第148話 合宿の準備

 次の日、俺は訓練前に完成した弓の弦をロゼッタに渡した。

 ロゼッタは試射をして、感触がよいと、とても喜んでくれた。

 作りがいがあるというものだ。


 ロゼッタとティーナは、指に通話の指輪をはめている。

 訓練の際にゼノビアから貰ったのだろう。


 それから、俺はティーナ、ロゼッタ、アルティに合宿に参加することを告げる。


「やった! ウィルが参加してくれるなら、心強いです!」

「うんうん。加えてアルティも参加してくれたら四人でパーティーを組めるけど、どうかな?」


 ロゼッタがアルティにお願いすると、

「もちろん私も参加します」

「うれしいのだわ!」


 アルティも参加してくれることになった。

 アルティもゼノビアからすでに事情を聞かされているはずだ。


 ロゼッタとティーナは純粋に喜んでくれていた。

 ロゼッタたちには純粋に合宿の課題に取り組んで欲しいので俺は何も言わない。


 教団の行動が、実際に実行に移されるかもわからないのだ。

 それに実行に移されないよう、ゼノビアやディオンたちが動いている。

 俺が参加するのはあくまでも保険である。


「ところで合宿って何をするんだ?」

「えっとね。魔物の多い森で魔物退治だよ」

「魔物の生息地に着いたら、パーティー単位で動くらしいわ」

「好きに魔物を狩ってこいってことか?」

「そうじゃなくて、パーティーごとに目的地があって、そこに到達して戻ってくるのが目的かしら」


 ロゼッタとアルティが楽しそうに説明してくれる。


「引率の教員は何をするんだ?」

「遠くから見守っていると言ってたわね」


 教員たちは気配を消して、パーティーが致命的な事態に陥らないよう見守るのだろう。

 教員たちは一流の戦闘員だ。普通の生徒ごときでは気付くことはあるまい。

 生徒たちは三十名。全部で七つのパーティだ。それを三人で引率する。


 つまり教員一人あたり二つか三つのパーティーを担当するのだろう。

 バラバラに動かれたら、見守るのが難しい。

 だから目的地を設定し、バラバラにならないようにしているようだ。


 それでも生徒は道に迷ったりして、バラバラになる可能性がある。

 そういうときのために、密かに助手が同行しているのかもしれない。

 助手の存在については、合宿への出発前にゼノビアに尋ねておくべきだろう。


 テイネブリス教団が実際に襲ってくるのかは未だ不明だ。

 だが、教員と助手がいるならば対策はそう難しくなさそうだ。


 それからはいつも通りの訓練だ。

 昨日、こっそりと祝福した成果か、アルティもロゼッタもティーナもいつもより動きが良かった。



 訓練が終わると、ロゼッタとティーナは授業へと向かった。

 そして俺はゼノビアのいる総長室へと向かう。

 アルティやシロ、フルフル、ルーベウムとフィーも一緒だ。


 向かう途中アルティは一言も発しない。どこで誰が聞いているかわからないからだ。

 総長室の中に入ってから俺はアルティに尋ねた。


「やっぱりアルティもゼノビアから合宿に参加するよう頼まれたのか?」

「頼まれてはいません。事情は聞きましたが」


 すると神獣たちにお菓子をあげていたゼノビアが言う。

「アルティには師匠を上司と思えと言っていますからね」


 アルティには俺の前世がエデルファスだと伝えているので、ゼノビアは俺を師匠と呼んだ。

 どうやら、アルティが合宿に参加するかどうかも俺に任せようとゼノビアは考えていたようだ。


「そうか。それはそれとしてだ。アルティ。調子はどうだった?」

「とてもよいです。昨日から全身から力が湧き出てくるような不思議な感じがします」

「具体的に教えてくれるか?」

「はい。昨日の朝の訓練が終わってからの話しなのですが……」


 疲れにくくなった。魔力の操作もうまく出来るようになった。

 動体視力や視力が向上した。剣技や足捌きなどの技術も工場した。


「私はそのように感じました」

「ゼノビアはどう思った?」


 ゼノビアはアルティの師として、毎朝俺との訓練前に、訓練を指導しているのだ。


「師匠。やっぱり、なにかされました? 昨日に比べて動きが一気に良くなりましたね」

「アルティだけか?」

「いえ、ロゼッタもティーナもです」

「そうか」

「師匠。もしかして……」

「気付いたか。相談せずにすまなかった」

「いえ、それは問題ありませんが、ロゼッタやティーナにも師匠のことを明かしたのですか?」

「いや、明かしてはいない。フィーが頭に触れて念じるだけでいいと教えてくれたんだ」

「うん! フィーがおしえた!」


 お菓子をおいしそうに食べていたフィーが元気に言う。


「そうでしたか。さすがは師匠です」

 そういって、ゼノビアは満足げに頷いた。


 ここまでの会話でアルティも俺が何をしたのか察したことだろう。

 だが、俺は改めてはっきりと言う。


「アルティ。昨日訓練終わりに頭を触れただろう? あのときに祝福を与えた」

「そうでしたか」

「勝手にやってすまない」

「いえ。ありがとうございます」

「そうですよ、師匠。祝福は神の寵愛を与えること。神の寵愛なんて元々人にはどうにも出来ないことですから」


 勝手に与えられ、勝手に無くなるのが、むしろ当たり前である。

 そうゼノビアは考えているのだ。そしてそれは正しい。


「神の寵愛にふさわしい者となれるよう頑張ります」

 どうやらアルティは喜んでくれたようだ。一安心である。

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