第48話

 曲が終わると、続けざまに『夢と花火』が始まっていく。そして一息つき、友紀が水を飲んでいる最中に葵が友紀の名を叫ぶ。


 いつもよく見る無邪気な笑みを返すと、友紀はマイクを前に堂々と笑っていた。メンバー全員もキラキラと汗で輝いている。


「次に歌う曲は、昨日YouTubeにもアップしたドラマって曲で、俺らの大切な曲です。聞いてください、ドラマ」


 暗転。多田にスポットが当たって『ドラマ』の旋律を奏で、全員の音が合わさる。PVを見たときと同じような感動が、そこにはあった。


 ピエロのステージから、ボクは目が離せなかった。耳が音の渦を捕まえようと必死に拡張しようとしているのに、それに追いつかないまま曲が進んでいく。

 そうして対の曲である『来世では』が始まり、物語が終焉する。そしてミニアルバムの表題曲である『rain』を歌い上げ、会場内は先ほどの控えめな歓声とは思えないほどの大きな歓声に包まれた。


「さて、前半パートは次の曲でラスト。今日の為に書き下ろした、二曲目の新曲です」


 友紀が目配せすると、陽太のギターと多田のピアノの掛け合いから始まっていく。


「『またいつか』」


 とん、と肩を叩かれ、後ろを振り返ると、汗だくの倫太郎がステージライトの反射で照らされながら、顔を近づけるようにジェスチャーをする。それに従って耳を持っていくと、そっと耳打ちした。


「言ってた歌詞ってこれか?」


 ボクは何も言えずに頷いた。倫太郎はそれ以上何も言わなかった。今隣に居る葵と後ろにいる倫太郎から教えてもらった大切な経験が、ピエロを通じて奏でられる。

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