第14話 ボイスレコーダーの声
毎年、怪談噺だけを口演する、そのものズバリ『三遊亭楽天落語会 -怪談-』という落語会を開催している。
今年もこの会を行ったのだが、高座にマイクを設置してボイスレコーダーで音声を録音していた。
通常、落語会は前座さんが上がった後、二ツ目以上の落語家が高座に上がるのだが、この会では変則的にまず、僕が高座に上がり一席演って、前座さんと交代し、その後また僕が一席……と落語会は無事御開き。
前座さんには録音した音源のうち、彼の音源をメールで送るという事になった。
後日、この時に録音した音源をかみさんが編集してくれていた時の事。
「……ねえ、ちょっといい?」
かみさんが怪訝な顔をしている。
「どうしたの?」
「うん、ちょっとこれ、聴いてくれる?」
かみさんからイヤホンを受け取って耳に装着し、かみさんが音源を再生する。
出囃子とお客さんの拍手が聴こえ、前座さんが声を出すその少し前に、微かな声で
「お願いします……」
という声が聴こえた。
高座のマイクは指向性があり、かなり大きな音で無ければお客さんの声も拾わない。近くで声を出さなければ、声は入らないはずである。
しかも、その声は僕や前座さんの声質とは明らかに違う、弱々しい消え入るような震えたような声だった。
もちろん、お客さんが勝手に高座に上がってマイクの近くで声を出してもいなければ、舞台袖には僕と前座さんしかいなかった。
あの声は一体、何だったのだろうか……?
怪異拾遺 三遊亭楽天 @rakuten3ut
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