第173話 ウィル対枢機卿 その2

 ティネブリスの尻尾が動き出したのを見て、ジェマが念話で叫ぶように言う。


『ウィル、大丈夫か?』

『任せてください。正直、怪我人にけしかけられなくて、助かりましたよ』


 怪我した生徒は辛うじて、命をつないだ状態だ。瀕死なことには変わりない。

 テイネブリスの尻尾が襲いかかれば、全力で守らねばならない。

 それは非常に厄介だ。


 恐らく、その手法でジェマもルーベウムも負傷したのに違いないのだ。

 ジェマもテイネブリスの尻尾に意識が行けば、全力を枢機卿にぶつけられなくなる。


 だから、俺は余裕の表情でテイネブリスの尻尾二匹の攻撃をいなしていく。

 テイネブリスの尻尾の攻撃は、鋭い爪と牙と、金色の魔力弾が基本である。


 前回戦ったテイネブリスの尻尾よりも強い。

 だが、以前より攻撃がよく見える。凌ぐのも楽に感じた。

 子供の身体の成長は、やはり速いらしい。


『俺に向かってくれるなら、大丈夫です。先生もアルティも、さっさと枢機卿を殺してください』

『いわれなくとも!』


 ジェマは枢機卿に剣で斬り掛かり、枢機卿は手を魔力で覆って剣を凌いでいく。

 ジェマは速く力強いが、枢機卿を押しきるまでには至らない。


 その枢機卿にアルティが背後から突っ込んでいく。

 二対一になり、ジェマとアルティの剣が枢機卿にも通り始める。

 だが、枢機卿の顔には、まだ余裕があった。


 俺の方も、テイネブリスの尻尾二匹を相手にしているので余裕はない。

 テイネブリスの尻尾の攻撃を凌ぎながら、短剣で斬り裂き、少しずつ削っていく。


 テイネブリスの尻尾には魔法は一属性しか通用しないから厄介だ。

 その上、どの属性が通用するかは、実際に撃ち込むまでわからない。

 恐らく、二匹それぞれ通じる属性は違うのだろう。

 だから、俺は属性を次々に変えて、魔法攻撃を撃ち込んでいった。

 そして、二匹のテイネブリスの尻尾には、それぞれ氷と炎が通用することを割り出した。


 そのとき、突如、音もなく枢機卿の下の地面から細い土の槍が無数に生えた。


「あ?」

 土の槍を放ったのはティーナである。

 枢機卿の両足に何本もの土の槍が、バラバラの方向から突き刺さっている。


 数十本の土の槍といえど、枢機卿の致命傷とはならない。

 だが、枢機卿の足が止まる。


「雑魚が! 舐めやがって!」


 枢機卿の顔から初めて余裕が消えた。

 ティーナ目がけて、枢機卿は魔法を放とうとするが、

「お前の相手は私だよ」

 ジャマに防がれる。


 ティーナの魔法のおかげで、枢機卿とジェマ、アルティの戦いが、こちらに有利に推移し始めた。


 そして、俺のすぐ近くで、空気を切裂く音が聞こえた。

 俺の顔のすぐ近くを通り、俺と対峙するテイネブリスの尻尾の額に矢が突き刺さる。

 ほぼ同時に、もう一匹のテイネブリスの尻尾の額にも矢が刺さった。


 ジェマとアルティが枢機卿に猛攻を仕掛け、俺とテイネブリスの尻尾が激しい戦いを展開している間。

 ロゼッタは完全に気配を消して、隙を窺い矢を射たのだ。

 当然だが、一本の矢では致命傷にはならない。


 だが、ロゼッタは連続で矢を放ち続ける。


「GOOOOAAAA!」「GAAAAAAIIAAAA!」


 それを防ごうと、テイネブリスの尻尾は咆哮しながら、魔法の障壁を展開する。


 つまり、俺の攻撃に対する防備が薄くなった。

 俺はその隙を見逃さない。

 テイネブリスの尻尾を殺しきるための手段を一気に講じる。


 テイネブリスの尻尾を物理攻撃で倒そうとするならば、回復が追いつかないほど斬り続けなければならない。

 レジーナやゼノビアがやっていた方法だ。


 それは流石に、今の俺がやるには、時間がかかりすぎる。


 だから、俺は短刀で攻撃しながら、魔法でのコア破壊を狙う。

 テイネブリスの尻尾は、体内にあるコアを壊せば死ぬのだ。


 そのコアの位置を探るのは難しい。

 俺が以前テイネブリスの尻尾を倒したときは、水球を飲み込ませ、体内から探ってコアを破壊した。


 だが、今回通用する属性は一匹が氷、もう一匹が炎だ。

 前回の手段は使えない。


 俺は炎系大魔法新星の一撃ストライク・ノヴァと、絶対零度アブソリュート・ゼロを同時に撃ち込む。

 新星の一撃をぶつけたテイネブリスの尻尾は全身が燃え、灰になっていく。

 絶対零度をぶつけたテイネブリスの尻尾は全身が凍り付き、砕けた。


「最高位魔法を同時に行使だと? 化け物がっ!」


 俺の魔法を見た枢機卿が吐き捨てるように言う。

 化け物はお前だろうがと思ったが、俺はテイネブリスの尻尾にさらに火球と氷の矢を撃ちこむ。

 テイネブリスの尻尾の身体、大きめの残骸が火球と氷の矢で燃え、灰になっていく。


 ここまでしても、テイネブリスの尻尾は、まだ二匹とも生きている。

 だが、ついにコアがあらわになった。


「ロゼッタ!」

「任せて!」


 ロゼッタが二連射した矢は的確に、テイネブリスの尻尾二匹のコアを貫き砕いた。


 それを確認すると、俺は間髪入れずにジェマ、アルティと激しい戦いを続ける、枢機卿に飛びかかった。

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