第91話

 ルーベウムはしばらく大人しく撫でられている。

 そして、フィーは起きる気配が全くない。

 仰向けで大の字になり、ぷしゅーぷしゅー寝息を立てていた。


 しばらく撫でると、ルーベウムは落ち着いた。そして俺の肩の上に登る。


「ルーベウムを置いてどっかいったらだめ」

「隣の部屋にいたんだよ」

「だめ」

「わかった」


 ルーベウムは、とても寂しがりやらしい。

 寝ているルーベウムのための抱っこ紐を早く用意した方がいいかもしれない。


 それからはみんなでまた遊んだ。ルンルンの午後の散歩にも向かう。

 夕ご飯を食べて、お風呂に入って、サリアたちを寝かしつける。

 ルンルンたち神獣たちもサリアと一緒に就寝だ。


 それを見届けた後、俺は一人作業を開始する。


「えっと、確か……」

 ゼノビアから貰った素材の中に魔獣の革があったはずだ。

 ルーベウムの炎で燃えた短剣の鞘と、ルーベウムの抱っこ紐を作りたい。


「そういえば、これ何の革なんだろうか」


 ゼノビアからまとめてもらった革を、加工しやすさで選定したものだ。

 初めての革加工だったので、加工しやすさを優先してしまった。


 そのせいかルーベウムの炎ブレスで簡単に燃え尽きてしまった。

 炎に耐性のある素材ではないのは確かだ。


「ひとまず素材を厳選しよう」

 俺は手持ちの革素材を机の上に並べる。

 鞘を作ったときは、適当に選んだがしっかり調べたら何の素材か判別できるはずだ。

 判別が簡単な革から確定していく。


「これは大飛鼠ジャイアントバットだな」

 体の革と、羽の飛膜それぞれある。

 柔らかくて耐久性も高いが薄すぎる。鞘にも抱っこ紐にも適さない。


 後は魔鰐とか魚系の革もあった。

 この辺りは鱗の形状などで判別できる。


「これらは耐久性が高くて、厚みもあるから、使えるかもしれない」

 ひとまずの候補にしておこう。


 だが、加工が大変だ。

 ゼノビアは鞣したりせず、素材のまま魔法の鞄に入れていた。

 革というより皮と言った方がいいかもしれない。

 当然、魔法で加工する必要があるのだが、爬虫類系は難しいのだ。


 次に俺は哺乳類系の革の判別に入る。

「これは……魔豚の革だな。いや、魔牛かな?」

 魔馬や、魔羊の可能性もある。

 部位によっても特性が違うので判別が難しい。


「魔狼や魔犬、魔狐、うーん」


 俺は少し考えて結論を出す。

「ひとまず、加工しやすい奴にしよう。明日にでもゼノビアに炎耐性の高い革をもらえばいい」


 練習を兼ねて、俺は加工のしやすい魔牛の革を選ぶ。

 魔法で加工してから、切断し縫合し成型する。


 一度作ったことのある鞘は比較的簡単にできた。


 抱っこ紐も、基本の形状自体は複雑ではない。

 だが、機能性を考えると少し難しい。


 ルーベウムが快適に眠れるようにしないといけないからだ。

 加えて、俺が抱っこしやすく、動きやすくなければいけない。


「とりあえず完成」


 魔法の鞄に放り込んでおいた短剣を鞘に納める。いい感じだ。

 抱っこ紐は明日ルーベウムが起きて来てから使えばいいだろう。


 そして、俺は寝室に移動して眠る。

 サリアはフルフルに抱きついて眠っていた。

 ルーベウムとフィーはルンルンにしがみついている。


 俺がベッドにもぐりこむと、ルンルンが気付いて顔を舐めてくる。

 俺はルンルンを撫でながら、眠りについた。




 次の日、朝ご飯を食べてから、アルティ、ティーナ、ロゼッタと訓練をした。

 場所はいつもの訓練場だ。

 アルティたちは俺との訓練前にゼノビアたちから指導を受けている。

 本当にみんな努力家だ。


 訓練が終わった後、休憩しながら俺は皆に聞いた。


「今日も授業休みだっけ?」

「うん。大体五日間授業があった後二日休みらしいね」

 ロゼッタが教えてくれた。


「そうなんだ。結構休みあるんだね。少し意外かも」

「最初のホームルームで言ってたよ」


 俺も最初のホームルームには出席したが、話を聞いていなかった。

 今度から、ちゃんと先生の話を聞こう。


 そんな会話をしている間、訓練場の端の方では、サリアとローズが遊んでいた。

 託児所は年中無休だが、授業のある日は勇者の学院の授業日と同じなのだ。

 だから、今日も俺はサリアと一緒に過ごす。


「きゃっきゃ!」

「わふわふ」

 神獣たちがサリアたちと遊んでくれていた。

 フィーとルーベウムだけが俺の横で眠っている。


「そうだ。ロゼッタ、弓を一応作ったんだけど、どうかな?」


 ロゼッタが今使っている弓は、試練の際に俺が即席で使ったものだ。

 今もゆっくりと劣化が進んでいる。


「え、ありがとう。すごく嬉しい」

「まだ試作品というか……特に弦の素材がしっくりこなくて……」


 今の弓は使い心地を聞くために、市販品の弦に魔法をかけた物を使っている。

 弓本体は中々の出来だと思うが、弦の出来には納得できていない。


 ロゼッタは弦を何度か軽く引く。


「すごくいいよ! ありがとう! ものすごく使いやすいよ」

「それなら嬉しいけど……。弦がいまいち納得いってなくて……」

「え? 充分弦もいい品質だと思うけど……」

「一応、ちょっと試射してくれない?」

「うん、わかった! やってみるね」


 そういって、ロゼッタは立ち上がった。

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