第151話 クラスメイト

 武器を作ってから一週間後。合宿の日がやってきた。

 合宿当日なので、今日の早朝訓練はお休みである。


「サリア。昨日も言ったけど……」

「わかってる! がっしゅくなんだよね! あにちゃ、がんばってね!」

「ルンルンも頼んだよ」

「わふぅ」


 俺はサリアとルンルンを託児所に送った後、教室へと向かう。

 ルーベウム、シロ、フルフル、フィーと一緒だ。

 教室に行くのはすごく久しぶりである。入学式の日以来かもしれない。


 教室の扉の前に着くと、中から騒がしい声が聞こえていた。

 俺は教室の扉を開けて中へと入る。途端に教室中が、しんと静まりかえった。

 久しぶりにやってきたので、皆驚いたのだろう。


 俺と同期の生徒三十人のうちの、二十六人が揃っていた。俺を入れたら教室にいるのは二十七人。

 残りの三人は俺の班員、アルティ、ロゼッタ、ティーナである。


「おお、ウィル・ヴォルムスじゃないか。入学式の日以来か?」

 入学式の後に、懇親会に誘ってくれた生徒の一人が声をかけてくれる。


「ああ、久しぶりだ」


 俺と生徒が会話していると、他の生徒たちも集まってくる。

 特に入学式の日に居なかった、シロとフィー、ルーベウムは人気が高い。


「かわいいな。触ってもいいか?」

「ダメ!」

 そういってフィーは逃げるように俺の懐の中に入ってくる。

 フィーは人見知りをするようだ。


「めぇ」「いいよ」

 シロとルーベウムはご機嫌に尻尾をパタパタ振っている。


「フィーは触ったらダメらしい。だが、シロとルーベウムは撫でて大丈夫だよ」

「おお」「かわいい」

「ルーベウムは竜なのかい?」

「竜だよ!」


 シロとルーベウムは撫でられまくってご満悦だ。

 フルフルも人気があるようで、ふにふにされていた。


 神獣たちを見て、生徒たちが言う。

「一柱なのに合格したから、ただ者では無いと思っていたが……」

「ああ。スライムに犬にヤギだけでも凄いのに、竜に精霊とは」

「普通魔獣使いは一匹、多くても二匹だからな」

「ウィルは魔法使いだと思っていたが、魔獣使い兼精霊使いなのか?」


 俺は少し考えてから答えた。


「魔獣使いでも精霊使いでもないが……動物と仲良くなるのが得意なのかもしれない」

「すごいな」

「ウィルは忙しいんだろう? 小賢者さまの弟子だもんな」


 俺がミルトの弟子というのは皆に知られているようだった。

 だからこそ、授業に出ていないのに俺が留年するとは誰も思っていない。

 ミルトから特別な課題を与えられているのだと思われているようだ。


 そのとき、教室の扉が開いて、アルティが入ってくる

「…………」


 アルティを見て皆静まりかえる。

 アルティは俺みたいに従兄と決闘した訳でもないので俺以上に印象が薄いのだろう。

 もっといえば、入学試験すら受けていないのだ。


 一応入学式とその後のガイダンスと生徒主催の懇親会には出ていた。

 とはいえ、アルティは気配を消して目立たないようにしていたので、皆の記憶にほとんど残っていないのだ。


 生徒たちがアルティに話しかけに言った。


「えっと、アルティさんだっけ? 入学式の日以来かな?」

「はい」


 口数の少ないアルティに変わって、俺が皆に教える。


「アルティはゼノビアさまの弟子なんだ」

「あー、だから授業に出てなかったんだね」


 そんなアルティにも生徒たちは群がり始めた。

 生徒たちは興味津々な様子で、アルティに色々と尋ねている。


「総長先生のご指導って厳しいの?」

「そうでもないです。優しいです」

「総長先生から、特殊任務とか与えられたりするの?」

「ときには」


 盛り上がっているさなか、一人の生徒が俺に尋ねてきた。

「ウィルとアルティさんも来たってことは、合宿に参加しろって小賢者さまとか総長先生に言われたの?」

「まあ、そんなところだよ」

「そっかー。戦闘技術的なことなら、小賢者さまたちが教えるだろうし、集団生活を学べってことかな?」

「かもしれない。詳しいことは知らないけど」

「なるほどー」


 生徒たちは納得したようである。


「で、やっぱりウィルとアルティさんは同じ班の?」

「そうだよ。あとはロゼッタとティーナ」

「そういえば、ティーナさんも水神の愛し子さまのお弟子さんだもんね」

「ロゼッタさんも、超優秀なスカウトだもんね。最強の班だねぇ」


 ロゼッタが勇者の弟子だとは知られていないようだ。

 だが、生徒たちの間で、ロゼッタの能力は高く評価されているらしい。



 そんなことを話していると、再び扉が開く。

「みんなー。合宿場所の地図でだよー」

「一人一枚ですわ。順番に取っていってくださいね」

 ロゼッタとティーナが、紙の束を持ってやってきた。


「お疲れ様、ロゼッタさんもティーナさんもありがとう」

「今週は週直でだからね! 当然の仕事だよ」

「お気になさらずに」


 どうやら、週直制度があるらしい。

 週直は、週ごとの当直の意味で、週ごとに先生の雑用を引き受ける生徒が決まるようだ。

 サボり倒して週直など一度もやったことないので、少し申し訳なく感じた。

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