第18話 試練とミナ

「私、やります」

 ミナが試練に挑戦する決意を固めた。ソレ=ガシが問う。

「これまでの傾向と対策は?」

「オレは、過去の忌まわしい記憶だった」

 立ち上がって、ケルオが言った。アイカも立ち上がる。

「ボクは、最近のガーディアン」

「つまり、記憶の中の何かと対峙するわけですか」

「考えても仕方ないよ。いきます」

 ミナは気がはやっているようだ。

「もっと作戦を練ったほうがいいと思いますが」

「でも、早く脱出しないと」

 焦っている様子のミナが光る柱に触れ、魔力を注いだ。

 ソレ=ガシも一緒に柱を触る。そして、一緒にはいけなかった。

「なにやってんだ、ソレ」

「なにかが起こったら、どうするつもりだったの?」

 アイカが一番心配しているように見える。

「やはり、駄目みたいですね」

 ソレ=ガシは、まったく悪びれる様子がない。

「せめて、相談してくれ」

「そう、そう」

「そういうものですか」

 異世界の魔王まおうは、何かを学んだようだ。いかせるかどうかはともかくとして。


 光が消えると、やはり見慣れた景色だった。

 ミナの子供の頃の視点。

「これが、試練?」

 ただ遊んでいるだけ。

「こっちだよ」

「いいや、こっち」

「こっちで遊びましょうよ」

「あはは」

 多くの友達と遊ぶ。今日も、明日も、明後日あさっても。

 ただ、その中に真の友はいなかった。

「思いだした」

 ミナが、忘れようとしていたことを思いだしたらしい。

「あそぼう」

「遊ぼうよ」

「ほら、早く」

「私が、ミナ=カウニスだから」

 ミナは、家柄だけで見られていたことを思いだしたようだ。


 いつのまにか後ろにいたソレ=ガシ。

「陣です」

 ハンド魔道砲まどうほうすら知らなかった男。引き金を引いても、豆鉄砲にすらならないどころか何も起こらない。

 いまなら分かる。ナノマシンを持たないから当たり前のことだ。

「撃てませんね」

 トゥットゥも、ケシィも知らなかったソレ=ガシ。この世界、エーッテリの常識を持ち合わせていない。

 誰かの犬になる気もさらさらない。いつも自分本位で、周りのことはお構いなし。

 誰からも、何も求めていないかのような孤独さをかもし出している。

 まるで傍観者、あるいは観測者のような。

「興味深いですね」

「ソレ=ガシってば、そればっかりだもんね」

「そうですか?」

「そうだよ」

「そうかもしれませんね」

 あまり表情を変えない男が、ほんのすこし口角を上げた。

「興味があるの?」

「ありますよ」

「何に?」

「すべてに」

 いつしか、何かが変わり始めた。


 ソレ=ガシは何もしない。

「情報をくれませんか?」

「え? え?」

 しかし、ミナは何の情報を与えればいいのか分からない様子。

「情報ですよ」

「そう言われても」

 何を話せばいいのか分からないらしい。口ごもりながらも、ようやく話しかける。

「あのね。私――」

 その言葉はさえぎられた。無表情で、ソレ=ガシがたずねる。

「ここからあの星まで、何ポマセだと思いますか?」

「星って」

「ああ。あれは衛星です」

「エイセイ?」

 聞き慣れない単語に戸惑っている様子のミナ。何かを言おうとして、言葉が出てこない。

「この惑星にも、月があるみたいですね」

「ワクセイって、何?」

 ミナは試練に失敗した。

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