだろう。線路をたどっていけば、帰れるかな。
「もう限界っぽいね。かばんちゃんを呼ぶよ」
そういうと、サーバルはどこかから青い羽根を取り出すとラッキーさんの目の前で見せた。
ああ、やっぱりこいつ。ヒトのことを覚えてないなんて言ってたのは、嘘だったんだ。
「ラッキーさん。かばんちゃんとお話しさせて」
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