第146話 武器製作

 俺が残ったのはドゥラの家にある工房で、自分用の武器を作るためだ。

 ドゥラの父、ドルフレアとの戦いで、自作のナイフは折れてしまった。


 そして、枢機卿との戦いで、武器の大切さを思い知らされた。

 八歳の身体では、魔法で強化しても素手では威力が不足しているのだ。



 ドゥラの部屋には五つのエリアに分かれている。

 一つは入り口から入ったところにある大きな部屋だ。俺の部屋からの通路もここにつながっている。

 俺たちがいつも訓練している部屋はここだ。


 残りの一つはドゥラの寝室エリア。ここには俺たちも基本的に立ち入らない。

 一度見せてもらったが、木で作られた大きな籠に毛布が敷いてあった。

 あれがドゥラの寝床なのだろう。


 もう一つのエリアはリビングや調理場などのあるエリアだ。

 人族にも使いやすいサイズのテーブルや椅子もあり、訓練後にはここで一緒にお菓子を食べる。


 そして、忘れてはいけないのは身体を洗ったり、トイレなどの水場エリアだ。

 竜も食べている以上、トイレには行くのだ。

 身体を洗う場所は、風呂場とも言いにくい。

 人族の俺たちには充分広い風呂場だが、ドゥラの身体と比べたら小さく浴槽とは言えない。

 流れる水で身体を洗うぐらいしかできないだろう。


 最後のエリアは工房である。

 ドゥラが得意とする服飾や、俺の得意とする鍛冶に用いる道具などが揃っているのだ。


「ドゥラ。工房を使わせてもらって悪いな」

「イイ。ベンキョウにナルから」


 そういいながらドゥラは俺の手元を見ている。

 ドゥラは鍛冶にも興味があるのかもしれない。


 ドゥラにじっと見つめられながら、俺は短刀を製作していく。

 ドルフレアからもらった素材を使い慎重に作っていった。


 前回と同水準の短刀では意味がない。

 だから魔力操作を極限まで研ぎ澄まして作っていく。


 作り始めて三時間後。短刀が完成した。

 完成までドゥラはじっと俺の手元を見つめ続けていた。


「スゴイシュウチュウリョウ。ギジュツもスゴイ。ベンキョウにナッタ」

「ありがとう。さて、次はロゼッタの弓の弦を作るか」

「ウィル。ダイジョウブ? ツカレテナイ?」

「ああ、大丈夫だ」

「……スゴイ」

「慣れだよ。慣れ」

「ナレ?」

「うん。鍛冶を始めたばかりのころは何倍も時間もかかったし疲労感も凄かったからな」

「……セイチョウキ?」

「それもあるかもしれないな。なんと言っても俺は八歳だからな」


 前世の晩年、百二十歳の頃は魔力や魔法技術を成長させるのが大変だった。

 肉体の方は維持するだけでも大変だ。


「子供というのはいいものだな」

「ソダネ」

「ドゥラもまだ竜の中では若いんだろう?」

「ホトンド、コドモ」

「それはいい」

「ウン。ルーベウムさまにツイテココにキテ、イッパイベンキョウにナル。クンレンもスゴクいい」

「それならよかった」


 ドゥラは俺とロゼッタたちの訓練と、ゼノビアとロゼッタたちの訓練の両方に参加している。

 俺もドゥラに請われて、神々から授けられた訓練法を竜にアレンジして教えている。

 ルーベウムも努力するドゥラに刺激を受けて、最近では訓練を頑張っているようで何よりだ。


「ウィルはダイジョウブかもシレナイけど、スコシキュウケイしてからのホウがイイ」

「そうだな。しばらく休憩しようか」

「ウン。おチャをイレル」


 俺とドゥラは工房からリビングへと移動する。

 リビングではルーベウム、シロ、フルフル、フィーが楽しそうに遊んでいた。


 俺がリビングに入ると、フィーがパタパタと飛んでくる。


「ナイフ作りはおわった?」

「ナイフは完成したけど、次はロゼッタの弓の弦を作るんだ。いまは少し休憩しにきたんだ」

「そっかー。あ、ナイフ見せて!」


 俺は作ったばかりの短刀をリビングのテーブルの上に置いた。

 フィーはペタペタ触って、ふんふん頷いていた。


 そこにドゥラがお茶とお菓子を持って戻ってきてくれた。

 手も指も大きいのに、巧みな魔法操作でドゥラは器用に淹れてくれるのだ。


「お菓子だ!」

「おタベクダサイ」


 フィーや神獣たちと一緒にお菓子を食べる。

 そのお菓子はクッキーだった。シロ、ルーベウム、フルフル、フィーもおいしそうに食べていた。


「甘みが疲れた脳に効いているようだ。とてもおいしいよ。ありがとう」

「ソレはナニヨリ」


 十分ぐらい休憩した後、作業に戻る。

 ドルフレアからもらった竜の髭を使って弓の弦を製作していく。


 三時間後、

「なかなかいい出来の弦ができたんじゃないかな」

「ミゴト!」

「ロゼッタが授業を終えて戻ってきたら、早速渡そうか」

「ソレがイイ」


 そんなことを話していると、ドゥラの家にゼノビアがやってきた。


「師匠、おられますか?」

「うん、居るぞ」

 俺とドゥラは工房から出て、ゼノビアの元へと向かう。


「少しお願いしたいことがありまして……」

「何でも言ってくれ」

「ありがとうございます。……実は師匠に生徒たちの合宿に参加していただきたく考えておりまして」


 そう言ったゼノビアは申し訳なさそうだった。

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