第90話

 魔法の鞄から、先日ゼノビアたちから貰った金属を出していく。


「オリハルコン……いやミスリルかなー?」

「ゎぅぁぅ」

「やっぱり合金の方がいいかな?」

「ぁぅ」


 ルンルンは真面目に考えてくれている。

 犬なのに、弓のことにも詳しいようだ。博識な犬である。


 小さい頃、俺と一緒に本を読んだりしていたからかもしれない。

 サリアのお世話をしている間に本を読んだりしていたのかもしれない。

 もしくは、ヴォルムス本家の家臣たちの武器を観察していた可能性もある。


「やはり、オリハルコンとミスリルを合わせようかな」

「ぁぅ」

「魔力の込め方が難しいけど、うまくいけばいい弓になりそう」

「ぁぅぁぅ」

 ルンルンも賛成してくれた。


 早速、俺は弓の制作に入る。

 オリハルコンとミスリルに魔法を使って熱しながら、魔力を流し込む。

 そして合金のインゴットを作成する。

 肝心なのはオリハルコンとミスリルの配合比率だ。

 配合比率が、しなやかさと強度を決めるのだ。


 それに加える熱と、流し込む魔力の量と早さも重要だ。

 魔力の量が多すぎても少なすぎても、うまく合金にならない。

 それに魔力注入が遅すぎても早すぎても、うまくいかない。


 …………

 ……


「……ふう。何とかうまくいった」

 我ながら、武器制作技術が上達したのものだと思う。


「ゎぅっ!」

 ルンルンも褒めてくれている。尻尾がビュンビュン揺れていた。


「ありがと、ルンルン」

 俺はルンルンの頭をなでる。


「さて次は……」

 インゴットを魔法で弓の形に成型していくのだ。

 以前は合金を作るだけで疲れ果ててしまったが、今では引き続き作成できるぐらい慣れた。


 弓への成型も簡単ではない。

 簡単に変形しない金属を魔法で無理やり変形させるのだ。

 絶妙なる魔力調整とかなり多量の魔力が必要となる。


 集中力を要する作業だ。

 俺は汗だくになりながら弓を成型していく。

 ルンルンも前足を揃えてお座りしながら、真剣な目でこちらを眺めている。


 …………

 ……


「よし!」

「ゎぅ!」

 ルンルンも完成を祝ってくれている。

 俺の両肩に両前足を置いて、顔をぺろぺろ舐めてくれた。

 俺もルンルンをワシワシ撫でる。


「ふう、やっと完成したよ」

「ぁぅぁぅ!」

「む? あっ」


 完成に喜んでいた俺は、弓には弦が必要だということをうっかりしていた。

 ルンルンが指摘してくれたので思い出せた。


「弦かー。普通の弓の弦を魔力で強化したものでもいいんだけど……」

「ゎぅ」


 オリハルコンとミスリルの合金で弓を作ったのだ。

 折角だから、弦もしっかり作りたい。


「弦の材料に適した素材って何があるかな?」

「ゎぅー?」

 ルンルンも考えてくれている。

 だがすぐには思いつかないようだ。


「うーん。繊維状の頑丈な物質……。巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーの糸とか?」

「ぁぅっ!」

 ルンルンもそれがいいと思う! と言ってくれている。


「よし、あとでゼノビアたちに何かないか聞いてみようか」


 そんなことを話していると、

「あにちゃ、なにやってるのー?」

 サリア、フルフル、シロがやって来た。


「おお、サリア。それにみんなも起きたんだね」

「うん」

 サリアはフルフルをぎゅっと抱っこしている。

 そして、シロは俺の足に一生懸命頭突きしていた。


「わー、かっこいい」

 サリアは製作途中の弓を興味津々な様子で見る。


「これは弓を作っていたんだよ」

「そうなんだー、すごいー。さわっていい?」

「いいよ」

「ふわー。つるつるしてるー」

「金属だからねー」

「きらきらー」


 弓の表面は鏡面のようにきらきらしていた。

 これでは目立ちすぎだ。冒険には向かない。

 特にロゼッタはスカウトなので隠密行動をする機会も多い。


「あっ、反射しないように表面加工するの忘れてた……」

「……わう」


 ルンルンも「気づかなかった……」と少し反省気味だ。

 サリアが起きて来たので、少し鳴き声が大きくなっている。


「あとで、しっかり艶消し加工しないと」

「えー、きれいなのにー」

「仕方ないんだよ」

「そうなんだー」


 そんなことを言いながらサリアは俺の右の太ももに抱きついた。

 ちなみに左の太ももにはシロが頭突きをしている。


「……きゅるきゅる、きゅーんきゅーん」

 その時、突然ベッドの方でルーベウムが鳴きだした。


「ルーベウムも起きたみたいだね」

 俺たちはルーベウムとフィーが寝ている寝室へと移動した。

 ルーベウムはベッドの上でフィーに抱きつきながらキュルキュル鳴いていた。

 そして、フィーはまだ眠っている。


「ルーベウム、どうした――」

「きゅるー」


 俺の姿を見たルーベウムは胸を目掛けて飛んできた。

 そして、ヒシっとしがみつく。

 目が覚めたら誰もいなくて寂しかったのかもしれない。

 赤ちゃんだから仕方がない。


 俺はルーベウムを優しく撫でた。


「るーちゃんはさみしんぼうだねー」

 サリアも俺と同じようにルーベウムを優しく撫でた。

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