第21話 冒険者

 強力な魔物がやってきた。

 黄竜こうりゅうだ。

「いい加減、機嫌直せよ、ソレ」

「なんのことですか?」

 ソレ=ガシは、機嫌が悪くて戦わないわけではないらしい。

「ここは、私が!」

「あぶない」

 アイカがミナを突き飛ばす。

 空から仕掛けてきた黄竜こうりゅうに、危うく腕を持っていかれるところだった。といっても、それは普通の人の話。魔法で肉体を強化しているミナなら、かすり傷だったかもしれない。

「ヒヤヒヤさせるな」

 ハンド魔道砲まどうほうを連射しながら、ケルオが息をはく。

「すげぇ」

「ガチってんな」

 いつのまにか、周りには見物人がやってきていた。

見世物みせものじゃねぇぞ!」

 遠距離用のハンド魔道砲まどうほう、スナイパーライフルで目を狙ったケルオ。一発が命中する。

「今度こそ」

 隙を突いてジャンプからのパンチを繰り出すミナ。キュロットスカートがひらひらとなびく。黄竜こうりゅうは崖にぶつかって動かなくなった。

 なんとか撃退したようだ。


「色々な魔物がいますね」

「そうだね」

「もう。ソレも何かしてよー。ケルオも何か言って」

「頼られても困るぞ」

 ソレ=ガシの気持ちを代弁したかのようなケルオは、街が近いのでまだ抱えられていない。

 すこしだけ歩いたあと。

 再び強力な魔物がやってきた。今度は2体。

 牛頭ごず馬頭めず。文字通り頭が牛と馬。体は人に近い化け物だ。

「うわっ。筋肉ムキムキ」

 アイカは、すこし引いていた。

「牛のほうは任せろ」

 ハンド魔道砲まどうほうで弾を撃ち込みながら、ケルオが宣言した。しかし、劣勢だ。

「強い」

 こぶし同士がぶつかり、蹴りと蹴りもぶつかる。

 魔力によって肉体を強化したミナと、馬頭めずは互角にやり合っていた。

「殴っても倒れない相手は、久しぶり」

 乙女らしからぬことを言う金髪の女性。こちらも厳しい戦いを繰り広げている。

「回復は任せて」

「頼りにしてるぜ。こいつは仕留めてやる」

 皆軽口を叩いている。だが、押されていた。

「仕方ないですね」

「ソレ!」

牛頭ごずからいきます」

 見ているだけでは結果はひとつ。さすがのソレ=ガシも戦わざるをえない。

 そして、魔王まおうは陣を使わなかった。光る刀を発生させて、牛頭の魔物に斬りかかる。

 流れるような動きで、斬撃を次々と繰り出していくソレ=ガシ。

 陣を使わず、あっというまに1体を撃破。

「オレたちも負けてらんねぇな」

「だね」

「援護、お願い!」

 スナイパーライフルで的確に手足を狙うケルオ。ミナの傷は、アイカがすぐに魔法で治療した。ミナの回し蹴りがうなる。

 近すぎると援護射撃はかえって邪魔になる。ケルオがのぞくスコープの中で、馬頭めずがよろめく。

 もう1体はミナたちが撃破した。


「あの魔物を倒す、だと?」

 陰から出てきた男に対し、ケルオが聞く。

「なに者だ、あんた」

「まさか、さっきの魔物をけしかけたのは、あなたですか?」

 ソレガシの表情が緩まる。うすい笑顔が怖い。

「俺は、カーンノス。冒険者だ」

 旅人の服に身を包んだ、いかにも冒険者といったちだ。

「なんの用です?」

「だまって、俺と戦え!」

 カーンノスが勝負を仕掛けてきた。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

「いきなりだな、オイ」

「やめてください」

 事を荒立てたくない一行。攻撃をせず、様子をうかがっていた。

 ソレ=ガシの陣に頼るしかない。

「何か情報が得られるでしょうか」

 すぐに、異質な空間が大きく球状に広がった。

「なんだ、これは」

「陣です。すべての物理攻撃は無効になります」

「冗談だろ」

 殴りかかるカーンノス。だが、こぶしはソレ=ガシに届かない。ハンド魔道砲まどうほうを撃とうとして、引き金が引けない。

「バカな」

 それ以上は何もしなかった。カーンノスに、何も考えずに攻撃をつづける気はないらしい。

 すべてを無効にして、完全勝利を遂げたソレ=ガシ。


「ば、化け物だ」

「異世界の魔王まおうです」

 カーンノスは、すっかり怯えていた。

「これに懲りたら、もうちょっかい出すんじゃないぞ」

「ああ」

「それでは、お元気で」

「今度は仲良くしてね」

「おねがいだよ」

「ひいっ」

 びくっと動いて、カーンノスの奥歯がガタガタと鳴った。

「どうかしましたか?」

「仲よくする。仲良くするからー」

 震えながら、ライティスのほうへと走って向かっていったカーンノス。

「よかった。一件落着ですね」

「そうかなぁ」

 一旦船に戻ってから出発することになった。

 休息をとる一行。もちろん、ソレ=ガシには必要ないことは言うまでもない。

「休まないと、体がもたないよ」

「いえ。それがしには必要ありません」

 甲板に立つソレ=ガシは、ミナに真実を話している。しかし、冗談だと思われているようだ。

「私が見ててあげるから、ちょっとだけ横になりましょう」

「それに何の意味があるのですか?」

「いいから。ね?」

 しぶしぶミナの言うことを聞くソレ=ガシ。ところが、壁に背をつけて座るミナがうとうとし始めてしまった。

「仕方ないですね」

 ミナが起きてから、四人で出発することになった。

 船員たちが見送りをする。

「それじゃ」

「お気をつけて」

 北へ向けて出発するソレ=ガシたち。

 漆黒の地、バスタタを目指す。

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