第3話

王都郊外にあるとある農園。俺達が世話役にアガリを渡すときに使っている場所だ。

以前火事があり廃墟となっている。所有者はその火事ですでに死んでいて、土地の権利は元の地主に移ったが買い手が付かずにそのまま放置されている。そう言った事情があってか、何かを取引するにはうってつけという訳だ。

そこに俺達は居る。


「あークソ………来やがったぜ。」


壁にもたれ掛かっていたペリペが顔を顰めながらそう言い、ニオイの元を指さす。

月明かりのおかげで風上の方から小太りの人物が部下も連れずに1人で来るのが見えた。


「オイオイ今日はペット連れかアーサーよ?」


「……あぁ!?」


「野良犬がよぉ誰に向かってクチ聞いてんのか分かってんのかテメェ!!」


開幕からケンカ腰の2人。ペリペに関しては今にも殴り掛かりそうな勢いだ。

………まぁ気持ちはわかるが。


「ペリペ、少し落ち着け。………ベニーさん、あんましウチの相方を煽らねぇで貰えますか。」


「………………フンっ」


「……それで、用件は何です?わざわざ呼び出したんだ、重要なことなんでしょう?」


「あぁ………テメェ等がウチに入団するって話だがよぉ、無くなった。」


「「な!?」」


事もなげに放たれた言葉に言葉を失った。横のペリペを見れば怒りから驚きそして憤怒へと表情を変えていた。目は血走り牙をむき出しにして低く唸り声をあげてる。


「………………そりゃあ契約違反てモンでしょうが。もうずいぶんと金も払ってる!」


「何も完全になくなったわけじゃねぇぜ?ただよぉ足らねぇんだよ、カネが!」


「…………いくらなんです?」


「白金貨10枚だ!何も問題ねぇだろ?テメェ等ならブビッ!!!?」


「………舐めてんじゃねぇぞクソ豚がよぉ!!!」


不快な鳴き声とともに豚が吹っ飛ばされる。

目の前には拳を振り抜いたペリペが立っていた。


「なぁに寝てんだゴラァ!!!」


飛ばされた豚にペリペが近付き、左手で首を掴み無理矢理立たせる。

潰れた鼻と獣人特有の爪が食い込んだ首筋から血が流れているのがはっきりと見える。

怒りに染まったペリペが続けて暴行を加える。

肉が潰れ鮮血が飛び散る。


「白金貨10枚だぁあ?どこまでもオレ達を舐め腐りやがって!!」


更に殴り、蹴りを加える。

しばらくするとペリペが肩で息をし始め、豚を投げ捨てる。虫の息だがまだ生きている豚に語り掛ける。


「ベニーさん、アンタがアガリを懐に入れてんのは薄々気付いてたんだ。そのせいでアンタがノルマを引き上げても、俺達はアンタの顔を立てるために知らん顔して金をアゲてた。けどよぉ白金貨10枚ってそりゃあ不義理ってモンでしょうが………。」


「へ、へめぇ……ほんなほとひて…………。」


「あ?"こんな事をしてタダで済むとでも"ってか?………ハッ!」


いつからこうなっちまったんだ………。出会った頃は優秀でイイ男だったんだが、いつの間にか、肥えて卑しい豚になっちまった。


「アンタはチクれねぇよベニーさん。アンタが横領してんのをコミュニティが気付いてねぇ訳ねぇだろ、泳がされてんだよ。チクった瞬間、事の真偽を問いただされてアンタは終わる。俺達にも何らかの罰はあるだろうが…、ソイツはしょうがねぇ甘んじて受け入れるさ。」


「………………ぐぅぅ!!?」


豚が低く唸り声をあげる。


「それとも俺たち以外の子飼いでもけしかけるか?アンタが声を掛けそうなヤツ等のことは知ってるが、事情を知ったら皆コッチに付くだろうな。」


俯き、肩を震わせる豚。


「アンタには恩がある。貧民街スラム出のガキ2人に仕事までくれたんだからな。たとえ打算ありきとしても感謝してる。だから命までは取らねぇ。…アンタは今日の事を忘れてコミュニティに俺達の入団を認めさせろ。そうすりゃ俺達も横領のことは黙っててやるし、聞かれても"そんなことはなかった"と言ってやる。それでメデタシだ。…………ペリペ、帰るぞ。」


怒りの収まらないペリペを宥め来た道を戻ろうとすると背後から赤い光が漏れ出る。振り返ってみると、豚が右手を突き出し赤い陣を形成していた。


(魔法!?)


魔法。それは訓練さえすれば誰でも使えるものだ。

異世界からの転移者が文明を持ち込んだことで、急速に発展していった中で法が制定され、近年では使用が制限されている。一般的に使用が許可されているのは薪に火を着けるといった極々小規模な生活魔法のみで、殺傷力を持つような規模の魔法の使用は法執行機関のみに許され、例外は魔法学院の研究職や治癒魔法を使う医者といった一部の者のみになっている。

それでも、急成長のごたごたの中で出来た法の為穴は多く、新体制に馴染めていない田舎の方では未だに害獣対策等で中規模以上の魔法が公然と使用されており、裏の人間等はそこで魔法を習得している。


閑話休題


いきなりの魔法に面食らう俺達。

怒り心頭だったペリペも流石に驚きが勝り目を見開いている。


「変わっちまったなアンタ、昔はそんなんじゃなかったが……………。」


「うるへぇ!!!!」


豚が叫ぶと一層光りが強くなる。

すぐにでも魔法が発射され、俺達は黒焦げになるだろう。

そんな時に俺の右手が動いた。

その行動がさも当たり前であるかのように、極々自然に右手が自分の懐に延びる。

懐から引き抜かれた

初めて見るはずなのに何故か使い方が分かる。

スライドを引き、照準を付け、引き金を引く。

バンともパンともつかない乾いた大きな音が響く。


「うぐぅえ!!」


立ち上がりかけていた豚がうつ伏せに倒れる。

そこへ続けて撃ち込む。

2発、3発、4発.........、連続で撃ち込んだ。

スライドがオープンし弾が出なくなるまで......。

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Desperado―デスペラード― 牛村ドミノ @marlboro19411208

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