第30話 エイレンにて

 エイレンに到着。

 前回と違い、港に異常はない。

「よく来たな」

「まあ、ゆっくりしていけよ」

 ソレ=ガシのように和服でなくても、前の事件を解決したおかげで煙たがられない。

 一行は、のんびりとエイレン見物をしなかった。

「んじゃ、どうする?」

「ハルコに会う!」

「エイレンの元帥ね」

 アイカが呼び捨てにするくらいには、元帥と親しいらしい。一行は和風の城へと向かった。

 とおせんぼされることもなく、すんなり面会の準備が整った。

 大きくて立派な城に入る。前回のことがあって、靴を脱ぐことをあらかじめ知っているため、所定の位置で靴を脱いだ。

 曲がりくねった道をゆき、元帥に会うソレ=ガシたち。

「ガーディアンの修理を頼みたいのですが」

 単刀直入に頼むソレ=ガシ。駆け引きがまるでない。

「分かった」

 あっさりと了承する元帥。こちらも裏表がないようだ。

 アイカが礼を言う。

「ありがとう」

「ただし、条件がある」

「なんだ? ソレにかかれば朝飯前だぜ」

 だが、元帥の出した条件は予想の範疇はんちゅうにないものだった。

魔族まぞくの討伐です」


 しばしの沈黙が流れた。

「バスタタの王、リヴィトとはすでに和解していますが」

「信用ならぬ。この目で見たことしか信じないぞ」

 元帥はかたくなだ。

「でも、それじゃここに魔族まぞくがいないと」

「倒したかどうかわからないね」

 ミナの言葉のつづきをアイカが言った。

「心配は無用です」

「なぜですか?」

「すでに、魔族まぞくがこの国にいるからです」

「マジかよ」

 元帥によると。やってきた魔族まぞくは魔法で悪さをしているらしい。

 人間同士とは違い、魔族まぞくの魔法は人間に危害を加えることができる。

 悪さをしている人物に思い当たることがないらしい。そのため、ケルオはしきりに何かを考えている。

「ふぅ」

 答えは出なかったようだ。

「仕方ないですね」

「戦っちゃうの?」

「ソレ、どうする?」

 結局、ソレ=ガシたちは、魔族まぞくと戦うことにした。

 ただし、一芝居うつことにして。


 丘の上。

 銀髪の男がいた。

「なぜ、こんなところに?」

 ソレ=ガシが聞いた。

「エイレンに来るだろうと思って待っていた。意外に遅かったな」

 黒いロングコートをなびかせて、リヴィトが振り返る。

「お見通しのようですね」

「ああ」

「ならば、一芝居うちましょう」

「なぜだ」

「もはや戦う理由はありません」

 言葉が終わらないうちに、リヴィトが襲いかかってくる。手加減をする様子はない。

「お前にはなくても、吾輩わがはいにはある!」

 陣を広げず、体術で相手をするソレ=ガシ。

 攻撃と防御がターン制のように続く。お互いに引く気はないようだ。リヴィトもソレ=ガシも、ほんのすこし笑っていた。

「そういえば、リヴィトって顔知られてないの?」

 アイカが聞いた。戦いが始まっているというのに、のんびりしている。

「確かに」

「有名なら、魔族まぞくと言わずに名前で呼ぶはずよ」

 ミナが推理した。

 そのあいだも、ソレ=ガシとリヴィトは肉弾戦を繰り広げている。こぶしを黒髪の男が防いだ。

「なぜですか?」

「あ?」

「なぜ、何度も戦うのですか?」

 ソレ=ガシがもっともな質問を投げかけた。笑いながら、リヴィトが答える。

「戦っているときが、生きてるって感じするだろ」

「そういうものですか」

 どうやら、ソレ=ガシにはない感情のようだ。あまり表情が変わらなかった。

 アイカが言う。

「だったら――」


 やはり、陣をまとっているソレ=ガシに隙はない。

 体力も無尽蔵。

 次第に攻撃の回転率に差が出てきた。

 リヴィトが悪態をつく。

「くそっ」

「悪いとは思っているのです。これでも」

「よく言う」

 リヴィトが、魔法を唱える。その効果を、ソレ=ガシは知っているようだ。

「ウッコネン・サラマ」

「雷ですか」

「ミエッカ!」

 雷が剣の形になった。そのまま斬りかかるリヴィト。ソレ=ガシがすこし驚いている。

「これは?」

「見れば分かるだろ?」

 ダメージはないものの、相手の攻撃の幅が広がったことで防御重視になるソレ=ガシ。そこを見逃さず、リヴィトは一気に攻め立てる。

「さすが、リヴィトだな」

「関心してる場合?」

「だいじょうぶかな」

 あまり問題はなかった。ソレ=ガシには効かない。片方の腕で受け止める。

「興味深いですね」

「これならどうだ。ウッコネン・サラマ・ミエッカ」

 二刀流で斬りかかりつづけるリヴィト。

 あたりに雷撃がほとばしる。

 だが、ソレ=ガシは涼しい顔。周りのもののほうが危険だ。

「普通の相手に使っていい魔法じゃないですね。ただでは済みませんよ。リヴィト」

「普通ではない。だから思う存分使ってやる。ソレ!」

 雷の剣での猛攻。激しい雷鳴がとどろく。

「きゃっ」

「危ねぇ」

 アイカに雷が伸びて、ケルオがかばった。

 その一瞬で、ソレ=ガシは陣を広げていた。ケルオに雷は落ちない。地面へと流れた。

 すぐに陣を狭め、左手のこぶしをにぎるソレ=ガシ。雷をあびながらも、パンチを腹に叩き込んだ。

「ぐ」

 短い声がやみ、戦いは決着へと向かう。

 リヴィトは倒れた。

 その様子を、遠くから望遠鏡で見ているハルコ元帥。口角を上げた。

「すこし、寝たままにしておいて」

「あ? なんでだ」

 すぐにでも立ち上がれそうなリヴィトに、アイカが意見を述べる。

「いいから、いいから」

「意味が分からぬぞ」

「もういいでしょう」

 ソレ=ガシが言って、リヴィトが立ち上がった。ぴんぴんしている。

「情けねぇ」

「たとえ情けなくても、生きていれば次がありますよ」

 ソレ=ガシの放った言葉に対し、リヴィトは、小さく息をはき出した。そして、表情をすこしだけ緩めた。

「いっけんらくちゃくだね」

「ああ」

「それじゃ、行きましょう」

 ソレ=ガシが、元帥のもとにリヴィトを連れていく。

 おとなしく従う、この世界の魔王まおう

「これに懲りたら、悪さはしないことだな」

 いちおう、魔族まぞくの討伐はなされたことになったらしい。

「肝に銘じておく」

 ただの魔族まぞくと思われたリヴィトは、普通に帰された。

「いいのかな? これで」

「いいと思うよ」

「オレは知らね」

 ケルオはあまり興味がないようだ。

 あいさつもせず、リヴィトは飛んで去っていく。

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