第92話

 ここは訓練場なので、端には射撃用の的なども用意されている。

 試射には最適なのだ。


「立派な弓ですわね」

「見事な弓です」

 ティーナとアルティも弓を見て感心してくれている。

 みんなに褒められると、少しだけ照れてしまう。


 俺たちは訓練場の端に移動する。


「じゃあ、いくね」

「うん、お願い」


 ロゼッタは矢をつがえて、ゆっくりと引き絞って、放った。

 放たれた矢は、いい音をたてて的の中心に突き刺さる。


「さすが、ロゼッタね!」

「いい腕です」

「いや、ウィルの弓がいいんだよ」

 ロゼッタは謙遜するが、どんなにいい弓だろうと腕が悪ければ意味はない。

 命中させたのはロゼッタの腕である。


「ロゼッタ、どう――」

 使い心地を聞こうと思ったのだが、既にロゼッタは次の矢をつがえていた。

 そして連続で矢を放つ。ものすごく速い連射だ。

 三秒に一発のペースで矢を放つ。

 その速さで射ているのに、全て的には当たっている。

 さすがに全矢が的の中心に当たるわけではないが、大したものだ。


 三十本ほど矢を射た後、ロゼッタは笑顔でこちらを振り返った。


「凄くいい弓だね! うん、凄くいいよ!」

「ありがとう。こうした方がいって箇所はある?」

「申し分ないよ!」

「じゃあ、それあげるから、しばらくそれを使っておいてくれたら嬉しいな」

「本当にいいの?」

「もちろん。使っているうちに何か気付いたことがあれば教えて。今後に生かしたいし」


 実戦で使ってもらってはじめてわかる不満点などもあるだろう。

 だから、俺は使ってもらうことにした。

 ロゼッタはものすごく感謝してくれた。

 ロゼッタに使ってもらうことで、俺の弓制作技術も向上するに違いない。

 こちらこそ感謝したいぐらいだ。




 それから、俺はサリアと神獣を連れて総長室へと向かう。

 武器の素材をもらうためだ。

 サリアを連れて行くのは、弟子たちに妹を一度合わせておくべきだと思ったからだ。


 総長室の扉の前に立つと、ノックする前に中から声がした。

「入りなさい」

「失礼します」


 俺たちが中に入ると、ゼノビアが急いで走ってくる。


「この方がサリアちゃんですね」

「そうそう。紹介しておこうと思って」

「ありがとうございます」


 ゼノビアを前にしても、サリアはまったく物怖じしない。


「おねえちゃんだれー?」

「おねえちゃん!」


 お姉ちゃんと呼ばれて、ゼノビアは感動しているように見えた。

 若く見られて嬉しいのかもしれない。

 エルフだから老いないのだから、若く見られるのは当然だと思うのだが。


「さりあはさりあだよー」

「私はウィルのお友達のゼノビアですよ、よろしくね」

「あにちゃのともだち! ぜのびあねーちゃん、よろしくね!」


 それからゼノビアはシロに頭突きを食らいながら、ほかの弟子たちに連絡を取った。

 すぐにミルト、レジーナ、ディオンがやってくる。


 俺はミルトたちにもサリアを紹介した。

 弟子たちとサリアが、それぞれ自己紹介を済ませる。

 弟子たちは、俺が師匠だと言うことは明かさず、友達であると自己紹介してくれた。

 サリアは特に怪しいとは思わなかったようだ。


「うわー、おっきい!」

 サリアはディオンに興味を持った。


「はい、私は大きいのです」

「だっこ、だっこしてー」

「もちろん構いませんよ」

「ありがとー」


 ディオンはサリアを抱き上げた後、

「肩車しましょうか?」

「かたぐるま! やったー」

 サリアを肩車する。


「すごくたかい!」

「めええべええ」


 肩車されているサリアをシロがうらやましそうに下から見ている。

 シロはディオンの足に頭突きしていた。自分も登りたいとアピールしているのだろう。


「シロは後で抱っこしてあげますね」

「めえ」

「ウィル。竜人族以外の小さい子に怖がられないのは久しぶりです」

「ディオンは身体が大きいものな」


 ディオンの身長は二・五メートルあり、立派な尻尾もある。

 怖がる子供も多いのだろう。


「きゃっきゃ! たかいたかい!」

「ふふ、嬉しいものですね」

「それはよかった」


 ディオンは嬉しそうに、大きな尻尾をゆっくりと揺らしていた。

 それからディオンはシロを抱えて頭の上に乗せた。

 サリアもシロも大喜びだ。


「でぃおんちゃん、でぃおんちゃん!」

「どうしました?」

「あれみたいー」「めええ」

「ああ、あの彫刻ですね。あれは壊れやすいので触ったらダメですよ」

「わかったー」「めえ」


 ディオンはサリアを肩車し、シロを頭の上に乗せて、ゼノビアの部屋を歩き回る。

 その間に長椅子に座って俺とゼノビアたちはお話しする。


「今日はサリアを皆に会わせたかったというのもあるのだけど……」

「ほかにも用があるのか? 何でも言ってくれ」

 サリアがいるので、敬語を使わないでくれている。


「ゼノビアありがとう」

「ウィルのことだから、武器の素材とかでしょ?」

 レジーナはとても鋭い。


「うん。武器の素材が欲しくて……。弓の弦に適した素材があれば助かるのだけど」

「弓の弦かー。それならいいものがあるよ!」


 レジーナがどや顔でそう言った。

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