第158話 フルフル大活躍

 そして俺の目を見て、ジェマは少し微笑んだ。


「……剣聖さま、いや総長からは、元々いざという時は弟子たちに手伝わせて良いと言われてはいたんだ」

「そうでしたか」


 だから、馬車で俺を呼んでどのくらい強いのかとか聞いたのだろう。


「お前たち自身は合宿に純粋に参加しているつもりなのだと思っていたぞ」


 師匠がその思惑を弟子に全て教えるわけではないのだ。

 教育効果を考えたら、あるかどうかわからない襲撃について教えない方が良い。

 課題に身が入らなくなる。


「ティーナとロゼッタはそうですね。だから俺も課題をクリアする寸前まで教えませんでしたし」

「今このタイミングで、私に話しに来たのも純粋に成績を評価してもらいからか?」

「はい。俺とアルティと違って、ティーナとロゼッタは真面目な生徒ですから」

「ほんとにな」


 そういって、不真面目な生徒である俺を見ながら、ジェマはにやりと笑う。


「もっとも、私としては、いくら賢人さま方の弟子とはいえ、生徒に課題外のことをを手伝わせたくはない」

「お気持ちはわかります」


 生徒には課題にだけ集中させたい。その環境を整えるのが教員の義務である。

 そういう矜持がジェマにはあるのだろう。


 俺はそんなジェマに笑顔で言う。


「私としても、手伝わなくていいに越したことはないですし」

「それはそうだろう。それに一番よいのは襲撃自体がないことだ」

「間違いないですね」

「だが、まあ、小賢者さまと総長がお前たちに直接手伝えと言っていたのならば、話は変わってくる」

「どう変わるのです?」

「水神の愛し子さまと勇者さまも、襲撃についていつ話してもよいとウィルに一任していたんだろう?」

「その通りです」

「お前たちは生徒である以前に、賢人さま方の弟子なのだ。教育方針も師匠方の方針が第一優先だ」

「つまり、師匠たちが直接手伝えと言った以上、手伝わせることが師匠の教育方針ということですね」

「そういうことだ」


 総長であるゼノビアから、いざというときに手伝わせてもよいと言われたことについては消極的な許可とジェマは捉えたのだろう。

 積極的に手伝わせろというよりも、それ以外の手段がないならば、手伝わせてもよいと言う意味と考えたのだ。


 だが、俺たちが師匠から直接命じられたのならば、それは襲撃に対応させることも教育の一環ということ。


「襲撃の気配はないが、いざとなれば手伝ってもらう」

「わかっています。私も気付いたらご報告します」

「ああ、頼む」


 そんなことを話していると、ティーナたちが出てきた。

 全員、汚れが落ち、汗臭くなくなっていた。


「フルフルはお役に立った?」

「ええ、とても」

「ぴぃ~」

「フルフル、俺も頼む」

「ぴぃ」


 フルフルは一声鳴くと、俺の頭の上に登る。

 そして、上から下へと降りて来る。その過程で汚れなどを全部吸収してくれていく。


 その様子を見ていたジェマが、目を見開いた。

「お、おお……。凄いな。そのスライム」

「フルフルは凄いんですよ」

「ぴぃ」

「皮膚の汚れが取れるだけじゃなく、服もきれいにしてくれますから」

「ぴぃ」

「それは凄いな」

「それだけでなく、肌も、すべすべになりますからね」

「……本当なのか?。わ、私にもそれをやってもらえたりはしないだろうか?」

「ぴぃ~」

「構わないそうですよ」


 そんなことを話している間にフルフルは俺の頭から足まで清潔にすると地面に到達した。

 そして、すぐにジェマの頭に上り、清掃を開始した。


「不思議な感覚がするな」

「でも、痛くないでしょう?」

「ああ」


 俺がジェマが洗われているのを見ていると、

「……きゅる」

 ぱたぱた飛んだルーベウムが俺の袖を引っ張っていた。


「どうした? ルーベウム」

「きゅるる」

 ルーベウムはしょんぼりしている。その背に乗っているフィーもしょんぼりしていた。


「……お腹が空いたのか?」

「すいた。きゅる」


 ルーベウムとフィーは期待していたおやつが貰えなかったので、しょんぼりしていたようだ。

 課題の中、ルーベウムたちも俺たちと一緒に携行食を食べていた。

 だが、その分沢山動いたし、ルーベウムもフィーも赤ちゃんだ。

 お腹がすくのも早いのだろう。


「おやつでも食べるか?」

「食べる! きゅる」「食べる」

「めえ!」


 ジェマの足元にいたシロも駆けつけてきた。


 俺はルーベウム、フィー、シロにおやつを与える。

「はむはむ。きゅるる」「うまいうまい」「めぇめえ」


 ルーベウムたちはとてもおいしそうに食べる。

 見ている俺までお腹が空いて来るほどだ。


「フルフルもおやつを食べるか?」

「ぴぃ」


 ジェマを清掃中のフルフルが「いいの?」と聞いて来る。


「もちろんいいぞ。フルフルは疲れていたのに、俺たちを綺麗にしてくれたからな」

「ぴい!」


 そして、フルフルはジェマの清掃を終える。

 そのフルフルをジェマは抱き上げた。


「フルフル。とても心地が良かったぞ。お礼に私からおやつをあげよう。ウィル、フルフルは何を食べるのだ?」

「何でも食べますよ。有機物なら大概何でも」

「そうか。ならば、これをやろう」


 そういって、ジェマは、魔法の鞄から焼いた肉を取り出して、フルフルに与えてくれた。

 さすがは救世機関の大幹部なだけはある。高価な魔法の鞄を所持しているようだ。

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