第31話 新たな仲間

 魔族まぞくの討伐が一応成功した。

「約束を果たそう」

 エイレンの元帥が言った。

 といっても、ガーディアンはこの場所、和風の城内部にはない。ウレペウシ号の甲板に置いてある。

「では、取りに行ってきます」

 ソレ=ガシが言って、宙に浮いた。城の中庭から飛び立っていく。すぐにガーディアンを運んできた。片手で持ち上げて。

 とはいえ、本体だけ。

「これが、ガーディアンか」

 中央部分がえぐられた、巨大な金属のかたまり。銀色のにぶい光を放っている。

 修理するには、細かい部品を持ってこなければならない。

「オレたちも行くぞ」

「だね」

「私もがんばります」

 ケルオたちも部品を運ぶ。

「野郎ども。いくぜ」

「おうっ」

「あいよ」

 船長が鼓舞する。船員たちも手伝って、すべてのパーツを持ってきた。

 城の中庭が異質な機械で埋め尽くされる。


 ガーディアンに部品をつけていく。

「ここだな」

「こっちは、こうするんじゃないかな?」

 凄腕の技師たちの力で、ほぼ元通りの姿になった。

流石さすがですね」

「おだてても何も出ないぞ」

 元帥がたしなめた。笑顔を見せていることから、冗談らしい。

 軽く魔力を通してみる。

 ところが、起動しない。

「くっつけただけじゃダメか」

 ケルオが現状を反芻はんすうした。

 ソレ=ガシは残念そうな表情ではない。この展開を予想していたようだ。

「なぜ、ここなのですか?」

「どういう意味だ」

 ケルオが聞いた。

「城でなければならない理由です」

「見ていれば分かる」

 元帥が言って、何かの装置を起動した。

 城の一部が変形していく。機械部分があらわになり、花が咲いたかのような形状になった。和風の城は、魔力の増幅装置へと姿を変えつつあった。

「こいつは」

「すっごーい」

「城そのものが、魔力の増幅装置だったのね」

 ソレ=ガシは黙っていた。かわりに、ミナがいつものソレ=ガシ風の言い回しをした。

 そして、変形が完了する。

「では、いくぞ」

「はい。お願いします」

「蘇れ! ガーディアン」

 元帥の魔力が注ぎ込まれる。この国でもっとも強い魔力を持つ者だ。

 とてつもない魔力の奔流ほんりゅうが、銀色の機械を突き動かした。

 目が光り、ガーディアンが起動した。


 攻撃を警戒し、即座にソレ=ガシが陣を広げる。球状の異質な空間が大きくなった。

 四つ足のガーディアンが動き出した。

 レーザー光線は飛んでこない。

「やったか?」

 ケルオが言った。アイカが、渋い顔でマントの男をたしなめる。

「ケルオ。だまってて」

 ドリルが起動した。一番近くのソレ=ガシめがけてうなりをあげる。

「ソレ!」

 陣で無事。分かっていても、ミナが叫ぶ。

 ドリルが空を切る。二度、三度。

 ハンマーと爪が振り回され、ソレ=ガシが連続でかわした。銀色の機械は、攻撃をやめる気配がない。

 ケルオが慌てている。

「どうすんだよ、これ」

「アイカ。説得してください」

 いつもと変わらない様子で、淡々とソレ=ガシが言った。

「説得? ボクが?」

「そうです」

「魔力の強い人間は、プログラムを直接操作することが可能、ってやつか」

 ケルオが補足した。

「ハルコのほうがいいんじゃない?」

「いいえ。アイカでなければ意味がありません」

 眉に力を入れ、気合いを入れる栗毛の少女。

「わかった」

 アイカが近づき、魔力による説得を試みる。

 攻撃には優先順位があるようで、ガーディアンはソレ=ガシだけを狙っていた。近づいた少女は狙われていない。

 ドリルを受けるソレ=ガシ。火花は散らない。もちろんダメージはない。

 ハンマーが振り下ろされた。二度、三度。

「あんまりいい光景じゃないな」

「お願い。早く」

 ミナが悲痛な叫び声を上げた。頭ではわかっていても、見たくないようだ。

 突然、ドリルが止まった。ハンマーも。

 もちろん、レーザー光線も発射されない。ガーディアンは、ただにぶい光を放っているだけ。

 説得が終わったらしい。

「あいか。トモダチのイミ。リカイしました」

 ガーディアンが喋った。


「それ。みな。けるお。ニンシキしました」

 どこか、たどたどしい喋りかたをしている銀色の機械。といっても人のような口はない。スピーカーから声が聞こえてくる。

 ガーディアンがソレ=ガシたちを認識し、正式に仲間になった。

 まだ警戒している様子のケルオが聞く。

「名前はどうする」

「ガーちゃん」

「え?」

「ガーちゃんじゃないとヤダ」

「ワタクシのコタイメイは、ガー。ケイショウはちゃん。ニンシキしました」

「あっ」

 ケルオが、思わず声を上げた。

「まあ、いいんじゃない?」

 ミナは、どこか嬉しそうだ。

「なんでも構いませんよ」

 ソレ=ガシのお墨付きをもらい、名前はガーちゃんに決定。

「決定しちまったぞ」

「では、ガーちゃん。過去の大きな戦いのことを教えてください」

「キロクがありません」

「なんだって」

 ケルオがおおげさに驚く。帽子の位置を直した。

「せっかく直したのに」

「ざんねん」

 ミナとアイカが残念がる。それを知ってか知らずか、ガーちゃんのスピーカーが振動した。

「ウノフターにいけば、ジョウホウをとりだせます」

「どこ?」

「おそらく、忘れられた島の名前でしょう」

 ソレ=ガシが推理した。

「じゃ、どうやって運ぶ? ってソレか」

 ケルオが言いながら納得した。

「では、運びます。じっとしていてください」

「リョウカイしました」

 ソレ=ガシが担いで飛び上がった。船まで飛んでいく。

 ウレペウシ号の上空に、銀色ににぶく光る物体が浮かんでいる。

「あれを見て」

「おっ。直ったか?」

「何度見てもでかいな」

 船員たちがのんきに甲板で話していた。

 陣を広げるソレ=ガシ。

 ガーちゃんに船員を全員覚えさせ、危険はなくなった。

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