第4話転移
聖女クラリスが、王太子の私兵から逃げ出し、悪魔の処刑台に駆け上ったとたん、視力を失うほどの激しい光が辺り一面を覆った。
そのあまりの激しさは、悪魔の処刑台から十分離れた心算だった、魔族であるダンケル公爵家の者達に化けの皮を剥いだ。
彼らの醜い悪魔の姿が、その場にいる人々すべてにさらけ出された。
だが、それだけだった、その場にいる人間には、悪魔に対応する力などなかった。
本来なら先頭に立って悪魔を討たなければいけない王太子は、神々の仕掛けた光の仕置きによって目と皮膚を焼かれ、激痛にのたうち回っていた。
いや、王太子だけでなく、過去に神々が設定した罪悪を行っていた者は、全員目と皮膚を焼かれ、激痛に苛まれていた。
人間だけではなく、力弱き魔族も同じで、眼と皮膚を焼かれ、翼が役に立たなくなり、空を飛ぶこともできなくなっていた。
その場で無傷でいれたのは、本当にごくわずかな人間だけだった。
聖女クラリスの側仕えと、心正しい者達だけだった。
彼らの目には、多くの人間と魔族が苦痛にのたうつ姿は、地獄の様に見えた。
天の神々の怒りが下されたのは、否定しようのない現実だった。
彼らは神々の更なる天罰を畏れ、地に触れ伏して許しを請うた。
だが、本来ならその先頭に立つはずの聖女はもういない。
その頃聖女クラリスは、別の次元に転移させられていた。
聖女クラリスの事を愛しく思う神々が、クラリスに幸せになってもらいたくて、自分たちの目の届く平和な世界に送り込んだのだ。
早い話が地球のある世界なのだが、それには神々の思惑もあった。
それなりに平和な地球ではあるが、人間の心が育っていないのも確かだった。
本来の神々ではなく、人間が勝手に創り出した欲得のための神を崇める者もいる。
神々は聖女クラリスの力で地球の人間を導いてもらいたいとも考えていた。
もし聖女クラリスの力をもってしても正しく導けないのなら、天罰を下して世界の創造をやり直す事も考えていた。
聖女クラリスに地球の勇者を仕えさせて、元の世界を正す事も考えていた。
神々は一つの考えに固執するわけではなく、あらゆる方策を考えていた。
そしてそのために、聖女クラリスを地球の日本に転移させたのだ。
「ここが、神々が私を導くために送ってくださった世界ですか。
言葉が通じるようにしてくださったとはいえ、たった一人全く知らない世界で暮らすというのは、とても不安なものですね。
早く神々が選んでくださった側仕えと出会えればいいのですが……」
婚約破棄追放された聖女が令和日本にやって来た。 克全 @dokatu
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