第28話 英雄と救世主
非常識なソレ=ガシが話す。
「多くの妖精が住む村を想像していましたが、違いましたね」
にやにやと笑うアイカが、自慢げに語る。腰に手をあて、胸を突きだして。
「おとぎ話じゃないんだから」
「こんにちは。私は、ミナです」
「わたしは、トンッツっていうんだけど、そこのあなたは?」
ソレ=ガシが指差された。
「
「そう。ソレだよ」
「ソレ=ガシな」
アイカとケルオが答えた。
「それ、名前じゃないでしょ」
「えーっ? そうなの?」
ミナはショックを受けたようだ。大げさによろめいてキュロットスカートが揺れた。倒れはしなかった。
「はい」
これまでならありえない返事。ソレ=ガシはすこし素直になっていた。
「マジかよ」
「ほんとうの名前は?」
「いまはいいでしょう。そんなことより」
「まあいいわ。魔力ないし。それより、あとの二人、名前は?」
「ケルオ」
「アイカだよ」
間髪入れずに名乗る二人。微笑むケルオとアイカにつられて、妖精が笑わなかった。
「一人ずつ、魔力を見せてよ」
どうやら、試練はまだ続くらしい。
妖精トンッツの頼みで、魔力を見せることになった。
「魔力がないので見物します」
ソレ=ガシは座らない。腕を組むでもなく、ただ立って見守っていた。
無造作に置いてある宝石を拾うトンッツ。自分の体ほどの大きさがあるのに、軽々と持っている。
妖精のしっぽとは違う青色の宝石を使って、それぞれの魔力を示すことになる。
「これはなんですか?」
「妖精の宝玉」
「ほう」
「興味深い、でしょ?」
「ですね」
ミナの言葉を受け止めて、ソレ=ガシが
「これも、魔力をこめるんだろ? オレからやるぜ」
「ケルオ、早くしてよ」
妖精トンッツにせかされるケルオ。妖精の宝玉に触れ、魔力をこめた。
火と水がすこし強い。それ以外の属性の力は並。ハンド
「ほら、アイカも」
次にアイカ。属性の力はほぼ人並み。回復に長けていることが分かった。
「だからなんなんだ?」
「はい。次ね。ミナ」
そして、ミナの番で異変は起きた。
「なに、これ」
辺りの景色が変わっていったのだ。ソレ=ガシたちは別の風景を見ることになる。
「これは? 魔法ですか」
「転移したのか?」
「ちがう。さわれないよ」
「どうなってるの?」
ミナの問いに、妖精トンッツが答える。
「これは、過去の立体映像。運がよかったね」
詳しい説明もなく、どこかのだれかの映像を見せられることになった。
目の前に広がる自然豊かな空間。いまのエーッテリで見るのと同じような植物、動物たちの姿がある。すこし離れた場所には、いまでは特定の場所以外ではあまり見ない、魔物もいた。
そこでは、少年と少女が会話をしている。
「どうすればいい?」
「もう。集中してるから、ちょっと黙って」
剣を持った体格のいい少年と、背が低めで細身の少女。
「危ないっ」
思わずミナが言った。二人は多くの魔物に取り囲まれている。そのなかの一部が襲いかかっていた。牙と爪がうなる。
一瞬で、辺りにいた多数の魔物が切り刻まれた。剣は動いていない。少女がやったようだ。
「え?」
「興味深いですね」
慣れているようで、少年は驚かない。少女と雑談をしていた。
少女はかなりハイレベルの魔導士らしい。まったく疲れた様子がない。他愛もない会話を繰り広げている。
逆に、少年がぐったりしていた。
「きりがないぜ、これじゃ」
「そうね。どうすればいいと思う?」
おおげさな仕草で考える少年。
「魔力をなくさずに、争いをなくす方法か。おれには難しいな」
「わたくしを頼られても困るのだけれど」
「魔物は、まぁなんとかなるとして」
「人頼みじゃない」
ふくれっ面になる少女。少年が謝って、二人とも笑顔になる。
「なかよしだね」
「ああ。そうかもな」
アイカの意見に、ケルオが同意した。
「問題は人間だな」
「そうね」
「人に魔法が当たらないようにできればなぁ」
「それよ!」
前のめりになって近づく少女。少年が困惑する。状況が飲み込めていないようで、表情に疑問符が浮かんでいる。
「え?」
「それじゃ、いくわ」
「いまかよ」
ようやく分かった様子の少年。恵まれた体格をいかして、少女を守ろうと構えている。
「集中するから、そのあいだ頼むわ」
「了解!」
剣を構える少年。光を放つ少女。二人を中心として、世界が塗り替えられていく。
「なにこれ」
「ほう。これはまさか」
立体映像はここで終わった。
大きな石と、小さな石。
岩と砂利と、背のひくい植物。眼下に広がる黒い大地。
元のウーハラタ山の景色に戻った。
「いまのは?」
「さーて、なんでしょう」
トンッツが意地悪そうに言った。
「英雄が剣を振るった、ですか」
ソレ=ガシは思い出しているようだ。ドラゴンを切り刻んだ英雄の話を。
「なに?」
アイカが聞いて、答えは返ってこない。頬をふくらませて、ソレ=ガシを睨んでいた。
「詳しく聞きたいでしょ?」
いたずらっ子のような表情でトンッツが聞いてくる。次の言葉を分かっているように。もう何かの答えを用意しているようだ。
「いえ。結構です」
ソレ=ガシの返事に対し、おおげさに驚くトンッツ。
「えー」
「ソレ、マジかよ」
「せっかくだから聞けばいいのに」
ミナが唇をとがらせる。眉にも力が入っていた。
「すべてを知ったら、旅をする理由がなくなるじゃないですか」
しばらく、誰も何も言わなかった。
以前のソレ=ガシからは出ないような言葉だった。旅をつづけるようなことは。
意外な言葉に、一同固まる。
「ソレからそんな言葉を聞くなんてね」
ミナが笑う。つられて噴き出したケルオが、意見を述べる。
「まあ、それもいいか」
「えー? いいの?」
アイカは不本意なようだ。
「それじゃ、またいつか来て。話のつづきを聞かせてあげるから」
「ほんとにいいの?」
「いいんですよ。これで」
トンッツに手を振り、四人が山を下りる。
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