第89話

 俺はルーベウムを撫でる。

「随分と食べたね」

「みんな、ありがと。おいしかった」


 ルーベウムはご飯を食べさせてくれたみんなにお礼を言って回る。

 ふわふわ飛んでいるが、いつもより体が重そうだ。


「ありがと、おいしかった、ごちそうさま。きゅるる」

 ルーベウムは食堂の職員さんたちにもお礼を言って回っていた。


「おお、わざわざありがとうな! いっぱい食べて大きくなるんだよ!」

「きゅるる」

 ルーベウムはどうやら、礼儀正しい赤ちゃん竜らしい。


 職員さんたちへのお礼を言い終えると、俺のひざの上に乗ってくる。

 やはり朝ご飯を食べる前より相当重くなっていた。

 三倍まではいかないが、倍以上には重くなっている。


「お礼を言えて偉いね」

「きゅるう」

 ルーベウムは大きくあくびをすると、丸くなった。


「眠たくなったの?」

「……きゅる」


 もう半分眠りかけていた。

 ルーベウムはまだ赤ちゃんなので、沢山眠る必要があるのだろう。

 寝る子は育つと言うし、沢山眠って、食べて、立派に育って欲しいものだ。


 皆の食事も終わったので、俺はルーベウムを優しく抱き抱える。


「お皿を下げるのは、あたしに任せておくれ!」

「わたくしも手伝いますわ!」

「ウィルはお気になさらず」


 三人が、手分けして食堂の食器回収場所に食器類を持って行ってくれる。


「ありがとう、すごく助かる」

「ルーちゃん起したら可哀そうだもんね」

「抱っこ紐とか用意した方がいいかもしれない」

 それがあれば、ルーベウムを抱っこしたまま作業ができる。


「シロも赤ちゃんなのに、眠らなくていいの?」

「めえ?」

 シロは元気だ。

 口の周りがミルクでべったりなのをフルフルが体で綺麗にしてあげていた。



 それから、みんな自分の部屋に戻っていった。

 俺はサリアと神獣と一緒に自分の部屋に戻る。


 ルーベウムをベッドに寝かせてから、みんなで遊ぶ。

 最近、サリアと遊ぶ時間が少なかった。できるだけたっぷり遊んであげたい。


「あにちゃ、あにちゃ!」

「どうしたの?」

「ここもってー」

「ほいほい」


 サリアが色々お願いしてくるので、ひたすら付き合う。

 ルンルンやシロ、フルフルとフィーも交えて遊んだ。


 しばらくして、ルーベウムが起きて来たので、サリアと神獣と一緒に散歩に出かける。

 サリアを肩車して、ルンルンたちと勇者の学院の広い敷地を走り回った。

 ルンルンとのふれあいも不足していた。

 だから、たくさん遊んであげたかったのだ。


「きゃっきゃ! あにちゃはやーい」

「わうわう!」


 サリアもルンルンも大喜びしてくれる。

 シロもフルフルも、ルーベウムも楽しそうに走っている。

 フィーはサリアの肩の上に座っていた。


 お昼までたっぷり遊んで、食堂でお昼ご飯を食べた。

 それから、自室に戻る。

 するとサリア、フィー、シロ、フルフル、ルーベウムはお昼寝を始める。


 サリアはシロをぎゅっと抱きしめて、気持ちよさそうに眠っている。

 フィーとルーベウムはフルフルの上で眠っている。


 俺はルンルンと、長椅子に座ってゆっくり過ごす。

 俺が椅子に座っていると、ルンルンが隣に伏せる。

 そして、顎をひざの上に乗せてくる。俺はそんなルンルンの頭を撫でる。


「ルンルン、いつもありがとうね」

「はっはっはっは」

 ルンルンは舌を出して呼吸しながら、尻尾を振る。


「ルンルンと一緒に行動したいんだけど……。サリアを一人にするのが不安で」

「はっはっは、きゅーん」


 ルンルンは小さな声で甘えて鳴く。

 サリアたちを起さないように気を使っているのだろう。

 そして、ルンルンは俺の顔をぺろぺろ舐め始めた。


 ルンルンは「わかっているよ、任せて」と言っている。

 俺もルンルンも神の眷族同士なので、伝えたいことがわかるのだ。



 たっぷりルンルンと触れ合った後、俺は武器製作部屋と化している部屋へと移動する。

 ルンルンもついて来てくれる。


「今から武器を作ります」

「ぁぅ」

「今回作るのは、ロゼッタの弓です」

「ゎぅ」


 俺はロゼッタの戦闘している様子を脳裏に思い浮かべる。

 身長、手足の長さといった体格。

 筋力や魔力の強弱と使い方。姿勢などを加味して弓の大きさや形状、素材を考える。


「素材は……。しなりが必要だから、金属だとちょっと良くないかな。ルンルンどう思う?」

「ぁぅ」

「そっかー。そうなると木かなー」


 弓の強さ自体は、さほど強くなくてもいい。弓は強ければいいというものではないからだ。

 使い手の弓を引く膂力以上には弓は強くすることはできない。


 あまりにも強力にしすぎれば、使い手が引くことすら出来なくなってしまう。

 それでは全くもって意味がない。


「ロゼッタの膂力に合わせた弓となると……。木でも充分なんだけど」

「ゎぅ」

「そうなんだよね。木だと攻撃を防いだ時に壊れやすいのが困るんだ」


 実際、ロゼッタの弓が壊れたのは、大飛鼠ジャイアントバットの攻撃を咄嗟に弓で防いだからだ。


「うーむ。やはり金属かな?」

「ぁぅぁぅ」

「そだね。弾力性の調整は魔力の込め方次第でなんとかなるかな?」

「ゎぅ」


 俺はルンルンと相談しながら弓制作の基本方針を決めていった。

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