第175話 救護

 そんなことを考えながらも、俺は助手たちの身体の状態を調べていく。

 助手たちは、特殊な毒に犯されていた。


「傷口から毒を埋め込まれて、傷だけ塞がれた形か」

「止血されているって言っていたし、治療されてるんだ。どうしてだろう」

「止血されてると言っても、体内の血の五分の一ほど流れた後だ」


 このままだと死ぬと言う寸前で止血だけされたように見えた。

 むしろ、死んだら死んだで構わないという方針なのだろう。


「非情に厄介だな」

「血は戻せないから? きゅる」

「そういうことだ」


 俺はまず解毒から済ませていく。

 そして失われた体温をシロと一緒にあげていく。


「傷口は塞がっているからな……、ん?」


 内臓にも少し刃物による傷があったので、それも治していく。

 手足の腱も斬られていたので、それも治す。


「あとは魔法ではどうにもならんな」


 あとは魔法ではなく医療の領域だ。時間をかけねば回復するまい。


「ウィル。これからどうするの?」

「ベースキャンプに運びたいが、そのまえにアルティたちと合流しよう」


 アルティたちのところにも、ジェマと瀕死の生徒三人がいる。

 その四人をベースキャンプに運ぶのを、アルティ、ロゼッタ、ティーナに任せるのは無理だ。


「わかった。ルーベウムの背に乗せて」

「助かる」


 俺は意識のない助手三人をルーベウムの背に乗せて飛んでいく。

 シロも元の大きさに戻って、ルーベウムの背に乗った。


「アルティ、聞こえるか?」

『聞こえます』

「けが人を保護した。そちらに戻る」

『わかりました。こちらもティーナの治療と、死骸の処理が完了しました』

「助かる。あと、助手先生の首も、そのまま保管してくれ。何かの役に立つかもしれない」

『わかりました』

「それでジェマ先生は?」

『緊張の糸が消れたのか、今は眠っています』

「そうか」


 ジェマは眠ったと考えるより意識を失ったと考えた方がいいかもしれない。

 俺たちが駆けつけたときには、すでにジェマは満身創痍だった。

 精神力だけで戦っていたのだ。

 枢機卿を倒した今、倒れるのは当然と言える。


 そして、今運んでいる助手三人と同様に、ジェマのこれ以上の回復も魔法ではどうにもなるまい。

 助手三人も、ジェマも血を流しすぎたのだ。

 治癒魔法では、失われた血を戻すことは出来ない。


「見えたよ」

「流石に早いな、ルーベウム」


 ルーベウムが高速で飛んでくれたおかげで、アルティたちの元にすぐに到着した。


「ジェマ先生と生徒たちを、ルーベウムの背中に乗せてくれ」

「わかりました」


 俺たちは手分けして、けが人をルーベウムの背中に乗せていく。


 アルティが、助手三人を見て尋ねてくる。

「この方たちが怪我人ですか?」


 助手三人は防水布でがっちりくるんでいるので、顔が見えないのだ。


「そうだ。瀕死のところをなんとか回復魔法で救命したが、余談は許さ無い状況だよ。顔を確認してくれ」


 俺の言葉でティーナが防水布をめくって助手たちの顔を見る。


「えっ! 教員の先生ですわ」

「やっぱりそうか」


 ルーベウムの背に乗せる振動で、ジェマが目を覚ます。

 身体を動かすのも辛そうな状態だ。


「顔を、顔を見せてくれ」

「ジェマ先生、身体を動かさないでください」


 そう言いながら、俺は助手たちの側にジェマを運ぶ。

 そして防水布をめくって顔を見せる。


「……お前たち。これは夢なのか?」

「夢なら良かったんですけど、現実ですよ。ただ、三人とも瀕死ですが生きています」

「……そうか。そうだったのか」

「血を失いすぎているので、楽観視は出来ませんが。それは先生も同じですからね」

「……ウィルが助けてくれたのか?」

「いえ、ルーベウムが早めに見つけてくれたので助かりました」

「ルーベウム、ありがとう」

「きゅる。でもウィルが魔法で解毒して、傷を治したりしたから」

「そうか。ウィルありがとう」

「気にしないでください。それより、先生ゆっくり休んでください」

「……すまぬ」


 ジェマは静かにルーベウムの背に身体を横たえる。


「ルーベウム、なるべく、揺らさないように飛んでくれ」

「わかった。きゅるぅ」


 怪我人たちを全員背に乗せ終わると、ルーベウムが空へと飛びたった。

 すると、ロゼッタが小声で尋ねてきた。


「ウィル、先生方は死んだはずじゃなかったの? だって、首が」

「その首が作り物だったってことだろう」

「どうしてそんなことを……」

「それは調べないとわからないが……」


 あの作り物を作り出すことが、枢機卿にとってどのくらい難しいかによる。

 もし難しいのならば、首を作り出したことはすごく意味のあることに違いない。

 だが、もし簡単ならば、俺たちに対する精神攻撃のためだけに作り出した可能性もある。


「それを調べるために、ウィルは首をそのまま保管してくれって言ったのですね」


 アルティが納得したようすで頷いた。

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