血吸い姫と仙境者-Blood-sucking night-
踊りを終え、優雅に奏でられる旋律を背に、
疲労を感じさせる足取りの
「シノブさま大丈夫かえ?
「ん、これくらい平気だよ。
「んー、
口では大丈夫と言いつつも、隠し切れないほど疲れの色が見える
ふらふらと進む彼女の手を取りつつ、周りに休める場所が無いかを見渡すシノブは、会場内では目ぼしい場所は見つけられず扉へと目を向ける。
「――外に出ようか。ほら、こっち」
「んーなんじゃなんじゃ」
祝宴の席では休み切れないと思い、外の空気でも吸えば少しはマシになると踏んで、
大してアルコールを摂っていないのにも関わらず、
青みを帯びた静かで優しい月光は二人を
――あれと代わるって
けっして口には出さず、心の奥底で隣の少女へ思いを馳せていると、彼が来ている
「どうしたのじゃ、シノブさま」
「ん、いや。何でもない」
見上げてくる赤と青の
ジッと交わされる視線はすぐさま途切れることは無く、心臓の鼓動が聞こえるほど
ドクン、ドクンと。
息を呑み、呼吸を忘れてしまうほど強く、熱い何かが湧き上がってくる。
「
「あー……なんじゃ、その。あれじゃ、あれ」
自分の意思では逸らせない
頭はうまく動かず、口も浮かび上がる単語を吐き出すことが叶わない。
自分自身ですら緊張と熱を感じ、戸惑いに冷静さを無くす
「血を、吸いたくなってしまったのじゃ……」
「――……あー、なるほど」
ちょっとそこで休むのじゃと、胸に手を当てて深呼吸をする
その様子を見るシノブは合点がいったのか一人頷き、この先を思案しながら辺りを
城内からは人が来る気配は無く、外も同様にこちらへ向かう人影も認められない。
未だ深呼吸を続けている
「じゃあ
「ちょっ、まっ、待つのじゃシノブさま!」
立ち上がる事すら出来ない
再び蘇る心臓の鼓動と熱い情動。
渇いていく喉につられ、
――ゴクン。
渇きを癒せと鳴らされる喉をシノブは了承と受け取り、空いた右手で衣装の首元を晒す。
「シノブさま、
「いらない? じゃあここで止める?」
「……っ。いやっ、それはじゃな」
シノブの晒した首筋から視線が外れない
「気乗りしないなら仕方ない。何より、ここに来たのは
「まっ、待つのじゃ。シノブさま。お願いじゃから」
ふぅとため息をつき、立ち上がろうとしたシノブの裾を、
立ちあぐねた彼は
シノブはそれ以上何もせず、ただ見つめ合って無言を通す。
「……たいのじゃ。じゃから、その。もっと近くに。近くによって……くれんかの」
「よく聞こえなかったから、もう一回言ってくれるかな」
「……もうよかろうて。分かっておるくせに、シノブさまはズルいのじゃ」
静寂を破ったのは
彼女の声が聞こえなかったと言うシノブに、
それを見たシノブは頬を緩め、彼女の手を離す代わりに頭へそっと撫でる。
「ごめん。――ほら、いいよ」
「……はぁむ」
むくれる
最初は牙を立てず、甘噛みにもならない力で口に含む彼女は、恨めしそうにシノブへ視線を送る。
「いひゃひゃきまぁふ、なのひゃ」
「くすぐったいから、そのまま喋らないでよ。
「……ひらひゃいのひゃ」
ハムハムと口を動かす
大胆にはやらず、ペロペロと慎ましくしている
時折当たる歯の感触に微笑ましさを感じる彼は、
「――……っ!」
ゆっくりと差し込まれる牙は、押し込まれる感触に続き、鈍い痛みを与えていく。
かかる吐息に流れ始める血を逃さないと動く舌、
それは痛みによるものか、それとも――
「……ぅん」
コクリと口の中に広がる鉄の味を捕らえ、舌で転がし、喉を鳴らす
少しずつ少しずつ、付けた傷口から流れ出す血の味を感じるたびに、さっきまでの感情は
もっと、もっと欲しい。
心身ともに欲求を満たそうとねだり、無我夢中で牙を突き立てる。
「いっ……!
シノブの静止は耳に入らず、
今彼女が飲んでいるのは、血液という名の至上のカクテル。
匂いに味に酔い、飲んでもなお満たされるどころか渇き続ける、
密着し帯びる熱に身を任せ、情動の
「…………ぷはぁ」
「結構吸ったね、
いったいどれほどの時間が経ったのか。
ようやくシノブを開放した
今度は別の意味で顔を赤らめている
「あー……、これはまいったなぁ」
「しのぶ、さまぁ……」
立ち眩みでバランスを崩すも、何とか立ち上がれたシノブは、
夜風が吹き抜けると体を縮こませる
どうしたものかと一考するシノブは月を見上げると、ひっそりと笑って少女を抱きかかえた。
月代紅音二次創作集 薪原カナユキ @makihara
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