第177話 祝福

 王都に向かって高速で飛ぶルーベウムの背の上で、俺はティーナとロゼッタに言う。


「今まで話していなかったんだが、俺には秘密がある」

「……それはあると思いますけれど」

「こんなときに言っていいの?」


 ティーナとロゼッタは不安そうにこちらを見ている。


「こんなときだから、言わねばならない。そして聞いてから学院に一緒に戻るか判断してくれ」


 枢機卿は俺を狙ってきていた。つまり俺と行動することに危険を伴うようになった。

 だというのに、俺の正体を隠したまま、同行させるのは誠実ではない。


「単刀直入に全て言おう。俺はエデルファスの転生体だ」

「エデルファスって、お師さまのお師匠さまの?」

 ティーナは驚いたようで目を見開いた。


「そのエデルファスだ。そして、人神とか魔神とかいろいろな神の使徒でもある」

「神の使徒っていうと……」


 俺は神の使徒の説明を簡単にした。

 ついでにシロやルーベウム、フルフル、それにルンルンも神の眷属で、フィーは神霊であることも伝える。


「……そうだったんだ。驚いたけど納得の方が強いかな」

 ロゼッタはそんなことを言う。


「俺の最終目的が、テイネブリス討伐だということは話したよな。あれは本当だ」

「そっか」

「そして、ある意味、ここからが肝心なんだが……」


 俺は竜の山脈からの帰還の日に教団の枢機卿を倒したことを教える。

 そしてそれがどうやらばれていたことも。


「だから、これから俺と行動することの危険度はこれまでに比べて遙かに高くなった」

「そうだったのね。あの魔人とウィルとの会話の意味がやっとわかりましたわ」

「うん、すっきりしたね!」


 ティーナもロゼッタも何故か笑顔だった。


「真面目に聞いてくれ」

「真面目に聞いているわ」

「これまでとは段違いに危険になるんだ。だから――」


 俺の言葉を途中でさえぎると、ロゼッタが笑顔で言う。

「ウィル。馬鹿にしないでくれる? テイネブリスを倒すって目標を決めたときから危険は覚悟しているよ」

「そうね、わたくしもとっくに覚悟済みだわ」

「……ありがとう」


 秘密を明かした後、ティーナもロゼッタも、どこかすっきりした表情になっていた。

 俺が何かを隠していることには、ティーナもロゼッタも気付いていたのかもしれない。

 だが、詮索しないでくれたのだ。


「あたしたちは、仲間だからね!」

「そうですわ! あたしたちはパーティーですもの」

「……」

 アルティもコクコクと頷いている。

 秘密を明かしたことで、俺たちは本当のパーティーになった気がした。


 その後、雨の中、俺たちは軽く食事をとった。

 その途中、アルティが尋ねてきた。


「ウィル。お師さまはどうしてジェマ先生に連絡したのでしょう?」

「俺の通話の指輪ではなく、か?」

「はい」

「もしかしたら、本当にやばいのかも知れない」

「…………ウィルを危険から遠ざけようと?」

「そうだ」


 ゼノビアならば、王都と学院が壊滅しても、俺やアルティたち生き延びればいい判断したのかも知れない。

 俺とアルティたちさえ生きていれば、将来必ず人族は厄災の獣に勝てるだろう。


 だが、俺が知れば絶対に王都と学院を守るために戻る。

 学院には、サリアもルンルンも、そして俺の可愛い弟子たちもいるのだ。


 だから、俺に伝えず、ジェマに連絡したのだ。


「まあ、推測だがな」

「そうですか」

「それにフィーが『気をつけろ』って人神からの伝言を教えてくれた」


 具体的なことは何も言わずに、単に「気をつけろ」である。


 気をつけるべき危険が、王都や学院が強敵に襲われると言うことであれば、当然俺は向かう。

 そうなれば、俺が危険にさらされる。だから具体的に言わなかった。

 だけど、危険が迫っていることは伝えたい。


 それゆえの「気をつけろ」という具体性皆無の神託だったのかも知れない。


 そんなことを俺は皆に伝えた。

 ルーベウムやシロ、フルフルも真剣に聞いてくれていた。


 そして、神託を伝えてくれたフィーはずっと眠っている。

 神託降ろしたことで疲れたのだろう。

 もしかしたら、これからの戦いに備えて回復しようとしているのかも知れない。


「改めて祝福を授けよう」

「祝福ですか?」


 ティーナが首をかしげる。


「神の使徒は代理人だから、祝福を与えることが出来るんだよ。具体的には寵愛値が高くなる」

「そんなすごいことが!」

「実は、この前ティーナたちにも与えたんだが、気付かれないようにしていたからな」


 一気に寵愛値を上げるようなことはしなかった。


「だから、改めてしっかり祝福するよ」


 そして俺はアルティ、ロゼッタ、ティーナに改めて祝福を授けた。

 俺を使徒としてくれた神は沢山居る。

 人神、魔神、剣神、戦神、水神、炎神、風神、雷神、武神、鍛冶神、狩猟神などなどだ。

 その祝福をまとめて、アルティたちに与えていった。

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