終章 ボクの世界には君だけでいい
第52話
倫太郎以外の全員が電車に乗り込み、メンバーが各々の駅へ降りていく。ボクの地元は全員の最寄りよりさらに奥で、全員が降りていくごとに手を振っていた。葵の最寄りに着くと、ホームを降りて振り返り、そして笑いながら手を振っていた。その笑顔は、ボクがあまり好きな笑顔じゃない。傷付いたときに浮かべるあの笑顔が、とても痛ましい。
どうしてそんな顔をするんだ。あんなに楽しかったのに。
完全に見えなくなるまでそれを見送り、ボクと凛、そして眠ってしまった春彦と涼を乗せて電車が走り出していく。もう葵は見えない。
「……小泉くん、今日楽しかったね」
「そうだな」
「私本当に、とっても楽しかったの」
「ボクも楽しかった」
ぎこちない会話はあまり膨らまず、駅に着く前に二人を起こし、地元へと降り立った。なんの変哲もないボクの地元。夜は既に二十二時を回り、駅構内も人はまばらだ。春彦と涼はボクらとは違う出口で出るということでホームで別れた。
「さ、私たちも帰ろ」
歩き出す凛に、ボクも凜の後ろに着いて歩く。そして解散する十字路で、凜は街灯に照らされながらばいばい、と手を振った。
「さ、暁くん! また連絡するね!」
どくんと心臓が跳ねた。クラスメイトで中学校の同級生なのだから、下の名前くらい知っていて当然だ。なのにどうして、こんなにも凜の走り去っていく後ろ姿から目が離せないのだろう。
どうして凜は、ボクの名前を呼んだんだ?
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