第19話 ソレ=ガシの陣

 エーッテリでの魔力とは、ナノマシンのことである。

 自らを人だと思っているヒューマノイドたちには、人のナノマシンが。

 魔族まぞくには、魔族用まぞくようのナノマシンが入っている。

 動物には動物用の、魔物には魔物用の。

 植物にも、植物用の。

 動物や魔物が魔法を使うことはごくまれ。ナノマシンの量が違うのである。

 いわゆる魔力が尽きるとは、ナノマシンが減少した状態なのだ。

 そして、ナノマシンを持たないソレ=ガシは、ムスタスッカイスウ島の遺跡での試練に挑戦できない。

「困りましたね」

 ミナとケルオとアイカ、三人の魔力の回復を待つことにする。

「ごめんね」

「ちっ。オレのせいだ」

「ボクがもっとしっかりしてれば」

 そのあいだ、船員が試練に挑戦していった。

「やってやるっす」

 あっというまに全員失敗した。

「クラーケンが」

「ベヒーモスが!」

 ヨフトとペラシンは、半分錯乱状態で戻ってきた。

 皆、海の魔物と対峙したようだ。

 どうやら、記憶の中の印象深いものが現れるらしい。


「一人でダメなら」

「二人?」

「三人でいこう」

 ミナとケルオとアイカが、三人同時に試練に挑戦することにする。

「仲間外れですね」

「腐るなよ」

 ケルオの言葉に、ソレ=ガシはすこし顔をゆがめた。

「異世界の魔王まおうにも、できないことはあるんですね」

「また、そんな冗談言って」

 ミナは、いまだに冗談だと思っている様子。

「もう、魔力はバッチリだよ」

「オレも」

「私だって」

 どんなときでもマイペースを崩さないソレ=ガシが聞く。

「ひとつ疑問なのですが」

「どうした?」

 ケルオが不思議そうな表情になった。

「同時に試練を受けたら、誰の何が出てくるのでしょうね」

「やってみれば分かるよ」

「ええ。いきましょう!」

 三人が同時に光る柱を触った。目を閉じる。同時に魔力がこめられ、三人の魔力がじょじょに失われていった。

 光がはじけ、よく知るものが見える。

 三人に共通の思い出。

 不愛想で、冷めた目をしている。黒髪。和服姿の男。

 それは、ソレ=ガシだった。

「げっ」

「やっぱり」

「ソレならなんとかなりそう」

 楽観的なアイカに、ミナが現実を突きつける。

「さっき、ソレに会って失敗しちゃった」

「マジかよ」

 ケルオは、そうとう警戒しているようだ。口元は笑っているものの目が笑っていない。

 試練のソレ=ガシと対峙する三人。

「陣を使います」

「うおっ」

 ケルオが身構えた。ミナは、さっき失敗したにしてはやけに落ち着いている。

「最初から、攻撃なんかしないよ」

「そういえば、そうですね」

「脅かすなよ。って、本物のソレじゃないのか? まあどっちでもいい。よく聞けよ」

「なになに?」

「オレは最初、ソレにビビってた!」

 ケルオが告白した。二人が笑って、もう一人も遅れて笑った。アイカも構える。

「ボクは、旅に出られてよかった!」

 ソレ=ガシは何も言わない。黙って聞いていた。表情を変えずに。

「私は」

「……」

「私は、ソレに会えてよかった。もっと旅がしたい!」

 三人が思いをぶつける。

 ソレ=ガシの表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった。口を開きかけたところで、まばゆい光があたりを覆い尽くす。

 試練が終わった。


 光がおさまった。

 一行は、ムスタスッカイスウにはいなかった。転移する前と同じ位置に戻ってきていた。

 全員、カッバールッキ大陸付近で転移したときと同じ場所にいる。

 ウレペウシ号の上に。

「やったあ」

「一時はどうなることかと思ったぜ」

「つかれちゃった」

 船員たちも歓声を上げている。

「いえーい」

「脱出できたー」

 ソレ=ガシには事情が分からない。知りたくてうずうずしている様子だ。

「何が起きたのか、詳しく説明してください」

「ソレが出てきたよ」

 アイカは、屈託のない笑顔をソレ=ガシに向けた。

「本当ですか? 興味深いですね。それで、何が?」

「内緒」

 ミナが、いたずらっ子のような表情でソレ=ガシに告げた。

「そこをなんとか、教えてくれませんか?」

 ソレ=ガシの興味は尽きない。三人は大笑いした。

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