第16話 試練とケルオ

 カッバールッキ大陸に近づくウレペウシ号。

 突如、景色が変わった。

 魔力のないソレ=ガシには何が起きたのか分からない。

「これは一体?」

「どうやら転移したみたい」

 ミナが、ソレ=ガシの袖口を持ちながら言った。長いまつげがぱちぱちと動いている。おびえているらしい。

「なんでまた、転移したんだ」

「だれか知らない?」

 ケルオとアイカが聞いて、船長が命令を下した。

「野郎ども、情報を出しな」

 船長の命令で、次々に情報が出てくる。

「ここはムスタスッカイスウ」

「島です」

「恐ろしい場所っす」

 普段とはまったく違うおどろおどろしい雰囲気で、マーが口を開く。

「通称、魔の海域」

「魔の海域? 興味深いですね」

 船乗りたちが言うには、ここはムスタスッカイスウ。魔の海域のようだ。

 分かっているのはこれだけ。まだ情報がすくない。さらに、ほかの船員からも情報を集めることにする。


 ムスタスッカイスウ島へと近づく。

 ご丁寧に、船が停泊できる桟橋があった。

「試練を突破しないと外に出られない、だって?」

「なんだってそんな入り口が海の上に」

「しかも町の近くに」

「どうなってんの」

「リヴィトの罠、ですか」

 ソレ=ガシの言葉で、一瞬の沈黙がおとずれた。

「残念なお知らせだ」

「なに? ケルオ」

「試練でソレは頼れない」

「なぜです?」

 珍しく、ソレ=ガシの眉がすこし下がった。自分の力に絶対の自信を持っているからだろうか。頼ってほしいからだとは考えにくい。

「魔力が必要って相場が決まってるからな。だろ?」

「ああ」

「よく聞く話だね」

 ケルオの放った情報に、船員たちもうなずいた。

「えぇー」

 アイカが残念がる。

 なんと、試練は魔力を使うため、ソレ=ガシには挑めないというのだ。

「無理矢理空間をねじ切るというのは」

「ダメ」

「いけそうじゃないですか?」

「ソレがよくても、ほかの人が出られないよ」

「ふむ」

 アイカの正論に、ソレ=ガシが黙った。

「魔力の強いやつがいったほうがいいだろうね」

 船長が言った。船員たちの話では、誰か一人が試練を突破しないといけないらしい。全員で挑む必要がないと知り、多くの者が安堵のため息をついた。

 一行は船を降りた。

「困りましたね」

 無表情で告げるソレ=ガシは、まったく困っているようには見えない。ヒューマノイドよりも、よほどロボットらしさがある。

「こっちだ」

「伝承通りっす」

 その方向には、古びた石造りの遺跡があった。

 全員が遺跡へと入る。


「オレがやる」

「だいじょうぶ?」

 ミナは、ケルオを心から心配しているような不安げな顔を見せた。

「お前らには任せられないからな」

「気をつける点はなんですか?」

「そこまでは、ちょっと」

 試練に挑まなければ出られない。船員たちはこれ以上の情報を持っていないらしい。

「そんなー」

 アイカが一番心配しているように見える。その頭を、ケルオがポンポンと叩いた。

「じゃ、いってくる」

 まずは、ケルオが試練に挑むことになる。

 遺跡の中の光る柱に手をかざし、魔力をこめるケルオ。

 光る柱はひとつしかない。ほかの者たちは、黙って見つめていた。ケルオの身体からじょじょに魔力が失われていくのを感じながら。

 ソレ=ガシには、魔力を感じることはできない。まったく状況が分からない。

「暇になりましたね」

 試練が始まった。

 といっても、周りの人たちには何が起こっているのか分からない。ケルオはそこに立ち続けていた。ただし、目をつむって。

 光がほとばしり、おさまったあとで見たのは見慣れた風景だった。

 ケルオは、子供の頃の自分の視点で物事を見ていた。

 ハンド魔道砲まどうほうの扱いに長けているケルオ。

「こんなこともあったな」

「すげーな、ケルオ」

「おれのなんて、豆鉄砲だぜ」

「魔力、か」

 つぶやいた言葉に、周りの子供たちは反応しなかった。すっかりハンド魔道砲まどうほうに夢中のようだ。

 続いて、時が経ち戦地での視点。気づいたケルオの顔色が変わる。声を張り上げざるをえない。

「ここは。おい! 逃げろ!」

 目の前で銃弾の嵐が吹き荒れる。

 視線の先には、子供がいた。

 のばした手は届かない。

 子供を救えなかった。最も近くで、命が失われていく様を見ていたケルオ。

「また、オレは!」

 ケルオが叫んだ。


「っは」

 全員遺跡の中にいる。ケルオは試練に失敗したようだ。

 ケルオは、魔力がほとんど空になって戻ってきた。大柄な体に大粒の汗をかいて、息も絶え絶えだ。

「だいじょうぶなの? ケルオ」

「ああ。命までは取られないみたいだな」

 冷や汗をかくケルオが、その場で座りこむ。

「ほんとに?」

「本当だ。落ち着け」

 心配するアイカへ、赤毛の男はぶっきらぼうに伝えた。

 ケルオは帽子を深くかぶり、表情をうかがい知ることができない。マントは風になびかなかった。

「では――」

 きりっとした表情で、ミナが柱へと向かう。といっても、すぐ近くにいるので一歩踏み出しただけだ。

「次は、ボクだよ!」

 大声が遺跡中にひびく。

 つづいて、アイカが名乗りを上げた。

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