第164話 同時襲撃 その2

 俺はティーナたちに念話で話しかける。


『ルーベウムとの会話を聞いていたと思うが、ジェマ先生は苦戦中らしい』

『意外ですわね』

『確か救世機関の戦闘部門のナンバー三というけど、現場に出る戦力としてはトップと聞いているし』


 長と次長は、一線を退いたベテランが就任する管理職なのだろう。

 もっとも、戦闘部門の序列はの、さらに上には俺の弟子たちがいる。

 戦闘部門を統括しているのはゼノビアで、今は総長なのでレジーナが代行しているのだ。


『……警戒すべきですね』

『ああ。ティーナ、ロゼッタ。先制攻撃を頼む』

『わかりましたわ!』

『任せておいて!』

『俺とアルティは奇襲だ』

『わかりました』


 奇襲をするのは、気配を消すのが得意な俺とアルティが最適である。

 だからティーナとロゼッタに先制攻撃を任せることにしたのだ。


『そうだ。暗視の魔法をかけようか?』

『大丈夫だよ、ティーナにかけてもらったし』

『はい。アルティとロゼッタにはわたくしがかけておきましたわ』

『さすが、ティーナ。お見事』


 そして、俺とアルティは、走りながら気配を消した。


 すぐに、戦うジェマの姿が見えてきた。

 ジェマは魔人四匹を相手に、果敢に戦っている。

 魔人四匹は、連携して、間合いを測って、ジェマを翻弄し、隙を窺っているようだ。

 魔人四匹の連携は中々だった。


 ティーナたちにも、暗視の魔法がかかっているので戦闘の様子は見えている。


 そしてロゼッタの気配消しの技術はまだ未熟だ。

 だが、魔人たちは、ジェマとの激しい戦闘中だから、気づいていない。


 その隙をロゼッタはつく。

 走りながら、ロゼッタは矢をつがえて、弓を射た。

 ロゼッタの放った矢は、雨の中、暗闇を切り裂くように飛んでいく。

 ジェマに斬りかかろうとしていた魔人のこめかみに見事に突き刺さった。


「なっ!」

 こめかみに矢がささった魔人が驚いたような声を上げる。


 魔人にとっても、こめかみを射られれば相当なダメージだ。 

 だが、とどめには足りない。


 魔人たちが驚いてロゼッタの方を見る。

 その時には、ロゼッタの後ろを隠れるように走っていたティーナが雷魔法を放つ。


 ――ダンッ!

 落雷の音が、周囲の空気を震わせた。


 魔人四匹を狙った四つの雷は二匹に直撃し、黒く焦がした。

 そして直撃を避けた残りの二匹の魔人も余波でダメージを受けている。


 凄まじい威力だ。

 その上、ジェマには雷撃の余波が飛んでいない。

 雷神と魔神の加護と、ティーナのたゆまぬ努力が、雷撃の威力を高め、完璧な制御を可能にしたのだ。


「ガキがっ!」


 ロゼッタとティーナを見て、魔人の一匹が叫びながら、魔法を放とうと右手に魔力を溜めた。

 つまり、意識をロゼッタたちに向けたのだ。


「私を前にして、よそ見すんなよ」

「は――」

 ジェマの剣がその魔人の首と右手を刎ね飛ばす。


「貴様ぁ……」

 魔人の斬り落とされた右手から魔力が霧散する。


 それでもジェマの件は止まらない。魔人の胴体を縦に斬る。

 そしてまだ地に落ちていなかった魔人の頭を宙でさらに縦に割った。

 そこまで斬られて、魔人は息絶える。


 残りの魔人は三匹。

 だが、二匹は黒焦げで、残りの一匹にはロゼッタの矢が刺さっている。

 手負いの魔人三匹ならば、対応は難しくはない。


 そもそもジェマ一人と四匹の魔人でバランスが取れていたのだ。

 そこに俺たちが加勢し、奇襲で三匹を手負いにし、一匹を倒した。

 すでにこちらの勝利は確定的だ。


 だが、けして俺たちは油断はしない。

 俺とアルティは気配を殺したまま、魔人の背後へと回り込む。


「……ちぃ!」


 俺とアルティが回り込んでいるとも知らずに魔人三匹は逃亡を図る。

 その魔人たちに俺は声をかけた。


「どこにいく?」

「ひぅ」


 突然目の前に現れた俺に魔人は驚いて変な声を出す。

 その声を聞いて嫌な予感がした。


 仮にもこの襲撃は教団にとって次期枢機卿を決めるための作戦の一環だ。

 その作戦の要に使う魔人が、目の前に子供が現れた程度で驚愕して声を上げるだろうか。


「とりあえず、お前は死んどけ」


 考えるのは後でもできる。

 俺は自作の短刀を振りぬいた。魔人の首が飛ぶ。

 俺にあわせてアルティも動いている。魔人を縦に斬り捨てる。


 残りは驚愕している手負いの一匹。

 ロゼッタの矢が心臓に吸い込まれるようにして突き刺さった。そこにティーナの雷。


「私にはやることがあるんだ。さっさと死ね」

 黒焦げになったところを、ジェマが頭頂から股にかけて斬り裂いた。


 これで四匹の魔人、すべてを討伐完了だ。

 周囲には敵の影はないが、一応警戒して、俺は味方に聞こえるように調整した念話で話しかける。


『さすがはジェマ先生です』

『嫌味か? 時間をかけすぎた』

『いえ、純粋な賞賛ですよ』

『……ウィルは私より強いのかもしれないな。と、こんな話をしている場合ではないな』

『班の位置を聞いてみます』

『頼む』


 そして俺は改めてルーベウムに呼びかけることにした。

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