第23話 非情な攻撃

余興よきょうはこの辺でいいだろう」

 リヴィトが現れた。

 すぐにハンド魔道砲まどうほうに手をかけ、ケルオが聞く。

「城に招き入れてくれないのか」

「民を危険にさらす王がどこにいる」

「確かに」

 うなずく魔王まおうに対し、ミナが声を張り上げる。

「ソレ、納得しないでよ」

「情報が欲しいだろう。まだ足りない。だろう? ソレ。欲しければ、吾輩わがはいと戦え」

 この世界の魔王まおうは、異世界の魔王まおうとの戦いを所望しょもうしている。

「リヴィトが望む戦いとは?」

「面白いものだ。ソレ!」

 左手に剣を持ち、右手でハンド魔道砲まどうほうを撃つリヴィト。

 ソレ=ガシは右の手のひらから光の弾を発射した。弾同士がぶつかって消える。さらに撃ち込んだ。同じように、次々と小さな爆発が起こる。

 剣が唸りを上げて迫る。

 ソレ=ガシのにぎった左手から光る刀が現れ、剣とぶつかる。かん高い音を立てて押し合った。

「そうだ。それでいい」

「これですか」

 光る刀を振るうソレ=ガシ。リヴィトが軽々と対処する。

 ロングコート姿の男は、一旦離れてから目にもとまらぬ連撃を繰り出した。和服姿の男が応じる。

 ふたつの太刀筋をすべて見切った者は、ここにはいなかった。

「やりますね」

「ちぃっ」

 リヴィトの斬撃が、何度かソレ=ガシに当たる。しかし、ダメージはない。体の表面を覆う膜のように展開している陣のせいだ。

 物理攻撃が全く効かない。

 対してリヴィトには、刀でのダメージがきっちり入っている。とはいえ、高い魔力で防御魔法を展開しているため、かすり傷。

「見事です」

「その口を閉じろ!」

 お互い、弾での攻撃をやめ剣技で戦っていた。

 すべてで一歩上を行くソレ=ガシに、リヴィトがいらだちを募らせる。


 一転して、遠距離での撃ち合い。

 六人は流れ弾に注意している。防御魔法で身を守り、いまのところ一発も当たっていない。

 やはり、ダメージが入るのはリヴィトだけ。

 土埃がおさまったとき、銀髪の男はこれまでとは打って変わって冷静だった。

「体の強さはたいしたものだ。だが、心はどうかな」

 リヴィトが銃の弾を換える。

「アレを使うつもりか」

「ルーヴィ?」

 ナッピの回復魔法で持ち直した帽子の男は、冷や汗をかいていた。

「これで決着だ」

「そんな物があるならさっさと使えばいいのに。もう」

 パヌラプは、ニーソックスの位置を直しながらなまめかしく言った。

 誰かの息をのむ音が聞こえた。

 ソレ=ガシは何も言わず、ただ立っているだけ。避ける気がないように見える。

「ソレ! よけろ!」

「ケルオ?」

 ミナは、いつになく真剣な様子のケルオに違和感を覚えたようだ。

「ボクも、イヤな予感がする。逃げて」

 アイカの言葉にも、ソレ=ガシは反応しなかった。ただ、黙っていた。

 引き金が絞られる。

「くらえ!」

「こ、これは」

 あっというまの出来事だった。

 勢いよく飛び出した弾は、体へと吸い込まれていく。

 陣による防御の効果がなく、ソレ=ガシに衝撃が走る。手のひらを見つめる魔王まおうが、天を仰ぐ。

 弾は命中し、ソレ=ガシの心をむしばんでいった。


 空中に映像が映し出される。

 音もついていた。

「なんだ、これは?」

「もしかして、ソレの?」

「みて、あれ!」

 何かに気づいた様子のアイカが、鏡を指差した。

 あちこちで爆発が起き、圧縮された空気が雲を作る。衝撃波が襲った。その中を悠々と歩いていく和服姿の男が、鏡に映っている。

 エーッテリではない、どこか別の景色。何かと戦っている人たちだ。

「姿に惑わされるな。3桁超えの化け物だぞ」

「いまだ!」

「出し惜しみはするな! すべての力を込めよ!」

 激しい風の音。

「どうなった? 封印できたのか?」

「うむ。二度と災いが起こらぬよう、此奴こやつを――」

 鏡に映る。光に包まれたソレ=ガシが別の世界へと飛ばされる様子が。

 光る結界は、長い時間そのままではなかった。

 封印を自力で解き、放浪するソレ=ガシ。動物に襲われている村人に対し、ためらわずに力を行使した。

「なんて恐ろしい力だ」

「もう、ここには来ないでくれ」

 和服姿の男は、逃げるように、別の世界へと向かう。

 あの世界でも、どの世界にもソレ=ガシに居場所はなかった。

 さすらいつづける男は、また別の世界へと転移する。

「やめてくれ!」

「この悪魔め」

 そして、さまざまな世界を巡ったあと。

「やはり、この世界も――」

 建物のガラスに映ったのは、近代的な風景に似合わぬ和服姿の男。黒髪。

 そのつぶやきが、人々の怒号にかき消される。

「病原体は駆除くじょしろ!」

駆除駆除駆除くじょくじょくじょ!」

 ミサイルが発射され、爆発が起こる。そして2発目。

 中心に立つ人物の姿が揺らいでいった。

 現在の姿も揺らいでいるように見える。ソレ=ガシの様子がおかしい。

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