第178話 襲われる学院

 先日、アルティ、ティーナ、ロゼッタにはこっそり祝福を与えている。

 改めて授けたところで、効果のほどがどれほど違うかわからない。


「……どうだ?」

「説明は難しいですが、なにか変わった感覚はありますわ」

「うん。変わった。あたしはスカウトだからか、はっきりわかる」

「はっきり、わかるのか?」

「うん。風の匂い。雨が身体に当たる感覚。そして遠くの景色。全てが鮮明になったよ」


 狩猟神の効果だろう。

 ロゼッタは狩猟神の寵愛値が元々高い。

 元々寵愛値が高い方が、新たに授ける祝福の効果も大きいのだろう。


「参考になる」

「わたくしは、それほど感覚が変わったという感じではないですが……。魔力が多くなった気がします」


 ティーナの寵愛値が元々高かったのは、水神、魔神、炎神、雷神、氷神、土神、風神の七柱だ。

 実際に魔法を使ってみるまで、その威力の向上を実感しにくいのかも知れない。


「恐らくティーナは魔法の威力だけでなく、操作技術も向上している……、と思う」

「楽しみですわ!」

「アルティはどうだ?」

「身体の感覚が鋭敏になりました」

「それはよかった」


 アルティは元々、剣神の寵愛値が非常に高かった。

 それに武神や闘神、そして魔神の寵愛値がはねあがったはずだ。

 戦闘センスや技術、それに魔力による身体強化に関する技術が向上しているだろう。


 先日、軽く祝福を与えただけで、三人とも戦闘技術が向上していた。

 三人とも今日の戦闘での活躍は、めざましかった。


 改めて祝福を与えたことで、さらに活躍してくれるに違いない。


 祝福を与え終わると、俺は通話の指輪でゼノビアに語りかけた。


「ゼノビア。現状は?」

『はい。師匠。芳しくありません』

「ディオンやミルト、レジーナたちは?」

『前回と同じですよ。各地に対応に向かっているので学院にいるのは私だけです』


 陽動に引っかかったと言えば、それまでだ。

 だが、陽動かも知れないと思っていても、どうすることも出来ない。

 実際に、教団の襲撃によって各地に大きな被害をもたらしかねないのだ。


「敵の戦力を過小評価しすぎていたか?」


 これまでは各地で教団が動き出したら、救世機関の戦力で潰すことが出来ていた。

 機関の戦闘部門の手に負えない状態ならば、レジーナたちが駆けつければ良かったのだ。


 各地で同時に戦闘部門の手に余る状態が頻発する現状は想定外なのだろう。

 こういう場合、どこの地域を切り捨てるかを考えねばならない。

 そういう局面に入ったのかも知れなかった。


『……面目次第もありません』

「いや、謝る必要は無い。過小評価していたのは俺も同じだ。で、そちらにも枢機卿か?」

『恐らくは。まだ敵の首魁と出会っていませんが、襲撃の規模から考えて、枢機卿クラスでしょう』

「そうか。なるべく早く駆けつける」

『はい。……本心を言えば、師匠には潜伏していただきたいのですが』

「そんなに状況は悪いのか?」

『はい。私が死を覚悟するほどには』

「そうか。死ぬな。すぐ向かう」

『……はい』


 俺がゼノビアに連絡している間にもルーベウムは勢いよく飛んでくれる。

 合宿の場所から、学院までは馬車で十四時間の距離だ。

 その距離を、ルーベウムは三十分程度で飛びきってくれた。


「そろそろ到着するよ! きゅる~」

「ルーベウム、ありがとう。大丈夫か?」

「だいじょうぶ!」


 力強く返事をしてくれるが、ルーベウムが疲れているのは間違いない。

 だが、休んでくれと言えない状況なのが辛い。


「もうすでに戦闘中みたいね」


 ロゼッタが遠く見ながら言った。


 遠くに王都と学院が見える。

 学院手前の平原の上空をドゥラが飛んでいた。

 そしてそのドゥラ目がけて、地上から金色の光が飛ぶ。

 その光を巧みにかわしながら、ドゥラは地表を暴風のブレスで薙ぎ払っていた。


「金色の光を放っているのはテイネブリスの尻尾だな」


 それも一匹ではない。

 ドゥラも一生懸命戦っているし、上空という有利な地点を確保している。

 それでも多勢に無勢。長くは持つまい。


「ウィル! 学院の中に敵が入っているよ!」


 気配察知能力に長けたルーベウムが教えてくれた。

 俺もすぐに魔法で探索して確認する。


「……確かにそうだな」

「ローズ……」


 託児所に妹ローズを預けているロゼッタが緊張した面持ちで呟いた。


 俺は通話の指輪に呼びかける。


「ゼノビア! すぐに学院に着く。どこに居る?」

『南門で戦闘中です!』


 魔法で索敵すると、四方の門で救世機関の戦力が戦っていることがわかった。

 四方の門の全てでギリギリの戦いを繰り広げている。

 救世機関の戦力だけでなく、上級生である生徒すら動員してぎりぎり抑えているようだ。


 だが、完全には敵を防ぎきることは出来ていない。

 学院内部まで敵の侵入を許してしまったようだ。


 とはいえ、門から戦力を裂くわけには行かない。

 そんなことをすれば、たちまち門が破られ敵が中に殺到してしまう。

 学院内部に入り込んだ敵の掃討は、学院内部に残った生徒たちに任せるしかないのだろう。

 非常に危険な状態だ。


「俺たちは学院の中から敵を掃討する」

『助かります!』


 そして俺はルーベウムと皆に言う。

「学院内から敵を一掃し、それから門の救援に向かう」

 全員力強く頷いた。


「ルーベウムはドゥラを助けにいくね。きゅる」


 ドゥラがテイネブリスの眷族を引きつけているからギリギリ門の防衛が出来ている状態だ。

 絶対にテイネイブリスの眷族を門に殺到させル訳にはいかないのだ。


「きつい仕事になるだろう。だが、頼む」

「ルーベウムに任せておいて。きゅる」

「一度、学院の上まで飛んでくれ。そこで俺たちは飛び降りる」

「わかった」


 ルーベウムは急降下して、地表をかすめるように飛びはじめる。

 自分の存在をアピールし、ドゥラに向かう攻撃を自分に引きつけようとしているのだろう。


「十匹、いや離れている奴も数えれば二十匹を超えてるな。ルーベウム気をつけろ」

「わかった! きゅる」


 低空を飛ぶルーベウム目がけて、テイネブリスの尻尾が金色の光線を口から放つ。

 それを器用にかわしながら、ルーベウムは炎のブレスで焼き払いつつ飛んでいく。


 高速で飛翔するルーベウムにドゥラが近づいてきて、並走し始めた。

 ルーベウムの祝福のおかげか、ドゥラも俺たちと戦ったときより遙かに強くなっているようだ。


「クンシュさま!」

「ドゥラ一緒に戦うよ。きゅるー」

「ミにアマルコウエイ!」


 そして、飛行するルーベウムは学院上空に達する。


「ルーベウム。ドゥラ空は任せた!」

「気をつけてね! きゅる」

「オマカセを」


 俺はシロとフルフルを肩に乗せ、懐にフィーを入れて、アルティとロゼッタの腰を抱き、ルーベウムの背から飛び降りた。

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