第165話 消えた教員

 俺は通話の指輪を使ってルーベウムに呼びかける。


「ルーベウム。聞こえる?」

『きこえるよ。ウィルの場所と状況も把握しているよー』

「それは助かる」

『近くの戦闘中の班の場所を教えるね』


 詳しく説明しなくても、ルーベウムは知りたい情報を教えてくれる。

 とても賢い竜だ。


 位置情報を聞いたら、すぐにジェマが走り出す。

 俺たちもその後ろをついて行く。


 俺は走りながら、ルーベウムとの通話を続ける。


「ルーベウム助かった」

『えへへ。そうそうウィルの近くには敵はいないよ。魔人たちは全員死んだし、隠れている奴もいないよ。少なくともルーベウムは見つけられてない』

「そうか。俺も見つけられてない」


 空にいるルーベウムが見つけられなかったということは、普通に考えたらいないはずだ。


「さっきの班は?」

『ウィルたちが助けた班ならそろそろベースキャンプにつくよ』

「他の班は?」

『教員と助手のついている四つの班は敵を撃退して、ベースキャンプに向かっているよ』

「死傷者は?」

『それも大丈夫』

「それは良い報せだ。また変化があったら教えてくれ」

『わかったー』


 それで俺はルーベウムとの通話を終える。

 通話が終わるのを待っていたのか、ジェマが話しかけてきた。


「ウィル。念話を頼む」

『了解です』


 俺はジェマとアルティ、ロゼッタ、ティーナと神獣とフィーを念話でつないだ。

 周囲に敵はいないとのことだったが、念のためだ。


『教員と助手のついている四つの班と言っていたな?』

『ジェマ先生。教員三名の姿が見えません』

『……どういうことだ?』

『ルーベウムの探索に、最初から引っかかっていないそうです』

『ということは、ルーベウムが探索に出る前に消えたということか?』


 教員と助手は腕の立つ者たちだが、ルーベウムの探索から隠れ切れるほどではない。


『そうですね。いなくなった原因まではわかりませんが』


 とはいえ、居なくなった原因など限られる。殺されたか、逃げたか。

 だが、学院の教員や助手は救世機関のメンバーである。逃げたとは考えにくい。

 仮に逃げるのだとしても、ジェマに報告できるはずだ。


 そんなことを考えていると、アルティが言った。

『……殺されている。そう考えて動くべきかと』

『戦闘に入ったと報告すらできずに殺されたということか? 救世機関のメンバーだぞ』

『報告すら出来ずに逃亡せざるを得ない事態よりは、現実的かと愚考します』

『……そうだな。それはアルティの言うとおりだ』


 いつも無口なアルティが、早口気味に意見を述べていた。

 戦場で上官に接するアルティはこういう口調が基本なのかもしれない。


『ジェマ先生、さらに気になる点が』

『なんだ、ウィル。言ってみろ』

『先ほどの奴らは、作戦の要となるべき部隊のはずなのに弱すぎました』

『そうだな。確かにおかしい』


 ジェマはわかってくれたようだ。


『魔人が四人でも弱いのかしら?』


 ティーナは疑問に思ったようだ。

 ティーナやロゼッタにも問題意識を共有するために、俺は説明する。


『先生方を三人も行方不明にする敵がいるならば、そいつらが要を担うべきだろう』

『教員や助手は一対四で魔人を相手にするのは厳しいです。ですが、報告ぐらいはできます』


 アルティが補足してくれる。

 ただ倒すよりも、報告もさせずに殺したり逃亡させたりする方が、はるかに難しい。


『だが、ウィルよ。ルーベウムの偵察では、あいつらが一番強いと言う話だったな』

『その通りです。他は魔人ですらないです』

『ううむ』

『もちろん、ルーベウムが把握している限りにおいてはですが』

『ウィルはルーベウムが把握できていない敵が隠れていると考えているのか?』

『可能性はあるかと』

『賢人会議の皆さまより、ルーベウムの方が気配察知は秀でているのだろう?』

『そうですが、雨ですし夜です。先生方を報告させずに殺すぐらいの腕前ならば隠れきるかもしれません』


 逆に言えば、この状態でルーベウムから隠れきれるぐらいの力量だからこそ教員を殺せたのかもしれない。

 もっとも死体が見つかったわけでもなく、死を感じさせる痕跡が見つかったわけでもない。

 生んだという証拠はなく、だからこそ生きていると思いたくなる。

 だが、常に最悪を想定して動くべきなのだ。


『最悪の想定が現実ではないことを祈りたいな』

『同感です』


 教員と助手四人のついている四つの班と、俺たちが最初に助けた班、それに俺たちを合わせて五つの班。

 残りの班は二つである。


 しばらく走ると、残り二つのうちの一つの班の姿が見えて来た。

 暗視の魔法がかかっているので、しっかりと敵と味方の姿が見えた。

 魔人はいない。熟練の暗殺者集団ではあるが、人族である。


『ウィルたちに任せる』


 ジェマが念話で言う。

 魔人がいないので俺達でも充分倒せると判断してくれたのだろう。


『了解です。ジェマ先生は?』

『最後の一班の救援に向かう』

『了解です』


 俺の返事と同時にジェマは音も気配もなくいなくなった。

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