第176話 緊急連絡

 しばらくしてベースキャンプが見えたので、俺は忘れないように、ルーベウムに声をかける。


「ベースキャンプに近づく前に気配を消してくれ。皆をおびえさせる」

「わかった。ドラゴンは強いから恐いもんね。きゅる」

「そういうことだ」


 するとルーベウムの気配が消える。

 そのまま、ベースキャンプの近くに到着した。


 着陸すると、ルーベウムはすぐに元の大きさに戻ってくれた。


「先生方をテントに運ぼう」

 怪我人を手分けして、テントの中へと運び始めると、無事な教員が出てくる。


「……ジェマ先生?」

「すまん。情けない姿を見せる」


 俺に背負われて運ばれているジェマは教員に対してそんなことを言う。


「かなりやばい敵から生徒をかばって、大けがされました」


 俺は敵について具体的に言うのをやめておいた。

 教員は救世機関の正規メンバーだ。だから教団の枢機卿と言ってもわかるだろう。

 だが、生徒は普通知らないし、ここには生徒は沢山居るのだ。


「ジェマ先生が大けがしただと……」

「それほど強い敵だったってことです。他にも三人の先生と生徒四名が大けがを負っています」

「回復術士を――」

「治癒魔法はもうかけました。ですが、血を失いすぎていますから」

「そうか、わかった」


 無事だった教員四人は、怪我人たちを運ぶのを手伝ってくれた。

 教員用の立派なテントに、怪我人たちを運び込む。

 教員用のテントは、生徒用のテントより大きいので怪我人八名ならば、横に並べられるぐらい広かった。


「わたくしが看病しましょう。いざというときに治癒魔法が使える者が対応出来た方がよろしいでしょう?」

「そうだな。頼む。俺も看病につこう」


 そして俺が病人用にしたテントに入ったとき、通話の指輪から緊迫感のある声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきた通話の指輪は俺の指輪ではない。ジェマのものだ。


『聞こえるか?』


 通話の指輪の向こうから聞こえるのはゼノビアの声だった。


「聞こえます」

『伝えていた懸念は現実となった。そのうえ、こちらの想定を遙かに超えている。直ちに生徒たちを連れて戻ってこい』


 伝えていた懸念とは、ジェマの暗殺計画についてだろう。

 こちらの想定を超えているというのは枢機卿が加わったと言うことに違いない。

 救世機関の情報部門が情報を得たのが、半日ほど遅かったということだろう。


 今回は後手に回ってしまったが、優秀と評価してもいいのかも知れない。


 ゼノビアの話しを聞きながら、ジェマは周囲の様子を見る。

 怪我人である教員と生徒たちは意識がないし、無事だった教員は外で作業だ。


 ここに居る意識があるものは、俺とジェマ、それにティーナだ。

 それにシロとフィー、フルフルとルーベウムだ。



「総長先生。枢機卿ならば倒しました」

『……なんと。それならば、その場でジェマ以外の教員と生徒たちとともに待機せよ』

「私は?」

『ジェマは緊急用ワイバーンを使い学院大急ぎで帰還してくれ。大規模襲撃だ。現状戦力では凌ぎ切れんほどのな』

「わかりました」


 そういってジェマは立ち上がろうとする。


「ジェマ先生。動いたら死にますし、そもそも戦力になりませんよ」

『ウィルがそこにいるのか?』

「はい。ゼノビア先生。ジェマ先生は枢機卿との戦いで生徒をかばい、重症を負われました」

『……そうか』


 ゼノビアは余計なことは聞かない。

 俺がそう言ったならば、そうなのだと理解しているのだ。

 当然、俺が治癒の魔法などの適切な処置をしたうえで、ジェマは動いたら死ぬ状態なのだとわかってくれている。


「私がルーベウムにのって戻ります。よろしいですね」

『…………頼む。気をつけろ』

「はい」


 通話が終わると、俺はルーベウムに言う。


「すまない。疲れているだろうに、今から王都に戻ってもらわないといけなくなった」

「大丈夫。きゅる」

「ジェマ先生はここで休んでいてください」

「総長先生のご判断だ。私は何も言わぬ。だが王都を、学院を頼む」

「頼まれました」


 俺は、ティーナと神獣たちと一緒に大急ぎでテントから出る。

 ティーナは教員たちに状況を報告しに行く。

 そして俺は、ロゼッタとアルティに声をかける。


「ロゼッタ、アルティ!」

「どうしたの?」

「総長先生からの指示だ。俺はいますぐ王都に戻る」

「あたしもいくよ」「いきます」


 ロゼッタとアルティは力強く目でこちらをじっと見ていた。


 そして、教員への報告を済ませたティーナもやってくる。

「当然、わたくしも行きますわ」

「……頼む。付いてきてくれ」

「わかったよ!」「わかりましたわ!」


 そしてアルティは無言で頷いた。

 その後、俺たちは巨大になったルーベウムの背に乗り、王都と学院に向かって飛びだった。

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