愛の森
雨世界
1 忘れないよ。絶対に忘れない。忘れたりなんかしない。
愛の森
登場人物
田中愛 愛を探す人
井上花 幸せを願う人
山本葉 君の思う人
プロローグ
白い月
……真っ白な色の中で。
忘れないよ。絶対に忘れない。忘れたりなんかしない。
あなたのこと。みんなのこと。私の、……この大切な気持ちを。
私は、絶対に忘れない。
本編
あなたは、いったい誰ですか?
見上げると、そこには青色の空の中に浮かんでいる孤独な白い小さな月があった。
その白い月を見て、私は自分の失ったものを思い出した。(そして、青空のしたで、一人、涙を流したのだった)
深い森
田中愛はずっと動かし続けてきた足を、その場所にたどり着いたときにようやく止めた。
愛の足元には、白い花が咲いている。
名前も知らない花。(でも、その花はとても綺麗な花だった)
その白い小さな花を緑色の草の生い茂る大地の上に見つけて、愛は自分の親友である井上花のことを思い出した。
……白い花か。
白はあなたの一番大好きな色だったね、花。
そんなことを思って、愛はにっこりと笑った。白は花の大好きな色。白は花の色だった。じゃあ、私は? 私は何色をしているんだろう? とそんなことを疑問に思ったりした。
赤色、青色、黄色、……うーん、それとも、この深い森のような緑色かな? 愛は足を止めたまま、顎に手を当てて、そんなことを考えてみる。でもどうしても、自分にぴったりの色を愛は思いつくことができなかった。
きっと私も花と同じで白色をしているんだと思う。(……もしくは、あんまり考えたくはないけど、花とは真逆で、黒色、なのかもしれないけれど)
そこまで考えたところで、愛は「はぁー」と深いため息をついた。
それから目の前を見て、自分の前に立ちふさがっている、とても深い緑色をした森を、攻撃的な目をして見つめる。
この森、『神様の森』と呼ばれている森は、神隠しの森として地元では、とても有名な森だった。
決して足を踏み入れてはならないとされている、いわゆる『神域の山』の奥にあるとても、とっても深い森。
そんな森に田中愛はたった一人で、ファンタジーに登場するような架空の動物のデザインがされている黄色のリックサックを背負ってやってきた。
この森の奥に行ってしまった友達を助けるために。
……自分の世界で一番の大親友である井上花に、もう一度会うために。
「よし。じゃあ、気合を入れていきますか」
そう言って、にっこりと笑うと愛は一人、またずっと動かし続けていた足をもう一度動かして、森の中へと無造作に足を踏み入れて行った。
愛の姿が見えなくなると、ちりーん、とどこかで鈴の音が聞こえた。
それは愛が自分のリュックサックの横に下げている、小さな鈴の奏でた音だった。その鈴は、愛が町のお祭りの日に、花からもらった、大切な鈴だった。(あなたの身を守る大切なお守りだって、花は言っていた)
愛の森 雨世界 @amesekai
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