第七節 新たな旅

第29話 伝説の前

 ウーハラタ山を下りた四人。

 最初に口を開いたのは、ケルオだった。

「それで、次はどうする?」

 もじもじしながら、アイカが口を開く。

「ちょっと、帰りたくなったかも」

 まだ十代前半の少女は、ホームシックになったらしい。故郷であるエイレンに行きたがっている。

「それもいいかもね」

 ミナは優しい。アイカの頭にふれた。身長差があるため、なでるのは簡単だ。

「考えていることがあるのですが、いいですか?」

「なに?」

「ガーディアンを修理しようと思うのですが。

 ソレ=ガシがさらりと言った。

「おいおい。理由を聞かせてくれ」

「リミッターについて、いえ、英雄と救世主についてはだいたい分かりました」

 アイカの目が半開きになる。

「わかってないんだけど」

「それで、それがしが次に知りたいのは、その前です」

「おとぎ話の前、ってこと?」

 ミナが察した。

 おとぎ話とは、英雄が魔物を打ち取り、救世主が魔法を人に使えないように変えたという伝説のこと。その前にも、とうぜん歴史はある。

「そうです」

「大きな戦い以前の機械、か」

 ガーディアンは、忘れられた島を守っていた。つまり、大昔の大きな戦い以前から存在していた可能性が高い。ソレ=ガシたちはそう考えたのだ。

「そっかー」

 アイカは故郷に戻れず残念そうだ。

「オレ、大体わかってんだけど。言わないほうがいいか」

「言ってるじゃん」

「ほう。興味がありますね」

 ソレ=ガシが食いついた。帽子の男はにやけづらを隠そうともせず、口を開く。

「あのときのソレと、ガーディアンが似てただろ? つまり」

 パイナヤイネン弾を受けて姿が変わったソレ=ガシ。黒く異質な姿に。みな、一様にそのときのことを思いだしている様子。

「つまり?」

 ミナはさっぱり分かっていないようだ。

「ここは、ソレの世界だったのだ。なんてな」

「それはないですね」

 ソレ=ガシがきっぱりと否定する。当然のように、眉に力を入れることもなく普段どおり。

「あ。やっぱり」

 ケルオがつぶやいた。一時的に帽子をぬいで頭をかく。

「しかし、考えかたはいいかもしれません」

「どういうこと?」

 アイカが聞く。分からないことは素直にたずねることにしているようだ。

「それだけ長い年月が経過しているということです」


 風圧すら陣で防いで飛行する。

 三人を乗せ、飛んでライティスまでやってきたソレ=ガシ。

 街に近づいて飛ぶと目立ちすぎるので、すこし離れたところから四人は歩く。

 すぐに、港のウレペウシ号へと向かわなかった。

「おっと。忘れるところでした」

 ライティスの大統領から借りた妖精のしっぽを返さないといけない。

 四人で、石造りの大きな大統領府へ。足止めされることもなく、四人は中に案内された。美術品がたくさん展示されていてもおかしくないきれいな廊下を通り、大統領のもとに行く。

 大統領は椅子に座り、机の上の資料とにらめっこをしていた。

「目的は果たせたかね?」

「ええ。大体は」

 ソレ=ガシの言葉に目を丸くする大統領。資料から完全に目を離して、四人のほうを向いた。

「ということは、この中に子孫が」

 やはり、大統領は隠し事が苦手のようだ。妖精の試練について、ヒントどころか答えを言ってしまっている。

 ミナの血筋に思いをはせている様子のソレ=ガシ。

「そういうわけです」

「どういうわけ?」

 アイカは分かっていないようだ。

「それで、今日は別の頼みがあって来ました」

「なんだ? 世界についてはもうじゅうぶんではないか」

 大統領は、駆け引きが苦手らしい。自分が手に入れたい情報はもうない、と、教えてしまっていた。

「過去の戦いで使われたガーディアンを修理したいのですが」

「なんと!」

 ロッキ大統領は大げさに驚いている。

「忘れられた島の情報を持ってるんだ。倒したと考えるのが自然だろ」

 ケルオが言った。偉い人に対する態度ではない。そして、誰からも叱られなかった。

「倒したのは、ソレだけどね」

 ミナが補足した。

「残念だが、ここライティスにはその技術はない」

「そんなー」

「だが、エイレンにならあるいは」

「やったー!」

 故郷に帰れることになって、嬉しさを隠し切れない様子のアイカ。

 彼女の表情はコロコロと変わった。


 エイレンまで西へ340ポマセ。

「途中で陸に寄るか?」

「直行!」

「まっすぐ!」

 ペラシンとマーがほぼ同時にしゃべった。

「任せます」

 ソレ=ガシは進路に興味がないようだ。

 すでに準備はできている。さっそくウレペウシ号は出航した。

 レヴィアタンを倒したことで、魔物の大群に襲われることはなくなった。のんびりとした航海になる。

 その夜。

 寝る必要がないソレ=ガシは、甲板で星を見ていた。とはいえ、星座にうとい。

 近づく足音。

「こんな所にいたんだ」

 ミナがやってきた。ソレ=ガシはいつもどおり。マイペースそのもの。

「眠ったほうがいいですよ」

「ちょっとだけ、こうしててもいいかな?」

「断る理由がありません」

 ソレ=ガシの肩に頭をかたむけるミナ。二人のぬくもりが交わる。

「あの星座、知ってる?」

「さあ。なんですか?」

 一緒に星を眺めた。

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