第156話 合宿ミッション開始
その魔獣は魔熊の一種だ。だが、シロと出会ったときに戦った魔熊よりは強そうだ。
生息地の違いだろう。ここの方が強い魔物が多いのだ。
「はあぁぁぁぁ!」
ティーナは飛びかかる魔熊の下から氷の槍を突き刺す。
それで止まった魔熊に火球をぶつけて退治した。
魔熊はかなりの強敵だというのに、なんの不安も覚えなかった。
「これでよし、ね」
「お見事。解体は俺がやろう」
俺は手早く魔熊を解体して、素材を回収。死骸を燃やす。
「相変わらずウィルは手際がいいね」
「ありがとう。でもロゼッタもこのぐらい出来るだろう?」
「いや、ウィルほどは手際よくないさ。それにしてもティーナはまた強くなったね」
「ああ、俺もそう思う」
「あ、ありがとう」
ティーナは顔を真っ赤にして照れていた。
本当は救世機関の一員であるアルティの力量が生徒のそれではないのは当然として、ロゼッタとティーナも非常に強い。
おかげで、俺たちは順調に目的地へと進んでいく。
俺たちが目的地に到着したのは、昼過ぎのことだった。
目的地には水晶でできた髑髏が置かれていた。
「これが目的のものだね。これでミッションクリアかな」
「ロゼッタ、それは違うわ。持ち帰って初めてクリアよ」
「そうだね。あたしとしたことが。気合を入れて帰らないとね!」
「ああ、日没までには帰りたいよな」
「そうですね。また雲も出てきましたし。雨が降ったら面倒です」
そういってアルティが空を指さす。
「ロゼッタは天候をどう読む?」
狩人神の寵愛を受けているロゼッタは、自然に対する観察力が高いのだ。
「うーん。しばらくは大丈夫だと思うけど。山の天気変わりやすいから」
いま俺たちのいる樹海は山の裾野だ。緩やかながら傾斜が付いている。
標高は少しだけ高く、風が吹けば肌寒く感じるぐらいだ。
「じゃあ、急いで帰りましょう!」
「そうだね」
ロゼッタを先頭に、俺たちは帰路につく。
半ばまで戻ったところで、俺たちは一度休憩することになった。
俺たちは倒木に腰かけて、軽食を食べ、水を飲む。
「……そろそろ、いいかな」
「なにがですか?」
「……ロゼッタ、ティーナ耳を貸してくれ」
俺がそういうとロゼッタとティーナが近づいて来る。
シロとルーベウムも鼻息荒く、俺に顔を寄せて来た。
俺は小さな声で言う。
「俺とアルティが合宿に参加したのは、総長先生からの密命を受けてのことだ」
「……何かあるのですか?」
「この合宿には、教団の襲撃計画がある。もしそうなったときに対応してくれという指示だな」
ロゼッタとティーナの表情が険しくなった。
「もっとも、襲撃の計画は沢山あるんだ。あくまでそのうちの一つということだな」
「沢山あるの?」
「ああ、だから、総長先生たちはその対応で忙しい」
「つまり、襲撃があったら、あたしたちで対応しないとってことだね?」
「そういうことだ」
「敵の目的は生徒なのかしら?」
「いや、生徒は将来の戦力であって、今は卵にすぎないからな。敵が狙うのは機関幹部であるジェマ先生だろう」
そして、アルティが言う。
「だから、ウィルは急いで戻りたいのです」
「そういうことだ」
七つの班に八人の教員のうち七人がついている。
残った一人がジェマだ。
そして、俺たちがテントを建てたベースキャンプから指示を出している。
「先生が一人なら、敵の襲撃を凌ぐことは出来ても、生徒がいたら難しいこともある」
生徒を守りながら戦うのは、ジェマでも難しかろう。
「だから、俺たちはどの生徒よりも早く戻りたい」
「わかった。そういうことだったんだね、急ごう」
俺たちは帰路を急ぐ。
「ウィル。今まで隠してたのは、わたくしたちに合宿に真面目に取り組んでほしかったからですか?」
小走りでベースキャンプに向かいながら、ティーナが尋ねて来る。
「そうだよ」
「そうなのですね。配慮ありがとうございます」
それだけではない。
アルティだけでなく、ロゼッタとティーナも教団との戦いで戦力になると判断した。
初めて魔人と出会った時、俺はロゼッタとティーナを足手まといだと言って逃がした。
そのときと比べて、ロゼッタもティーナも格段に強くなっている。
もう足手まといになる事はあるまい。
先日、アルティ、ロゼッタ、ティーナに神の使徒として祝福を与えた。
そのことで強くなったのは間違いない。だがそれだけではない。
基本的に祝福とは素質の底上げのようなもの。
これからとこれまでの努力の成果を跳ね上げる効果がある。
本人たちの努力が無ければ、祝福には意味がないのだ。
俺の教えた特訓法とゼノビアたちの施した訓練。
それと本人の努力のおかげでロゼッタとティーナは強くなったのだ。
「若者の成長とは、恐ろしいものだな」
俺は前世を思い出して、思わずつぶやいた。
昔、ディオンやゼノビアたちを育てていた時にも同じようなことを感じたものだ。
「ウィルも八歳児なのに、何言ってんの?」
先頭を走っていたロゼッタが呆れたように言う。
「めぇ?」
俺の隣を走っていたシロも、子供が何言ってんだとばかりに呆れて鳴いていた。
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