第三章 ただの人

第五節 黒い大陸

第20話 魔物退治

 石造りの港が見えた。

 カッバールッキ大陸の南端、ライティスに到着。

「意外に普通ですね」

 この辺りは普通。だが、バスタタ近辺は地面が黒いらしい。

「船乗りの噂だけどね」

「お前、魔族まぞくのケシィじゃないよな」

「なわけないでしょ」

 ペラシンとマーの言い争いを、タラカストスがいさめる。

「まあまあ、落ち着いてください」

「とりあえず、降りようよー」

「焦るな。転ぶぞ」

 今回も左側を港につけ、いかりを下ろしたウレペウシ号。船長の一言で、いつものように船員たちは静かになった。

 船を降りた四人は、冒険者に話を聞くことにした。

「では、情報をお願いします」

「おっと。兄ちゃん。欲しいならそっちからも出しな」

 たくさんの情報を仕入れてきたソレ=ガシたち。冒険者の問いにすらすらと答え、目を丸くされた。次は相手が話す番になる。

「はるか昔の戦争で自然が破壊された。と伝えられている」

 大きな戦いによって世界が変わってしまったのだ。

 ソレ=ガシは、ほんのすこしだけ嬉しそうだ。

「裏付けができましたね」

 ここは、魔物や魔族まぞくが討伐しきれず、はびこっている唯一の大陸。と言っても、ほかの場所に全くいないわけではない。まれに遭遇することがある。

「おう。新入りか。仲良くやろうぜ。がっはっは」

 ここでは、冒険者たちが幅を利かせている。魔物狩りに命を賭ける者たちだ。

「仲良くやることになりそうですね」

 異世界の魔王まおうたちは資金繰りが厳しいため、魔物を倒してお金を稼ぐしかない。

 船を置き、ソレ=ガシたちはカッバールッキ大陸の北へと向かう。

「バスタタまで145ポマセですかね」

「146ポマセよ」

 魔王まおうは、エーッテリでの距離の計算が苦手だった。

「しばらくは行けませんね」

 街からすこしだけ離れたところで、ソレ=ガシが言った。まだ誰も横抱よこだきにされていない。

 大きな羽ばたきの音が聞こえてきた。空からだ。

「うおっ」

「きゃっ」

「うわわ。怖いよぉ」

 魔物が現れた。最初の攻撃を全員がかわし、倒すべき相手を見つめる。

「これは、アンズーですか」

 巨大な鳥の魔物だ。旋回して再び襲ってこようとしている。

「陣は?」

「必要ないでしょう?」

 ソレ=ガシのやる気はない。三人で倒すしかない。

「いまだ!」

「はいっ!」

 ケルオの射撃でバランスを崩した魔物に、ミナが飛びかかる。キュロットスカートが揺れた。極限まで魔力を込めた右腕の打撃によって、巨大な羽根が残らず宙を舞う。

「うわぁ」

 ハンド魔道砲まどうほうが連射され、とどめを刺された魔物が崩れ落ちた。

「そういう戦いかたもいいですね」

 様子見をつらぬいているソレ=ガシに、ケルオはいらだちを隠さない。

「ソレ、何かしてくれ」

「なぜですか?」

 まるで他人事のように冷めているソレ=ガシ。

「なぜって、お前」

「いいから、次いこ、次」

「アイカは下がっててね」


 魔物退治はつづく。

 といっても、ソレ=ガシたちから仕掛けてはいない。

 向こうからやってきたものを返り討ちにしているだけだ。それでも、結構な数を退治してきた。

「あれは、バロメッツですね」

「ちょっと、おとなしそう」

「見た目で判断するなよ」

 ケルオは大きな体に似合わず慎重だ。ハンド魔道砲まどうほうを構えている。

「子羊のようね」

 油断しているミナに、猛然と駆けてきたバロメッツが牙をむく。

 とっさにソレ=ガシが陣を広げた。球状の空間が発生し、すべての物理攻撃が無効になる。

「ありがとう」

 さわやかな笑顔を見せるミナ。陣の解除にあわせて、魔力で強化した蹴りを食らわせた。服が揺れ、魔物がバラバラになる。

 どんどん退治していく。たまに怪我をして、アイカが魔法で治療した。

 もちろん、異世界の魔王まおうは傷ひとつ負っていない。それどころか、一切戦っていない。

 日も傾いてきたので、一行は街に戻った。

「何か持っていなくてもいいんでしょうか?」

 ソレ=ガシの心配とは裏腹に、魔物退治専門の窓口でお金が支払われた。

「魔力が強い魔物は、だいたいの位置が分かるの」

「で、強いやつはかなりの魔力がある、って寸法さ」

「なるほど」

 ウレペウシ号を修理しても有り余るお金を手に入れたソレ=ガシたち。


 ウレペウシ号に戻る。

 宿代が手に入ったものの、船で眠ることにする。やはり、ソレ=ガシは眠らない。

「人用のナノマシンと、魔族用まぞくようのナノマシン……」

 なにやらぶつぶつと独り言をつぶやくソレ=ガシ。世界の仕組みについて思案しているようだ。甲板で、一人で。

 船員たちは、いつものことなので魔王まおうの独り言は気にしない。

「魔物にもナノマシンですか」

「忙しそうだから、邪魔しちゃ悪いね」

 ミナが、ぶつぶつつぶやくソレ=ガシを放置して自室へと戻っていった。

 翌日。

 船の修理と補給をおこなうことになる。

「行ってきます」

「わたしも」

「気をつけな」

「了解」

 船長であるネリアの言葉に、サフコたちが返事をした。

 部員たちの多くは、食事の買い出しに出かけた。

「部品が手に入ってよかったね」

 アイカの腕の見せ所。芸術的な手さばきで、次々と直していった。


 街に繰り出すソレ=ガシたち。

「お。あいつら」

「エイレンから来たっていう」

「なんでも、素手が異常に強いらしいぜ」

 情報が錯綜さくそうしている。

「すこし違いますね」

 魔物退治によってすこし有名になっていた魔王まおうとその仲間たち。一行は、噂話を流している人物に面と向かって肯定も否定もしなかった。

「いいのか?」

「何か問題でも?」

「うーん」

 ケルオがうなった。ソレ=ガシには、どこか常識が欠如しているところがあるようだ。

「まあ、いいじゃん」

「外に行きましょう」

 ミナの提案で、四人は町の外を目指して歩き始めた。目的は一つ。

「いけませんねぇ」

 ソレ=ガシたちは、建物の陰から何者かに狙われていた。

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