第163話 同時襲撃

 逃亡を開始した三人の暗殺者の足が、地面から生えた土の手によって捕まれて転倒する。


「逃がすわけがないわ」


 ティーナたちが追い付いたのだ。

 地面から生えた土の手は、ティーナの魔法である。

 さすがは土神の寵愛を受けているだけのことはあって、見事な魔法だった。


「早すぎるよ。あたしたちのやることがないじゃないか」

「早いのはいいこと」


 ロゼッタとアルティはそう言って笑顔を見せる。


 俺は、ティーナが魔法で捕らえた暗殺者三人にとどめを刺そうと近寄ったが、既に死んでいた。

 捕らえられた時点で自害したいのだろう。

 狂信者は、自分の命すら軽く扱うので、本当に厄介だ。


「た、助かったよ。助けてくれたのはウィルだったのか」

「暗くてわからなかったが、凄い動きだったな」

「気にするな、けが人は?」


 そういうと、負傷者にヒールをかけていた治癒術師が言う。


「血が止まらなくて!」

「……これは毒だな」

 血の凝固作用を阻害する毒である。


「毒ですって?」

 治癒術師の反応は、ティーナと初めて会った時とそっくりだった。


「毒の種類を特定しないと解毒できないと一般的に言われているが……」


 俺は解毒魔法をかける。負傷者の毒が消えていく。

 それから治癒魔法をかけて、傷を塞いだ。


「毒の作用を知っていれば、解毒使用はある」

「……ウィルが凄いのは知っているつもりだったが、ここまで凄いとは思わなかったよ」

「それはどうも。他にも怪我した奴はいるんだろう?」

「かすり傷だよ」

「刃に毒が塗られていた可能性が高い。解毒しておこう」


 俺は他の怪我人にも解毒して治癒魔法をかけた。


「これでよしと……」


 ここまでやっても、この班担当の助手が来ない。

 俺たちが課題をクリアするまでついていた助手もいるので、人手はたりているはずだなのだが。

 本気でどこに行っているのか、心配になる。


 そんなことを考えていると、治癒術師に尋ねられた。


「ウィル、何が起こってるんだ? ウィルたちがここにいることも謎だし、俺たちを襲ったやつも謎だ」

「詳しく説明する時間はない。端的に言うぞ」

「ああ、それで頼む。詳しくは学院に戻った後にでも聞くさ」

「俺たちは課題をクリアして暇していた。それでジェマ先生の指示で助けに来た」

「襲撃も訓練の一貫なのか?」

「それはない。死体が転がってるだろ? いくら学院でも訓練で人は殺さない」

「そうだよな。訓練のわけないよな」

「詳しいことはそれこそ、先生にでも聞け」


 そして、真剣な表情の四人に向けて俺は尋ねる。


「俺は先生の指示に従って、これから動く。君たちは自力でベースキャンプまで帰れるか?」

「俺たちも――」


 俺と一緒に行って敵と戦いたい。もしくは仲間を助けに行きたい。

 そう考えているのだろう。


「いや、その必要はない。自力で帰れないなら、ロゼッタに付き添いを頼むが……」

「それこそ、その必要はない。足手まといなのは理解したが、俺たちだけでも帰れるさ」

「助かる。気をつけろよ」

「そっちこそ、気をつけてな」


 そして、生徒四人はベースキャンプに向けて暗闇の中を走り始めた。

 彼らも学院の生徒。そう簡単にはやられまい。


 ルーベウムの情報によれば、敵は全部で七部隊。

 そのうち、一つの部隊はいま倒した。もう一つはジェマが相手をしている。

 残りの五部隊は、それぞれ生徒たちの五つの班のそばで待機しているか、戦闘しているかだ。


 ベースキャンプに向かっている生徒四人を襲うとしたら、魔獣の類だろう。

 それならば大丈夫だ。生徒たちは、この辺りの魔獣にやられるほど弱くない。


 そして、俺はジェマの戦っている場所に向かって走る。

 フルフルは肩の上に、フィーは懐の中だ。そしてシロは元気よく走ってついて来た。

 ティーナ、ロゼッタ、アルティもついて来る。


「ルーベウム。状況は?」

『六部隊は、全部戦闘始めたよ』

「ジェマ先生は?」

『苦戦中』


 少し意外な気もした。ジェマは救世機関の戦闘部門におけるナンバー3。

 だが、


「そうか。他の教員と助手は?」

『四人いる』

「四人? どういうことだ?」


 ジェマ以外の教員と助手は、全部で七人のはず。


「残りの三人は?」

『偵察に出た最初からいないよ。隠れていも見つけられるはずだし、ルーベウムが偵察に出る前に死んだのか。逃げたのかも』


 逃げるとは考えにくい。

 俺が想定しているよりも、早い段階で襲撃があったのかもしれない。


「……そうか。残りの四人は戦闘中か」

『そだよ』

「じゃあ、一班には教員も助手もついていないのか」

『うん。ルーベウムが助ける?』

「あくまでも偵察を優先してくれ。だが死者が出そうなら助けてくれ」

『わかった』

「いまベースキャンプに向かっている班のことも見守ってくれ」

『わかった!』


 そこで通話が終わる。

 その時にはすでにジェマの戦闘場所まで、すぐ近くの位置まで来ていた。

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