第7話 ルーヴィ

「町はまだか」

「もう、すぐそこですね」

 と言ってから、5分は南へと走った。

 そこは雪国だった。

 いつものように、ソレ=ガシに抱えられて移動していたケルオが降ろされる。

「ずいぶん遠いところまで来たね」

 ミナの言葉に、誰も反応しなかった。白い景色を見ていた。雪がちらちらと舞う中、歩く三人が町へと入る。

 オンキアに到着。

 解決すべきもめ事とはなにか、聞くまでもなかった。

「あんたたち、ここから離れろ」

「なぜですか」

「いいから、来るんだ」

 射線が通らない場所まで連れて行かれ、説明を受けるソレ=ガシたち。

「ハンド魔道砲まどうほうを持ったやつが、建物の中にいる」

 このあたりの建物は、木造で土壁が主流。熱を逃がさないように工夫がされているらしい。

「ほう」

 町の入り口付近で、立てこもり事件が発生していたのだ。

「では、早速さっそく

 すぐに制圧しようとするソレ=ガシ。しかし、ケルオが引き留めた。

「オレにやらせてくれ。このままじゃ、足手まといの烙印らくいんを押されちまう」


 衛兵から情報は集まった。

 どうやら、犯人は一人らしい。名はルーヴィ。40代。ハンド魔道砲まどうほうを複数持っている。

「そこまで分かっていて、取り押さえられないのですか」

「あんたらがなんとかできるって言うのかい?」

「できますよ」

「ちょっと。あんまりはっきり言わないほうが」

 ミナは慌てていた。金髪が左右に揺れる。

「なぜです」

「なぜって、ねえ」

「いや。ここはオレに任せろ」

 ケルオが言いきった。

 外は冷える。食堂に入り、見取り図を見て、作戦を立てることになった。ケルオが帽子をぬぐ。

「赤毛なんだね」

「珍しくもないだろ」

 ついでに食事はおこなわなかった。周りのテーブルで暖かい麺類を食べる客を尻目に、作戦会議になる。

 もちろん、ソレ=ガシは食べる必要がない。

「やけに窓の少ない建物だ」

「ほんとね」

「なにか要求するなら、この窓から身を乗り出すはず」

 ケルオが予想し、ソレ=ガシも同意した。

「一人でやるなら、ここで待っていましょうか」

「ああ。そのほうがいい」

 マントの男は一人席を立つ。建物の外へと出た。カウボーイハットのような帽子をかぶり、目標を狙撃できる別の建物の上へと走っていった。

 まだ動きはない。組み立て式の長距離狙撃用ハンド魔道砲まどうほうを組み終えた体格のいい男が、じっとそのときを待つ。

 スコープ越しに狙いを定めるケルオ。窓が開いた。

「こいつ、違う」

 見えたのは女。情報と異なる。ケルオは、すぐに周りを見渡した。

 べつの場所から狙っている自警団がいる。気づいたケルオは、撃つことを予測していた。自警団の撃った弾を狙って撃ち、狙いをはずすことに成功する。

「当たりだな」

 犯人であるルーヴィが言った。ケルオのいる方角を見て、ニヤリと笑う。

 堂々と正面から出てきたルーヴィ。自警団を次々に撃っていく。

「野郎。こっちを狙わない? 読み間違えたか」

 ケルオの位置からでは、犯人を狙えない。建物を駆け下り、地上を目指す。外に出たとき、二人の目が合った。

 大通りの上、遠距離でケルオとルーヴィが対峙する。

 ケルオの速攻。

 遠距離用のバレルが長いハンド魔道砲まどうほう。スナイパーライフルがうなる。

 ルーヴィの帽子が風になびき、首のスカーフがはじけ飛んだ。

「防御魔法か。だが」

「惜しいな」

 マントの男と同じく、ルーヴィもスナイパーライフルを構えていた。走るケルオが狙われ、マントに穴が開いた。

「くっ」

 スコープを覗くと、ルーヴィの帽子が宙を舞っていた。光っている。

「まずい。伏せろ!」

 起こる爆発。大通りにきれいな穴が開き、暗闇が立ち込める。

「爆発ですか」

「魔法の複合的な使いかたよ」

 外に出たソレ=ガシの疑問に答えたミナ。

 和服姿の男だけが、何かを目で追っていた。

 煙が晴れたとき、そこにルーヴィの姿はなかった。


 立てこもり事件は一応の解決を見る。

 犯人の生死不明という形で。

「解決でしょうか?」

「オレがもっと上手くやってれば」

「まあまあ。犠牲者が出なかったからいいじゃない」

 ミナは優しい。

「それでは、急ぐのでこれで」

 自警団への挨拶もほどほどに、三人は歩みを進める。

「待ってください」

 白い息をはきながら、女性が話しかけてきた。

「どちらさまですか?」

「わたしは、ケイハス。さきほどは助けていただき、ありがとうございました」

 ケルオのほうを向いて、深々と頭を下げている。

 さきほどの人質だ。

「お礼をさせてください」

「いえ。急ぎの用が」

「ないです。ないんです」

 断ろうとするソレ=ガシに、ミナが付け加えた。どうやら、この手の話を断れないらしい。

 ケルオは断ろうとして黙ったようだ。

「では、行きましょう」

 ケイハスに連れられて、三人は歩き出した。

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