第145話 神々の使徒の祝福

 その次の日から、訓練はドゥラの部屋で行うことになった。

 ドゥラと一緒に訓練するのは目立ちすぎるからだ。

 ドゥラ曰く、ゼノビアたちも訓練しにくるらしい。


 ドゥラの一頭の時間を邪魔していないか、心配になったのだが、

「ダイジョウブ。おヤマでもドゥラはイットウでスゴシテナイ」

 と言って尻尾を振っていた。


 ドゥラの言うヤマというのは、実家である竜の山脈のことだ。

 どうやら、ドゥラたち、竜の山脈の竜たちは群れで暮らす習性があるらしい。

 だから、むしろ一頭でぽつんと居ると寂しいと感じるようだ。 


 竜全体がそういう傾向があるのか、竜の山脈の竜の習性なのかはわからない。

 ルーベウムも寂しがり屋で甘えん坊だし、もしかしたら竜と種族は基本寂しがり屋なのかもしれない。



 通路完成後、一週間は平和に過ぎた。

 ドゥラに協力してもらうことで、訓練の効果も上がっている。


 訓練終わりに、俺が皆から離れて水を飲んでいると、人神の神霊フィーが俺の頬をつっついた。

「ねえねえ。ウィル」

 フィーは俺の耳元で凄く小さな声でささやいてくる。


「どうした?」

 俺もフィーにだけ聞こえるぐらい小さな声で返事をした。


 フィーはテイネブリス教団の枢機卿との戦いの後、しばらく食事時以外眠っていた。

 だが、やっと昨日辺りから元気を取り戻したみたいだ。

 よく俺の周りをパタパタと飛んでいることが多くなった。

 俺たちが訓練している間もパタパタ飛びながらシロたちと遊んでいたのだ。


「フィー。訓練見てたんだけどさ。そろそろいいと思う」

「なにが?」

「なにがって祝福」

「神の祝福か」


 先日、俺の弟子たちには祝福を与えて、実際に強くなった。


「アルティ、ロゼッタ、ティーナにしてあげたらいいと、フィーは思う」

「そうか。フィーはそう思うか」

「思う」


 俺も別にもったいぶって、アルティたちを祝福していなかったわけではない。

 祝福を与えると、神々の寵愛値が一気に増える。


 もう十二分に成長し、経験も技術も知識も申し分のないディオンたちとアルティたちは違う。

 アルティたちに祝福を与えて、バランスが崩れたら良くないと俺は考えていたのだ。


「アルティたちなら強くなっても調子乗らないとフィーは思う」

「それは俺も同感だが……」


 祝福を与える上で、最も懸念すべきことは調子に乗って努力しなくなることだ。

 それでは宝の持ち腐れになってしまう。

 その事については俺は心配していない。


「とはいえだ。まだ祝福を与えられることに関しては、アルティ以外には言ってないんだよな」


 俺がエデルファス・ヴォルムスの転生体であることはアルティしか知らない。

 ロゼッタとティーナは知らないことだ。俺が神々の使徒であることも知らない。


「……祝福を与えたら、色々ばれるだろう?」

「そりゃ、ルーベウムみたいに祝福したらばれるけど」


 ルーベウムはドルフレアたち、竜の山脈の竜を全員ならべて順番に祝福していった。

 俺もディオンたちに祝福した際は、それを参考にした。


「ばれないようにこっそり祝福すればいいんじゃないかな」

「そんなことができるのか?」

「できるよ。だって使徒だから」

「……具体的にはどうすればいいんだ?」

「えっとね」


 フィーは言う。触れて念じるだけでいいらしい。

 言葉に出しても出さなくてもいいとのことだ。


「随分と簡単にできるんだな」

「子供のお願いみたいなものだから」

「そうか。じゃあ。やってみるか」


 俺は休憩しているアルティ、ロゼッタ、ティーナの近くへと歩いて行く。


「みんな。ちょっといいかな?」

「どうしましたか?」

 アルティが首をかしげる。


「ちょっと確かめたいことがあるから、頭を触らせてくれ」

「かまいません」「いいよ」「わたくしもかまいませんわ!」


 俺はアルティの頭に触れる。そして心の中で神々に祈った。

 その様子を見ていたロゼッタが言う。


「ウィル。何を確かめたいんだい?」

「まあ、ちょっとな。説明が難しいんだが……」

「魔法的ななにか?」

「それともちょっと違うのだが、似ていなくもない」

「そうなんだね」

 ロゼッタはそれ以上尋ねては来なかった。


 アルティへの祝福を終えた後、ロゼッタ、ティーナと順に祝福する。


「何か変わった感じはするか?」

「疲れがとれた気がします」

「うん。あたしもなんか元気になったよ」

「わたくしもですわ!」


 どうやら、上手く祝福出来たようだった。


「ウィルが触ってくれたのが、疲労回復のツボみたいなものだったのかしら?」

「そうだね! すごいよ!」


 ティーナとロゼッタはツボだと考えて納得してくれた。

 アルティもうんうんと頷いていた。


 元気になったロゼッタが言う。

「ウィル。さっきまでアルティたちと話してたんだけど、合宿どうするの?」

「合宿?」

「ああ、そっか。ウィルは最近ホームルームもサボってたもんね」

「……すまない」

「いやいや、ウィルなら授業でなくても全然大丈夫だと思うよ」


 俺は週に一回あるホームルームもサボっているのだ。

 もちろん、ロゼッタとティーナはホームルームはサボっていない。

 それどころか、用事がない限り授業もきちんと出席しているのだ。


 ちなみにアルティも俺と一緒でほとんどサボっている。


「で、合宿ってのは何なんだ?」

「えっとね。一年生が全員で魔物の生息地に行って二泊三日で実地訓練するんだ」


 ロゼッタから説明を聞いていると、ティーナとアルティもやってくる。

 一方、ドゥラはルーベウムとシロ、フルフルと楽しそうに遊んでいた。


「ウィルはやっぱり合宿参加しないかしら?」

「そうだな。今のところ参加しないかも」


 今更新入生の魔物退治に参加しても得られるものはなさそうだ。

 それに俺が入ることで、新入生の教育に悪影響がでないとも限らない。


「アルティはどうするんだ?」

「ウィルと一緒です」


 アルティは俺が参加すれば参加するし、不参加なら参加しないのだろう。


「ウィルもアルティも参加されないのですね。残念ですわ」

「ティーナ。二人で頑張ろうね!」

「そうね、あと二人探さないといけないわね」


 ロゼッタとティーナに合宿について尋ねると四名から五名で一チームと教えてくれた。

 新入生は七チーム。教員は三人同行するとのことだ。


「ウィルもアルティも気が変わったらすぐに言って欲しいのだわ」

「そうそう。訓練にはならないかもだけど、ハイキングみたいで楽しいかもしれないし!」

「わかった。考えておこう」


 その日もロゼッタとティーナは授業に向かった。

 そしてアルティは何か仕事があるようで、どこかに向かい、俺はドゥラの家に残った。

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