第88話

 託児所につくと、俺の妹サリアと、ロゼッタの妹ローズがパタパタと駆けて来た。

 その後ろからは、犬神の眷族である大きな白い犬のルンルンがついてきている。


「サリア。おはよう」

「あにちゃ! おかえり! おはよ!」

 俺はサリアを抱きかかえる。


「えへへー」

 サリアは甘えるように、俺の胸に頭をこすりつけている。

 サリアの頭皮の匂いがした。

 俺はサリアの柔らかい栗色の髪を優しく撫でた。


 それから、ルンルンのモフモフの体も撫でる。

「ルンルンも、ありがとうね」

「ぁぅ」

 ルンルンは尻尾をゆっくりと振る。


「あにちゃ! そのこだれ?」

「ルーベウムとフィーだよ」

「るーちゃん、ふぃーちゃん、さりあだよ!」

「フィーよ、よろしくね。かわいい子ね!」

「ありがと」

「きゅるるー」


 ルーベウムはサリアの頭を優しく撫でる。

 そして、サリアのほっぺをぺろりと舐めた。


「るーちゃん、くすぐったいよー」

 そう言いながら、サリアはキャッキャと喜んでいる。


「ルーベウムありがと」

 賢い竜にとって、顔を舐めるのは友好の証。

 ルーベウムはサリアを仲間と認めてくれたのだ。


 それからローズにもフィーとルーベウムのことを紹介してから食堂へと向かう。

 勇者の学院の食堂は年中無休なのでとても助かる。


 俺は食堂でサリアと神獣たちのご飯も用意する。


「フィーは何食べるの?」

「人と変わんないよ」

「そっか。じゃあ、俺たちと同じでいいかな」

「うん!」


 食堂にはロゼッタとローズの他に、ティーナとアルティもいた。

 そこで、みんなで仲良く一緒に食べる。


 ルンルンとシロ、フルフルは床に置いた餌皿からご飯を食べる。

 ルーベウム、フィーは小さいので机の上に乗せて食べさせることにする。


「べええぶべえええ」

 シロは相変わらず顔をミルクの中に突っ込むようにして勢いよく飲んでいた。

「シロ、もう少し落ち着いて食べなさい」


 ほかの神獣たちはみな行儀がいい。

 ルーベウムも静かにハムハム肉やゆで卵を食べている。


「あい、ふぃーちゃん。あーん」

「ありがと。でも自分で食べられ……」

「これもおいしいよ、あーん」

「あ、ありがと」


 サリアはフィーを自分の皿の横に座らせて、嬉しそうにご飯を食べさせている。

 フィーはサリアより小さいので、妹みたいに思っているのかもしれない。


「サリア、自分のを先に食べちゃいな」

「あいっ! でもふぃーちゃんが……」

「だいじょうぶだよ。フィーのことは俺が見ておくからね」

「あい」


 サリアは自分のご飯を食べる。

 そして合間合間にフィーに食べさせようとする。

 いつもより食事の時間が倍ぐらいかかりそうだ。


 その様子を見ていた、ルーベウムが俺の皿の横に来て、

「きゅるきゅる」

 鳴きながら、口を大きく開ける。まるでひな鳥のようだ。

 俺に食べさせろと、要求しているのだろう。


「仕方ないなー」


 俺はルーベウムにご飯を食べさせてやる。

 口を開けるので小さく切ったお肉を入れていく。


「まるでひな鳥みたい」

 ロゼッタが俺とルーベウムを見ながら、微笑んでいる。


「そうね、可愛いわね。わたくしもルーベウムにご飯をあげてもよろしいかしら」

 ティーナがそう言うと、

「私も食べさせたいです」

「あたしもあたしも」

 アルティとロゼッタも続く。


「さりあも!」

「ローズもあげるの!」


 幼女たちもあげたいらしい。

 ご飯を食べるルーベウムが可愛いので、そうなるのも当然だ。


「順番だよ。きゅるー」

 ルーベウムは得意げに羽をバタバタさせた。

 そして、みんなからご飯を食べさせてもらってご満悦だ。


 俺は自分のご飯を食べながら、ルーベウムの様子を見る。

 随分と沢山食べさせてもらっていた。


「ルーベウム、かなりたくさん食べるんだね。お腹壊さない?」

「育ち盛り」

 そんなことを言っている。


 ルーベウムは体の大きさ以上にご飯を食べている。

 ちょっと持ってみると、相当重くなっていた。


「重たくはなるんだね」

「当たり前なのだ」

「そっか」


 俺はルーベウムと神霊であるフィーを見ながら考える。

 フィーもサリアから結構食べさせられていた。


 竜であるルーベウムは、神獣だが、普通にご飯を食べるはずだ。

 シロやフルフル、ルンルンと同じである。


 だが、フィーは神霊。精霊の神獣のようなものだ。

 精霊はあまりご飯を食べない。


「フィーは……お腹減るの?」

「減るー」

「飢え死にとかするの?」

「わかんない」


 それを聞いていた、ティーナが言う。

「フィーちゃんは精霊なのですから、食べなくても死なないはずです」

「それはそうだよね。ご飯を魔力に変換できたりするのかもしれないけど……」


 俺が魔力を供給すれば、フィーはご飯を食べなくてもいいのかもしれない。


「わかんないけど、ご飯はおいしい」

「おいしいよね」


 必要はないとしても、ご飯を食べたいというフィーの気持ちはわかる。

 余裕があるときは一緒にご飯を食べさせてあげた方がいいだろう。


「きゅるる、お腹いっぱい」

 ルーベウムがついに満腹になったようだった。

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