第155話 合宿の朝

 テントに戻ると、アルティたちは毛布にくるまっていたが、まだ眠っていなかった。

 テント自体は狭い。身を寄せ合うような形になる。


「ウィル、どうだった?」

「乾かせなくて困っている人もいたから良かったよ」


 濡れた状態だと、ろくに眠れないだろう。明日からの課題に対応するのが難しくなる。

 それに生徒たちはみな優秀だ。

 俺の乾かす魔法を見て、自分たちなりに実行できるようになるだろう。


「ウィル。見張りはどうしたらいいかしら?」

「ティーナ。その発想は素晴らしい。が、今日はいいだろう」

「いいのかい?」

 ロゼッタも驚いた様子だ。順番で見張りを立てるつもりだったのだろう。


 助手がテントの周りで、密かに見張りをしてくれている。

 それに巧妙に隠されているが、この場所には結界が張られている。

 学院は、やはり生徒を一人も死なせるつもりはないらしい。


「明日からはどうかわからないが、眠っていいはずだ」


 安心したようで、ロゼッタとティーナは眠りについた。

 一度、ロゼッタもティーナも疲れていたのだろう。目をつぶると、すぐに寝息を立てる。

 ロゼッタはルベーウムを、ティーナはシロを、ぬいぐるみのように抱っこしていた。

 アルティも静かに眠りについた。

 そして俺はフルフルとフィーと一緒に眠りについた。



 次の日の夜明け直後。

「おい、生徒ども、さっさと起きろ!」

 ジェマの大きな声が周囲に響いた。


 生徒たちは飛び起きて、テントの外に出る。

 俺たちの班も素早くテントの外にでた。


 幸いにも寝ている間に雨は止んでいた。樹海の中を朝靄が漂っている。

 地面はぬかるんでいるが、雨が降っていない分、そして明るい分、昨夜よりは動きやすい。


「さて、お前たちは遊びに来たのではない。早速課題をこなして貰う」

 そういって、ジェマは指示を出していく。


「そうだな……。お前たちはここ、お前たちはここ」


 そんな感じで、ジェマは生徒たちの七つの班に目的地を告げていく。

 適当に指示しているようだが、恐らく全て計算ずくだ。

 経験者の数や班の構成を考えて、目的地を設定しているに違いない。

 そして一つの班に一人、密かに教員がついて回ることになっているのだ。


「テントはそのままにしておけ。課題をこなした後、ここに戻ってくるように」

 ジェマは最後にそう言った。


 目的地は、生徒たちにとって、一日で到達するのは難しい距離である。

 だから、これからはテントなしで野宿しろということをジェマは言っているのだ。


「わかったら、さっさと行け。生徒たち。上手くいけば今日中に戻ってこれるかもしれんぞ?」


 そして生徒たちは出発する。俺たちの班もロゼッタを先頭に出発した。

 ロゼッタ、アルティ、ティーナ、俺の隊列だ。

 シロ、フルフル、ルーベウムは俺と一緒に行動する。フィーはいつものように服の中である。


「シロ、フルフル、ルーベウム疲れたら言うんだぞ。抱っこしてやるからな」

「めぇー」「ぴぃ!」「ルーベウムは大丈夫。つよい」


 ロゼッタは迷いのない足取りで快調に、目的地目指して進んでいった。

 目的地にある何かを手に入れて、戻ってくるというのが課題の内容である。

 魔物を倒しても得点にはならない。

 見つからないように進んでも、襲ってきた魔物を全部返り討ちにしても、課題的にはどちらでも良いのだ。


「速かったいってね」

「大丈夫ですわ」

「少し迂回するよ。魔物がいるから」


 ロゼッタは魔物を回避する方針のようだ。

 そして、俺とアルティは周囲を警戒しながら進んでいく。


 俺とアルティの真の目的は、課題ではなく教団の襲撃に備えることなのだ。

 今のところ、テイネブリス教団の刺客が近づいてきている気配はない。

 テイネブリス教団の襲撃は確実にあるというわけではない。

 そのような動きを、諜報部門が察知したというだけだ。

 襲撃がないのならば、それに超したことはない。


 俺とアルティが別のものを警戒している一方で、ロゼッタとティーナは魔物を警戒してくれていた。


「右前方、魔物の気配。でも、このタイプなら音を出せば逃げていくはず。ウオオオオオオ!」

 ロゼッタは大きな声を出す。


「よし、逃げていった」

「ロゼッタ、どんな魔物がいるかまで把握しているのか?」

「距離次第だけど、このぐらいならわかるよ」


 そういって、ロゼッタは微笑む。

 ロゼッタのスカウト能力は非常に高い。出会ったときと比べても格段に高くなっている。

 先日与えた加護の効果を、計算に入れても凄まじい成長速度だ。


「あ、好戦的な魔物だ。回避するには来た道を全力で逃げるしかないけど、時間がかかりすぎる」

「そういうことなら、わたくしに任せて」


 そして、ティーナは俺とアルティを見た。


「ウィルとアルティに、わたくしもいいところをみせたいもの」

 ティーナは微笑む。


 その時、四足の魔獣が藪を突き破って襲いかかってきた。

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